プロバイダによる投稿者の表現の自由の援用

[プロバイダの主張例]
検索事業者に対する検索結果削除請求の事案においては、検索結果が削除されたとしても、投稿者の投稿記事はそのままインターネット上に残るのであるから、投稿者の表現の自由に与える影響は比較的軽微である。宍戸常寿東京大学教授も「検索結果が非表示になったとしても、人格権を侵害するサイトそれ自体はネット上に残っており、URLを直接打ち込むことで利用者はアクセス可能であるしとりわけ著名なまとめサイトは検索エンジンで表示されなくても、利用者が何らかの方法でたどり着けることが多いのではないか。」と指摘している。これに対して、本件のようなプラットフォーム事業者に対する投稿記事削除請求の事案においては、削除請求が認められれば、投稿者の投稿記事自体がプラットフォーム上から削除されるのであるから、投稿者の表現の自由に与える影響は甚大である。したがって、投稿者の表現の自由に与える影響という観点からみれば、プラットフォーム事業者に対する投稿記事削除請求の可否は、むしろ検索事業者に対ずる検索結果削除請求の可否よりも慎重に判断することが必要である。

[反論例]
 被告は、従前、日本国の裁判所で投稿記事の削除を命じる判決が言い渡された場合、当該記事について、日本国内から閲覧できなくする措置を講ずるに留めている。よって、仮に、本件削除請求が認容されたとしても、国外のサーバ経由でアクセスすることで、判決後も、本件記事の閲覧が可能である。すなわち、被告のウェブサイトにおいては「削除請求が認められれば、投稿者の投稿記事自体がプラットフォーム上から削除される」という状況は生じない。この点で、被告の上記主張には前提に誤りがある。
 被告は表現行為の「媒介者」であって「主体」ではないから、自身の権利として「表現の自由」を行使することはできない。また、被告は、従前、ユーザーが投稿した記事を、司法審査を介さず、恣意的に削除していた(一例を挙げれば、被告は、令和3年1月から6月までの半年間に、124万0148件のアカウントを凍結し、591万3337件の記事を削除した。この中に、当時の米国大統領という重要な公人のアカウントが含まれていたことは周知の事実である)。このような、被告の「媒介者」「表現の自由の抑圧者」たる地位に照らせば、被告に「投稿者の表現の自由」を援用を許すのは不合理である。