未来の法廷

だいぶ以前のことであるが,「弁護士のくせに口下手だな」的なことを言われたことがある。その時は特に反論しなかったのだが,「弁護士=雄弁」という誤解は結構広く流布しているようである。実は,最近,妻にまでそれっぽいことを言われて,ちょっと凹んだ。

僕たちの仕事は法的主張を組み立て,それを裁判所に理解してもらうことだ。そして,そのための説明は通常,書面で行われる。だから,大抵の弁護士は書面の作成には長じているが,そのことは当然には弁論スキルの向上に結びつかない。弁護士=雄弁とは,映画やテレビドラマが作り出した幻影と考えて良い。

一方,大学院ではプレゼンの機会が実に多い。たとえば僕の場合,入学以来,もう6回も発表を行っている。そして,そのような経験を重ねた結果,自分のプレゼン能力は大きく向上したと感じている。なにしろ,極度の汗っかきの僕が,今や大教室一杯の聴衆を前にしても,殆ど汗をかかなくなったのである。

僕はどんなに頑張っても,多分,雄弁な弁護士にはなれない。けれど,楽しいプレゼンをする弁護士になら,あるいは,なれるかも知れない。裁判が「楽しい」だなんて言うと,即座に「不謹慎!」という声が聞こえてきそうである。しかし,「遊び心」というものは,どんな職場にも必要だと思うのだ。これは,陰鬱な事件を扱う裁判所だって(というか,そんな裁判所だからこそ),少しも変わるところはない。

もし,自分で作ったパワポのスライドを使って,法廷でガンガン,プレゼンバトルができたら,どんなに楽しいだろう。そして,それは決して夢物語ではない。ネットとコンピュータは今も世界を変え続けている。僕らの業界だけが,その外であり続けることなどできるだろうか?僕は未来の法廷が「逆転裁判」みたいになればいいと考えている。

田中一哉

1969年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在,ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除,投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

関連記事

  1. 奇妙な出来事

  2. 7年目のスタートライン

  3. 弁護士会研修の講師

  4. はじめまして

  5. 当番ブルース

  6. 弁護士生活3ヶ月(平成19年12月頃の文章)

  7. 関あじとイノベーション

  8. ぼくらの本

PAGE TOP