人工知能は弁護士を殺すか

グーグルのAI(AlphaGo)が人類最強の棋士を敗った(Google曰く:囲碁チャンピオンを破ることで、人工知能が「人間に見えない答を見つけられる」ことを示した-TechCrunch Japan)。AIはこれまでもチェスや将棋で人類を降してきたから,この結果自体は予測されたものである。ただ,その時期が,これほど早く訪れたことには誰もが驚いた。

AIを巡っては,昨年10月,以下のような記事もあった。

人工知能は弁護士を絶滅させていく(WIRED 2015.10.28)
人工知能(AI)が、弁護士を絶滅させつつあるようだ。最近の調査で、調査対象となった法律事務所の幹部たちは、新任の弁護士やパラリーガルは、10年以内に、「IBM Watson」のような人工知能に取って代わられる可能性があると回答しているのだ。この調査では、50人以上の弁護士を抱える法律事務所320社の上級弁護士から、匿名で回答を得た。その結果、回答した法律事務所幹部の約半数は、「AIによって、パラリーガルという職業が葬り去られる可能性がある」と述べている。また、約35パーセントは、「今後10年以内に、AIが新任のアソシエイト(若手弁護士)に取って代わる」と考えていることがわかった。2011年に実施された同様の調査では、こう答えた回答者は全体の25パーセントを下回っていた。さらに、約20パーセントは、「勤続2年目や3年目の弁護士も、10年以内にAIに取って代わられる可能性がある」と回答した。

恐らく,この予測は早晩現実化するものと思われる。法律文書の作成は優れて論理的な作業だからである。言い換えれば,この分野はAIに親和性があるということ。早ければ10年以内にも,僕たちはAI製の書面と法廷で対峙することになるだろう。そうなったとき,人間の弁護士はいかにして対抗すればよいか。

弁護士にとって幸運なのは,予測しうる将来において,裁判官がAIに置き換えられる可能性は低いということ。AIを使うことには抵抗を覚えない人も,AIによって裁かれることまで容認するとは考えにくいからだ。よって,仮にAI製の書面が出現しても,それを読み,評価するのは当面人間であることが予想される。そして,人間の裁判官の前では,論理を尽くした書面が常に高い評価を得るとは限らない。それゆえ,このようなゲームマスターの特質に最適化した書面の追求こそが,AIへの有効な対抗手段たりうる。

AIの脅威はこれまで日本の弁護士が直面してきたいかなる危機とも性質が異なる。多くの場合,後者には勝者がいたが,前者には敗者しかいないからである。日弁連は一刻も早くAIの発達が裁判に及ぼす影響について研究を始めなければならない。さもなくば,20年後,僕たちは訴訟代理人という職域自体を失っている可能性がある。

田中一哉

1969年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在,ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除,投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

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