[プロバイダの主張例]
原告は「本件記事が投稿された時点においては、公共の利害に関ずる事実であったといえる」と述べておきながら、本件記事の内容を現時点で検討すれば「原告の本件事実を公表されない法的利益が本件記事を一般の閲覧に供し続ける理由に優越する」と主張している。これは、本件記事は、投稿された当初は違法な権利侵害と認められないものの、その後に原告の権利を違法に侵害するものに転化したと主張する趣旨であると解される。しかし、投稿当初は適法であった本件記事がいかなる理由により違法な行為に転化するのか、また、転化することがあり得るとしてどの時点で転化するのか、全く明らかではない。
[反論例]
前科情報には「刑事手続に関わる情報」という公的側面と「不当な差別、偏見その他の不利益を生じさせるセンシティブ情報(プライバシー情報)」としての側面がある。前者の性質は時の経過により次第に失われ、最終的に、後者の性質のみが残される。「公的側面」が失われる時期は個々の事案ごとに判断され一律には決し得ないが、おおよその基準として刑の言い渡しの失効時期(刑法27条及び34条の2)が目安となる。最高裁第二小法廷令和4年6月24日判決も「上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過したこと」及び「上告人の受けた刑の言い渡しが効力を失っていること」を「上告人の本件事実(※前科情報)を公表されない利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する」事情として挙げている(4ページ12~14行目)。
サイバーアーツ法律事務所所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。インターネット関連事件を専門に受任している弁護士です。