[プロバイダの主張例]
ロコミサイトにおける投稿が原告の名誉を毀損すると認められるためには、当該投稿による原告の社会的評価の低下の程度が受忍限度の範囲を超えるものであることを要する。
[反論例]
口コミサイトについてのみ、名誉権侵害の成立要件を加重する理由はない。他のウェブサイト同様、①侵害情報による社会的評価低下の有無と②違法性阻却事由の存否から、名誉権侵害の成否が判断されるべきである。東京地方裁判所令和3年12月23日判決も、「口コミが原告の名誉を毀損するものと認められるためには、原告の社会的評価の低下が受忍限度を超えるものであることを要する」との被告プロバイダの主張に対し、「被告が指摘する事情は、社会的評価の低下の有無及び程度、違法性阻却事由等の判断において考慮されれば足り、本件のような発信者情報の開示請求において、あえて名誉毀損の成否に係る要件を加重しなければならない事情とは解しがたい。」と判示している(6ページ26行目~7ページ6行目)。
[関連裁判例]
東京地方裁判所令和5年6月30日判決は次のように判示して被告(Google LLC)の受忍限度論を棄却した。「この点、被告は、医療機関を運営する原告は、本件医療機関の運営、本件医療機関の医師の治療技術及び治療内容等についても国民から批判を受けるべき立場にあり、かかる批判において社会的評価を低下させる表現が含まれていたとしても一定程度受忍すべき立場にあることや、本件記事のような口コミは、記載された事実が真実であるかどうかを検証する手段がなく、投稿者個人の感想や評価を自由に記載したものであり、客観的な事実を根拠とすることが保証されているものではないことを理由に、権利侵害の明白性を肯定するためには、本件記事の内容が受忍限度を超えて原告の社会的評価を低下させるものであることを要する旨主張する。しかし、被告が指摘する事情は、表現行為による社会的評価の低下の有無や上記の違法性阻却事由の有無を判断する際に考慮することで足り、これとは別個に、社会的評価の低下の程度が受忍限度を超えることを発信者情報開示請求権の発生要件として加重すべき必要性は見出し難いから、被告の上記主張は採用できない。」(7ページ6~18行目)[2023年7月2日追記]
サイバーアーツ法律事務所所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。インターネット関連事件を専門に受任している弁護士です。