[プロバイダの主張例]
被告のユーザーは、アカウント作成時に、セキュリティ強化を目的として、認証用の電話番号の入力を求められる場合があるものの、そこで入力した電話番号が自動的にアカウント情報として記録されるものではなく、また、電話番号を登録した場合であっても事後的に登録を削除することが可能である。したがって、被告が各ユーザーの電話番号情報を類型的に保有しているわけではなく、現に電話番号情報を保有していないユーザーは相当数存在するのであるから、被告が電話番号情報を保有していることの立証があるとはいえない。
[反論例]
「開示関係役務提供者が開示請求の対象となっている情報を保有しているか否か」は、同人が、その保有する通信記録等を調査して初めて明らかになる。よって、このような事実について、開示請求者に立証責任を負わせるのは妥当でない。立証責任の公平な分配の観点からは、このような事実は開示関係役務提供者が立証責任を負うと解すべきである。
仮に、上記「保有」について、開示請求者が立証責任を負うとしても、その立証の程度は、「開示関係役務提供者が、当該情報を類型的に保有していること」の立証で足りる。開示関係役務提供者の支配権内にある情報の存在について、開示請求者に厳格な立証を求めることは、不可能を強いる結果となり不合理だからである。
被告のウェブサイトに口コミを投稿するには、ユーザーは予め自身のアカウントにログインしておく必要がある(※証拠:口コミ投稿手順を撮影した動画)。よって、同ウェブサイトに口コミを投稿できるのは、アカウントの保有者のみである。一方、ユーザーは、上記アカウントを作成する際、メールアドレス、及び、電話番号の入力を求められる。これらを入力せずに、アカウントを作成することはできないから(※証拠:アカウント作成手順を撮影した動画 )、被告は、口コミ投稿者のメールアドレス、及び、電話番号に係る情報を類型的に保有していることが合理的に推認できる。
東京地方裁判所令和3年(ヨ)第3016号、令和3年(ヨ)第3546号、令和4年(ヨ)第488号、令和4年(ヨ)第1214号、令和4年(ヨ)第2487号の各決定は、被告の上記主張を認めず(発信者情報の目録に被告が主張する但書の追記を認めず)、被告に対し、電話番号とメールアドレスの保存を命じている。東京地方裁判所令和3年12月23日判決も、被告に対し、何の留保も付けず、電話番号及びメールアドレスの開示を命じ、判決確定後、これらが原告に開示されている。[2023年7月3日追記]
[関連資料]
伊藤眞著「民事訴訟法」(第7版)369ページ脚注223には以下の記述がある。「なお、信義誠実訴訟追行義務に照らすと、自らの支配権内にある事実について不知の陳述をすることは不適切であり、争うのであれば、根拠を示して否認することが望まれる。」[2023年7月3日追記]
サイバーアーツ法律事務所所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。インターネット関連事件を専門に受任している弁護士です。