クレサラの中の人々(平成19年12月頃の文章)

金ピカのひまわりバッジを着けるようになってから3ヶ月が過ぎた。最初はオドオドしっぱなしだった法廷も,最近はあまり緊張しない。自分の中で裁判が日常の出来事として,すっかり定着しつつある今日この頃だ。

裁判所には色々な人たちが来る。傍聴人はもちろん,当事者にも,良い人,悪い人,まじめな人,変な人,さまざまだ。そんな中,僕が相手にするのは,8割がた貸金業者の社員である。貸金業者はたいてい自らが被告となる過払金返還請求訴訟で自社の社員を代理人として出廷させる。訴訟代理人は弁護士でなければならないのが原則なのだけれど,簡易裁判所では許可を受ければ弁護士でない者でも代理人となることができる(民事訴訟法54条1項但書)。貸金業者はこの例外的な制度を利用しているわけだ。なぜ,弁護士を頼まないのか,理由はよく知らない。たぶん費用が掛かるとか,そんなことなのだろう。

そんなわけで,僕はそうした社員さんたちと法廷で対峙することになる。違法な高金利で搾り取られたお金を依頼者のために取り返す仕事だ。僕は毅然としなければならない。一方,相手方は違法と知りつつ,お金を返さない悪い業者だ。これに容赦してはならない。そんな風に自分に言い聞かせて,弁論に臨む。そして法廷で,にっくき自分の敵を見る。でも,そこに立っているのは,ごく普通の,まじめで善良そうな一市民なのだ。ひとたび仕事を離れれば,良き父,良き母,良き娘であるに違いないと確信できる市井の人たちなのだ。ここで僕は悩む。この人たちは本当に自分の敵なんだろうかと。そしていかにも庶民の代表者然として振る舞っている自分が恥ずかしく思えてくる。なんて勘違い野郎なのかと。

たしかに,貸金業者の社員の中には,見るからにガラの悪い者もいる。チンピラじみた,一見して真っ当でない印象を与える者も絶無ではない。でも,大部分は,弱く小さな一般市民だ。こちらの和解案に対して,何度も何度も頭を下げて帰って行った気弱そうな女性社員,30万円の訴額に対して,2万円の和解案を申し訳なさそうに出してきた若い男性社員,彼らの姿を僕は忘れることができない。そして,甘いと言われるかもしれないけれど,僕は彼らを敵と感じることができない。自分だって,ちょっと間違えばそんな仕事をしていたかもしれないからだ。

子供の頃,ウルトラマンや仮面ライダーが好きだった。改造人間や怪獣と戦う彼らの姿は颯爽としていた。悪者を倒すのは,いつだって正義のヒーローだ。でも,僕たちの住むこの現実世界で,本当の悪者というのは一体どこにいるんだろう?正義の味方を夢見る新米弁護士は,いま必死にそれを捜しているわけで。