遠隔操作が多すぎる

パソコン遠隔操作事件以来,被告側から「パソコンが遠隔操作された」旨の主張が増えた。「増えた」というより「花盛り」と言って良い状況であるが,果たしてこのような主張が通るか。

結論からいうと「通らない」と思った方がよい。多くの場合,裁判所は「プロバイダから開示された契約者=投稿者」と推認してしまうからである(東京地裁平成27年1月18日,東京地裁平成27年11月5日,東京地裁平成27年12月8日)。このような状況下では,遠隔操作の事実について,被告側で立証しなければならない。よって単に「遠隔操作された」というだけでは,被告はその責めを免れられない。

このような実務の取り扱いについては「冤罪を生む」として反対する立場もある。しかし,同時に重複して使用されないというIPアドレスの性質に照らせば,これにより特定された契約者を投稿者と見ることには合理性がある。また,遠隔操作に関する証拠(遠隔操作ウイルス,ルーターのログなど)は被告側にあるのが通常だから,これについて被告に立証責任を課すことはむしろ公平といえる。

実際の訴訟では,遠隔操作以外にもVPNサーバーFonルーター無線LAN乗っ取りCSRF(Cross site request forgeries)など種々のなりすまし手法が主張される。ただ,これらに具体的証拠が伴うことは稀で,多くは一般的・抽象的リスクの存在について文献等が提出されるに留まる。そして,このような曖昧な主張・立証で裁判所がなりすましの事実を認定することはまずない。

以上は「なりすましの主張」が嘘である場合の話。それでは不幸にも,本当になりすまし被害に遭った場合はどうすればよいか。最も簡単なのは警察に被害届を出すことだろう。運が良ければ,警察がなりすましの証拠を発見してくれるかもしれない。ただ,ネット事件を疎んじるお巡りさんも多いので,確実とはいえない(なお,虚偽の被害を申告した場合,虚偽告訴罪(刑法172条)で罰せられる恐れがあるので要注意である)。警察が十分対応してくれない場合には弁護士などの専門家に相談することも検討すべきだろう。

もし,何らかの理由でこのような措置がとれない場合,自分で証拠を保全するしかない。具体的には,悪用された恐れのある全機器の使用を速やかに中止し,電源を切ってそのまま保存すべきである。その際,間違ってもパソコンの初期化などは行わないこと。そのようなことをすると,せっかくの証拠が消えてしまうばかりか,証拠隠滅を図ったとして,後々面倒なことになりかねない。あくまで「即時かつ現状のまま」保存するのが肝要である。

田中一哉

1969年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在,ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除,投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

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