学会デビュー

情報ネットワーク法学会で研究発表を行った。題目は「仮処分手続を利用したIP偽装ツール悪用者の特定手法の提案」。僕の通う大学院では在学中に1度は外部発表を行うことが推奨されていて,しないと成績に響く(らしい)。そのため,僕も四十半ばにして学会デビューすることになったわけである。

個別発表は4つの会場で並行して行われた。だから「自分の発表を聞きに来る者など,そうは居まい」と思っていたら,意外にも開始前に7割方座席が埋まってしまった。多少の動揺を感じつつも,発表を開始。持ち時間28分間の僕の「初舞台」は恙なく終わった。

発表後,多くの方々から質問や励ましの言葉をもらった。また,北大の町村先生にはご自身のツイッターで発表の概要をご紹介いただいた。こうした反応はもちろん嬉しかったのだが,同時に何か悪戯を見つけられた時のような,恥ずかしさとバツの悪さも感じた。

僕は大学院に入るまで,学会発表なんて遠い世界の出来事とばかり思っていた。けれど,そんなのは単なる思い込みで,実際にはそこへのアクセスを妨げるものなど何も存在しなかった。そして,このような思い込みがどこから来たかを考えると,「楽をしたい」,「リスクを冒したくない」という自身の怠惰と怯懦に行き当たる。

僕たちはリアルの世界を「不自由」と感じることが多い。それは特にネットと対比した場合に鮮明であるかのように思える。けれど,このような「不自由感」を惹き起こしているのは,実は,僕たち自身の感情ではないのか。だとすると,僕たちがこのような感情を克服できた時,リアルはネットと同等以上に,自由で境目のない世界に変わる可能性がある。そして,そのために必要なのは「初めの一歩」を踏み出すための,ささやかな勇気だけだ。

田中一哉

1969年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在,ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除,投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

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