弁護士生活3ヶ月(平成19年12月頃の文章)

弁護士になって3ヶ月が過ぎた。あいかわらず裁判官に呆れられたり,書記官に失笑されたりしているけれど,それでもどうにか日々の仕事をこなしている。最近では法廷に出ても,さほど緊張しなくなった。準備書面も独力で書ける部分が増えてきた。なんとかこの世界で生きていけるかも,漠然とそんな風に感じ始めている今日この頃だ。

仕事は本当に目が回るほど忙しい。退所するのはたいてい10時過ぎだし,休日出勤も当たり前。1つ仕事を終えると,2つ新しい仕事が舞い込んでくる,そんな状態がずっと続いている。正直しんどいし,ぶっちゃけ休みも欲しい。でも同時に,今が人生で一番幸せだと感じてもいる。これは掛け値なく本当の気持ちだ。

前にも書いたけれど,僕は司法試験に合格する前,社会の最底辺にいた。30代で無職で職歴無しだったのだ。こんな人間,まともな会社は雇ってくれない。後はただ這い蹲って残りの人生を送るしかない筈だった。そんなオチコボレが,なぜ弁護士になることを許されたのだろうか?試験にうかってから,ずっとそんなことを考えていた。そうして考えに考え抜いた末に,達した結論はこうだ。「神さまが助けてくれたに違いない」。だから,僕はその施しに報いなければならない。

自分がこれからどんな弁護士になったらいいのか,恥ずかしながら青写真は全くない。ただ,もし,自分の長すぎる受験生活の対価が,平均より少しだけ多い給料だったり,少しだけ高い社会的地位だったりするのだとしたら,こんなつまらない人生のオチはないと思う。もっと価値のあるもの,お金には換えられない何か,自分が生きる理由を感じさせてくれるような経験,そんなものを得るために,自分は弁護士になったのだと信じたい。そして,そうしたものを手に入れるために,一番気をつけなければいけないのは,偉い先生にならないことだと思う。あの暗く苦しい日々を生きていたときのままの自分でありつづけること。それこそが自分を救ってくれた誰かが望んでいることだと確信している。

夜,仕事を終えて事務所を出ると,頭上には冬の星空が広がっている。オリオン座も,それを見て綺麗だと思う自分も,子供のころから何一つ変わっていない。ああまだ自分は大丈夫だ。ホッとして家路につく。今日も明日も明後日も,ひよこ弁護士の青写真作りは続く。