関あじとイノベーション


牛久の定食屋に入ったら,関あじ定食が1580円で出されていた。僕は以前,大分に住んでいたのだけれど,佐賀関の関あじといえば,地元民でもなかなか手が出せない高級魚であった。その高価な魚が,遠く離れた茨城の地で,この価格で提供されていることに驚いたのである。しかもこの関あじ,味も素晴らしく,店主らしき男性に勧められてこれを注文した妻はその鮮度に目を丸くしていた。

この定食屋,店構えはお世辞にも立派とは言えない。イスやテーブルも質素至極である。しかし,そのような点にこそ,高品質の商品を低価格で提供する秘密があるに違いない。余計なことに金を掛けない,徹底したコスト管理が,一見不可能とも思える価格設定を可能にしているのである。そして自戒を込めて言うのだが,このような姿勢こそが,僕らの業界に最も欠けているものだと思う。

僕らの業界はいま大増員の波に揺れている。その中で「過当競争の弊害」を叫ぶ声は大きいけれど,反面,競争のもたらす利益を指摘する声は少ない。しかし,競争がイノベーションの原動力であることは紛れもない事実だ。そして,僕らの業界が,競争に晒され続ける他の業界に比べ,顧客に近づく努力をしているかというと,とても疑わしく思える。

僕は大増員時代にギリギリで試験に通ったクチである。だから,法曹の質の低下を理由に「合格者を減らせ」などとは,とても言える立場にない。僕にできることは,ただ競争に打ち勝つために自分自身を磨くこと,そして,他の弁護士には真似のできない,自分だけの専門分野を開拓することだと思っている。さらに,そのサービスを顧客が目を丸くするくらい,安い価格で提供できれば最高だ。僕はそのための努力をこれからも続けていきたいと考えている。そして,一つだけ明らかにしておきたいのは,たとえ弁護士の数が10倍になろうと,自分が敗者として退場する気は毛頭無いということ。あの素朴な定食屋のように,創意と工夫で必ず生き残ってやるつもりだということなのである。