最高裁判所第二小法廷は、令和4年6月24日、約8年前の逮捕報道を転載したツイートについて、Twitter社(当時)に削除を命じました(令和2年(受)第1442号 投稿記事削除請求事件)。逮捕歴に関するSNS投稿の削除について最高裁が判断を示した最初の例です。この記事では、判決原文を引用しながら、事案、争点、最高裁の示した基準、その後の実務への影響を整理します。
要点
- 逮捕の事実を公表されない法的利益と、ツイートを閲覧に供し続ける理由とを比較衡量し、前者が優越すれば削除を求めることができる。
- 二審が採用した「優越することが明らかな場合に限る」という基準は否定された。検索エンジンの検索結果削除に関する平成29年の最高裁決定とは異なる枠組みが示された。
- 本件では、逮捕から約8年の経過、刑の言渡しの失効、転載元の報道記事の削除、ツイートが速報目的であったこと、本人が公的立場にないことなどから、削除が認められた。
事案の概要
原告(上告人)は、平成24年4月、建造物侵入の被疑事実で逮捕され、同年5月に罰金刑を受けて納付しました。逮捕の事実は当日に報道され、複数の報道機関のウェブサイトに記事が掲載されました。同じ日に、氏名不詳の複数のTwitterアカウントが、報道記事の一部を転載する形でこの事実をツイートしました。これが本件で削除を求めた14件のツイートです。
その後、報道機関のサイト上の元記事はいずれも削除されました。原告は逮捕の数年後に結婚しましたが、配偶者には逮捕の事実を伝えていません。一方、Twitterで原告の氏名を検索すると、これらのツイートが検索結果に表示される状態が続いていました。
原告は、プライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が侵害されているとして、人格権に基づき、Twitter社に対してツイートの削除を求めました。
- 第一審: 東京地方裁判所 令和元年10月11日判決。削除請求を認容。
- 第二審: 東京高等裁判所 令和2年6月29日判決(令和元年(ネ)第4733号)。第一審判決を取り消し、請求を棄却。
- 上告審: 本判決。原判決を破棄し、Twitter社の控訴を棄却。第一審の認容判決が確定。
争点: 「明らかに優越」する場合に限られるか
最高裁判決は、二審の判断を次のように要約しています。
被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等に照らすと、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量した結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られると解するのが相当である
この「明らかな場合に限られる」という基準は、Googleの検索結果の削除について最高裁が平成29年1月31日の決定で示したものと同じです。平成29年決定は、検索事業者が現代社会の情報流通の基盤としての役割を担っていることを理由に、削除には法的利益の優越が「明らか」であることを求めました。二審は、Twitterについても同じ基準を用いたことになります。
したがって上告審の争点は、Twitter社に対するツイートの削除請求について、検索エンジンと同じ「明らか」要件を課すべきかどうか、という点でした。
最高裁の判断
判断の枠組み
最高裁は、まずプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護の対象であることを確認した上で、削除請求の可否を判断する枠組みを次のように示しました。
上告人が、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。
考慮要素として挙げられたのは次の5つです。
- 事実の性質および内容
- ツイートによって事実が伝達される範囲と、本人が被る具体的被害の程度
- 本人の社会的地位や影響力
- ツイートの目的や意義
- ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化
そして二審の「明らか」要件については、一文で退けました。
原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない。
つまり、Twitterのサービス内容や利用実態を考慮に入れても、検索エンジンと同じ加重要件を課す理由にはならない、という判断です。
本件へのあてはめ
最高裁は、上の枠組みを本件に当てはめて、次の事情を挙げました。
事実の性質と、時の経過:逮捕の事実はプライバシーに属する一方、ツイートがされた時点では公共の利害に関する事実でもあったと認めています。しかし、
上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。
ツイートの目的:各ツイートは逮捕当日に、140文字の制限の中で報道記事の一部を転載したものであることから、
ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い。
伝達の範囲:ツイートが特に注目を集めている事情はないものの、氏名で検索すれば表示される以上、
本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない。
本人の立場:原告は父の営む事業を手伝って生活しており、公的立場にある者ではないとしました。
これらを総合して、公表されない法的利益が閲覧に供し続ける理由に優越すると認め、削除請求を認容した第一審判決を正当としました。裁判官全員一致の判断です。
草野耕一裁判官の補足意見
草野裁判官は法廷意見に賛成した上で、比較衡量の中身をさらに詳しく検討しています。
まず、有罪判決を受けた者が社会復帰後に前科等の公表によって更生を妨げられない利益を有すること(最高裁平成6年2月8日判決)を確認し、罰金を完納して一市民として生活してきた原告にとって、ツイートの削除は法的保護に値する重大な利益だとしました。二審が「Twitterの検索機能の利用頻度はGoogleほど高くない」ことを理由に被害の可能性が低いとした点については、家族や知人がいつ見るかもしれないという危惧が続く不利益は、検索機能が弱いという理由で減少するとは考え難い、と述べています。
次に、公的立場にない者の実名報道を継続することに社会的意義があるとすれば何か、という観点から、実名報道の機能を3つに分けて検討しています。
- 制裁的機能。 犯罪に対する制裁は国家が独占するのが憲法秩序の基本原則であり、刑の執行が完了し刑の言渡しの効力もなくなった状況では、この機能を比較衡量の対象となる社会的利益として評価する余地は「全くないか、あるとしても僅少である」。
- 社会防衛機能。 再犯を危惧すべき具体的理由がある場合、凶悪事件の被害者のトラウマが癒えていない場合、犯罪者が公職に就く現実的可能性がある場合などに限って考慮されうるが、本件にそうした事情は見出し難い。
- 外的選好機能。 他人の不幸に快楽を見出す心性を満たすことは、豊かで公正で寛容な社会の形成を妨げるものであり、社会的利益として考慮することはできない。
その上で、少なくとも氏名など犯罪者を特定できる情報を記した部分については、公表されない法的利益が優越すると直ちに結論づけられる、と述べています。
この判決の実務上の意味
検索エンジンとSNSで枠組みが分かれた。 平成29年決定以降、削除請求の実務では「明らか」要件が広く意識されていました。本判決は、少なくともTwitterに対するツイートの削除については、加重のない比較衡量で判断することを明らかにしました。X以外のSNSや掲示板への投稿についても、本判決の考慮要素を参照して判断される例が見られます。
逮捕歴の削除で見られる事情が具体化された。 判決が挙げた事情は、逮捕歴に関する投稿の削除を検討する際の実務的な目安になっています。
- 逮捕からの経過年数と、刑の言渡しの失効(罰金刑なら5年、刑法34条の2第1項)
- 転載元の報道記事が削除されているかどうか
- 投稿が速報目的か、それとも長期の閲覧を想定したものか
- 氏名検索で表示されるかどうか
- 本人が公的立場にあるかどうか
時の経過を待たずに削除できる場合もある。 補足意見は、犯罪者を特定できる氏名等の部分については、公表されない法的利益が優越すると「直ちに結論付けることができる」としています。この部分は法廷意見ではありませんが、逮捕から間もない時期の削除請求を検討する際の手がかりになります。
削除を検討している方へ
本判決は、逮捕歴に関する投稿がある程度の時間を経た後には削除を求めうることを、最高裁として明らかにしたものです。ただし判断は諸事情の比較衡量によるもので、経過年数、刑の種類と失効の有無、元記事の状況、投稿の内容と目的、本人の立場によって結論は変わります。事案ごとの見通しについては、投稿のURLと逮捕・処分の時期が分かる資料をお持ちの上でご相談ください。
資料
- 判決全文: 最高裁判所 令和4年6月24日 第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト PDF)
- 事件番号: 令和2年(受)第1442号 投稿記事削除請求事件
- 掲載: 民集76巻5号1170頁
- 第一審: 東京地方裁判所 令和元年10月11日判決
- 第二審: 東京高等裁判所 令和2年6月29日判決(令和元年(ネ)第4733号)
- 関連判例: 最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定(検索結果削除)、最高裁平成14年9月24日第三小法廷判決、最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決
- 報道: 判決当日の報道一覧(14社)
本件は、当事務所の弁護士・田中一哉が上告代理人を務めた事件です。関連する裁判例は裁判例データベース(X(Twitter)に関する裁判例)にまとめています。