プラットフォーム事業者の「構造的問題」

[プロバイダの主張例]
本件で、「事実を公表されない法的利益」が「投稿記事を一般の閲覧に供し続ける理由」に優越することを否定する方向に作用する一事情して考慮されるべき点として、まず、被告のようなプラットフォーム管理運営事業者に対する投稿記事削除請求の事案に特有の構造的な問題が挙げられる。すなわち、本件においては、記事を投稿した本人ではなく、投稿の場であるプラットフォームを運営管理する事業者にすぎない被告に対して投稿記事の削除が請求されている点を正しく踏まえた判断がなされなければならない。被告を含むプラットフォーム管理運営事業者は、本件記事に限らず、一般ユーザーによって投稿される記事の表現内容に関して、どのような背景事情の下に、どのような意図・根拠をもって投稿されたのか一切情報を有しないから、プラットフォーム管理運営事業者がこれらの点について反論を行ったり、原告によって主張されていない不利な事情についてプラットフォーム管理運営事業者の方から自ら情報収集をして新たに主張したりすることは極めて困難である。その結果、本件のようなプラットフォーム管理運営事業者に対する投稿記事削除請求の事案においては、裁判所は、事実上、原告による一方的な主張のみに基づいて削除の可否を判断しなければならず、投稿者の表現の自由等の対立利益に対して十分な配慮がなされないという構造的な問題が存在する。このように、記事を自ら投稿した本人ではなく、投稿の場であるプラットフォームを運営管理する事業者にすぎない被告に対して投稿記事の削除が請求されている点を正しく踏まえた上で判断がなされなければならない。

[反論例]
プラットフォーム事業者は、投稿者に対し、プロバイダ責任制限法3条2項2号の照会を行うことで、同人から上記「背景事情」等に係る情報を収集できる。このような照会はプロバイダ責任制限法ガイドラインでも実施が推奨されている(第6版・38ページ6~8行目)。国内の多くのプロバイダはこれに従っているが、被告を含む数社の外国企業はこのような照会を行っていない。すなわち、被告摘示の上記「構造的問題」とは「投稿者に対して照会を行わない」という、被告独自の運用から生ずる、被告特有の問題である。このような問題は被告の意思一つで容易に解決可能だから、削除要件を加重する事情として考慮する必要はない。