探索的仮処分,あるいはIPアドレスに依存しない発信者情報開示請求の可能性

発信者特定のためには,IPアドレスとタイムスタンプを元に,プロバイダに発信者情報の開示を請求するのが一般的である。しかし,何らかの理由で発信者のIPが不明な場合,その特定は不可能か?

この点,IPは発信者特定のための有力な手掛かりではあるものの,不可欠な要素とまでは言えない。たとえば,携帯端末の場合であれば,個体識別番号さえ分かれば,発信者の特定が可能である。すなわち,発信者にユニークな他の情報があれば,必ずしもIPは必要ない。そして,十分に注意深い観察者にとって,そのような情報を得ることは難しいことではない。

ただ,IPが分からないということは,発信者の契約しているプロバイダも不明ということである。そのため,このようなIPに依存しない開示請求の実現には,不特定多数のプロバイダを相手方とする,探索的な仮処分の認容が不可欠となる。

この点,仮処分命令の発令には,プロバイダが当該情報を保有していることが前提となる。しかし,多くの場合,債権者は,申立の時点において,その保有を確認できない。「ログが残っているか分からないけれど,とりあえず請求してみよう」というケースは,ままあることなのである。すなわち,プロバイダのログ保有は発令の要件ではあっても,申立の要件ではないと考えられる。とすれば,上記のようなプロバイダのログ保有を前提としない探索的仮処分も認められるべきではないか?

結論から言えば,このような探索的仮処分の申立は却下されなかった。1つの申立書で,3つのプロバイダを相手方とする,IPに依存しない発信者情報消去禁止仮処分命令の申立が,昨日,認められたのである。ちなみに,相手方が3社に留まっているのは,このような類型の申立が認められるか不明であったため,僕が印紙代をケチったせいである。この点に関する懸念を度外視すれば,1つの申立で,国内全てのプロバイダに対して一括して探索的仮処分を行うことも理論上は可能と思う。

田中一哉

1969年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在,ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除,投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

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