プロバイダ責任制限法5条1項柱書の「保有」の意味と立証責任

[プロバイダの主張例]
プロバイダ責任制限法5条1項柱書は「当該電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報…の開示を請求することができる」と規定しており、権利侵害に係る発信者情報を電気通信役務提供者が保有している事実が、発信者情報の開示の要件の1つとされている。よって、本件では、発信者情報として開示請求の対象となっているログイン時のアイ・ピー・アドレス及びこれに係るタイムスタンプを被告が保有していることが、原告の証明すべき発信者情報開示請求権の要件となる。また、この保有の事実については、開示請求をする者が証明責任を負うと解されている。

[反論例]
開示請求の対象情報を被告が保有しているか否かについては、被告が、自社の記録を調査して初めて明らかになる。このような事実について、原告に立証責任を負わせることは、不可能を強いるもので不合理である。よって、プロバイダ責任制限法5条1項柱書の「保有」とは「開示関係役務提供者が、開示請求の対象とされた情報を類型的に保有していること」の意味に解すべきである。東京地方裁判所令和3年12月23日判決も、被告の上記主張に対し「証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ウェブサイトに口コミを投稿するためには、グーグルにアカウントを開設する必要があること、その際には、氏名、メールアドレス及び電話番号の入力を求められることが認められるから、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報のうち住所以外の情報については保有していると認めるのが相当である」と判示している(9ページ20行目~10ページ2行目)。