ネット上の名誉毀損について知っておくべき10のこと

ネット上の名誉毀損について,重要と思われる事項を纏めてみました。

1.匿名掲示板でも投稿者を特定できる

 2ちゃんねるなどの電子掲示板では,投稿者のIPアドレスを記録しています。このIPアドレスには「同時に重複して使用されない」という性質がありますので,投稿日時と投稿に使われたIPアドレスさえ分かれば,投稿者を特定することが可能です。我が国では「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダ責任制限法」)に,そのための要件や手順が規定されています。この法律の下,今日では,悪質な投稿者の個人情報は比較的容易に被害者に開示されている状況にあります。「匿名掲示板だから投稿者を特定できない」というのは,もはや過去の話と考えるべきでしょう。

2.「本当のこと」でも名誉毀損になる

「真実を書いたのだから,名誉毀損ではない」という誤解は,未だによく耳にします。しかし,「虚名も保護する」というのが日本の裁判所の立場なので,投稿内容が真実かどうかは名誉毀損の成否に影響しません。もっとも,①公共の利害に関わる事柄について,②公益目的で,③真実(あるいは真実と合理的に考えられる事実)を書き込んだ場合には,行為の違法性が阻却されます。ただ,そのような違法性阻却が認められるケースはごく稀で,私人対私人の関係では,まずありえないと思っておいた方が良いです。

3.ハンドルネームに名誉毀損は成立しない

 よくよく話を聞くと,中傷被害を訴える人がハンドルネームしか使っていないことがあります。このような場合には,裁判所は名誉毀損と認めてくれません。そもそも,名誉毀損とは「被害者の社会的評価を低下させること」をいいます。けれども,ハンドルネームに対する中傷では,その使用者の社会的評価(現実世界における評価・評判)は少しも低下しませんから,名誉毀損とはならないのです。もっとも,ハンドルネームが,芸能人の芸名や有名作家のペンネームのように,実名並の社会的通用性を備えている場合は別です。

4.書き込みした本人は削除請求できない

「自分の書き込みを削除したい」という相談は意外と多いです。しかし,法的手続によっては,このような削除はできません。裁判手続において,請求者は「自分の名誉権が侵害されていること」を理由に削除請求するのですが,投稿者自身の名誉権は,書き込みによって侵害されていないからです。一方,裁判手続によらない請求(任意の削除依頼)については,投稿者本人も行うことができます。ただ,そのような請求は,被害者の立場からすると証拠隠滅にあたる面があるので,それを弁護士が受任するのは問題があるように思います(少なくとも,私はそのような依頼は受けません)。

5.裁判所の認める慰謝料は低額

 被害者の中には「裁判を起こせば多額の慰謝料が取れる」と思い込んでいる人がいます。しかし,ネットの名誉毀損で裁判所が認めてくれる慰謝料額は低いのが現状です。私がこれまで手掛けた中では300万円が賠償金の最高額でした。ただ,これは極めてレアなケースで,裁判で認められる慰謝料額は,高くて100万円,大抵は50万円前後のことが多いです。もっとも,加害者が著名人であったり,公職に就いている場合など,裁判を起こされることで大ダメージを受けるようなケースでは,訴訟回避のため,高額の示談金が支払われることがあります。

6.裁判にはお金が掛かる

 名誉毀損訴訟に限りませんが,裁判を起こすにはお金が掛かります。特に,ネット上の名誉毀損の場合,①投稿者の特定 → ②投稿者に対する賠償請求という二段階の手続が必要なため,弁護士費用も相応に高額です。たまに,「賠償金が取れたら,そこから弁護士費用を支払う」という人がいますが,そのような条件で受任する弁護士はいないでしょう。弁護士費用については,裁判で加害者に求償できるのですが,資力のない加害者の場合,取りっぱぐれる恐れがあるからです。生活保護受給者など経済的に苦しい状況にある人は,法律扶助の利用を検討すべきでしょう。

7.削除業者への依頼は高リスク

 削除については,ネット上で派手な広告を打っている業者を多く見かけます。しかし,このような削除代行業者に対しては,先ごろ東京地裁で「違法」との判決が下されました(朝日新聞デジタル2017年2月20日付け記事)。このような判例の動向に照らすと,弁護士以外への依頼は避けるのが無難でしょう。なお,この判決に従えば,行政書士や司法書士による削除代行業務も弁護士法違反となります。

8.「ネットに強い弁護士」は少ない

 秀才こぞる弁護士業界ですが,意外にも,ネットに詳しい弁護士は少数です。そのため,「ネットの事件」と聞いただけで尻込みしてしまう先生も少なくありません。実際の裁判では専門知識が要求される場面はそれほど多くないのですが,滞りなく事件を処理するには,やはりそれなりの経験が必要です。もし,あなたがネット事件の代理人をお探しなら,ウェブサイトなどで予め候補者の経歴等をチェックしておくべきでしょう。

9.「名誉毀損で刑務所行き」はまずない

「加害者を刑事で訴えたい」あるいは「警察から呼び出された。どうすれば良いか」という相談もよく寄せられます。ただ,法定刑(3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)から見る限り,名誉毀損罪(刑法230条)は比較的軽微な犯罪類型に分類されます。そのため,「名誉毀損で刑務所行き」という事態は通常考えにくいです。もっとも,投稿内容がリベンジポルノや業務妨害にあたる場合には,より厳しい処分が下される可能性があります。

10.「他人が書いた」は通らない

 裁判では,加害者側から「自分は書いていない」「端末が他人に遠隔操作された」との反論が出されることがあります。しかし,「プロバイダから開示された端末の契約者=投稿者」と推認されるというのが,現在,実務上の通説となっています。そのため,加害者側において,第三者関与の具体的証拠を示さない限り,そのような反論はまず通りません。よって,もし,書き込みについて身に覚えがあるのなら,速やかに被害者に謝罪して,事態の収拾を図るのが,加害者にとって最善の選択肢といえるでしょう。

田中一哉

1969年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在,ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除,投稿者に対する法的責任追及などに従事している。

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