Instagram(インスタグラム)では、他人の顔写真を使ったなりすましアカウント、自分で撮った写真の無断転載、ストーリーズやコメントでの中傷、私生活上の事実の暴露といった被害が起きています。投稿者に責任を問うには投稿者を特定する必要があり、そのための手続が発信者情報開示請求です。投稿やアカウントを消すには、Instagram を運営する Meta Platforms, Inc. に対する削除請求を行います。
この記事では、Instagram の投稿について投稿者を特定する場合の仕組みと流れ、期間の目安、開示が認められる基準、認められやすい投稿と認められにくい投稿、裁判例、削除請求、特定後にできることを整理します。Instagram は X(旧Twitter)と同じく投稿ごとの通信記録を残さない「ログイン型」のサービスで、運営会社が米国法人である点にも固有の論点があります。
要点
- Instagram の運営会社は米国法人ですが、日本語でサービスを提供しているため、日本の裁判所に訴えを起こせます。運営会社が管轄を争った事件でも、裁判所は一貫して日本の管轄を認めています。
- 運営会社が保有しているのは、ログイン時のIPアドレスと日時、登録された電話番号とメールアドレスです。投稿時のIPアドレスは保有していません。
- なりすましアカウントによる顔写真の無断使用と、自分で撮った写真の無断転載は、肖像権や著作権の侵害として権利侵害が明白と判断されやすく、開示が認められた例が多数あります。
- 開示の対象になるのは、原則として投稿に最も近いログインの記録です。投稿から時間が離れたログインや別のアカウントへのログインは、投稿者と同一とは認められずに棄却された例があります。
1. Instagram の投稿で問題になる類型
当事務所の裁判例データベースに収録した Instagram の裁判例60件を争点で分けると、次の類型が多くなっています。
- なりすまし 本人の顔写真や氏名を使ったアカウントで、本人が書いたように見える投稿をするもの。肖像権と氏名権の侵害として扱われます。入浴中の盗撮写真を晒す目的のなりすまし、交際相手を装って私的な写真を載せたなりすまし、本人を装って性的なやり取りをするなりすましなどの例があります。
- 写真・動画の無断転載 本人が撮影した写真や自撮り写真、動画の一場面を無断で投稿するもの。著作権(複製権・公衆送信権)の侵害として扱われ、名誉毀損より争点が少ないのが特徴です。
- 名誉毀損 不貞や犯罪への関与など、具体的な事実を書いて社会的評価を下げる投稿やコメント。
- 侮辱(名誉感情の侵害) 事実を書かずに罵る投稿。「社会通念上許される限度を超える侮辱」にあたる場合に限って認められます。
- プライバシーの侵害 私生活上の事実(不倫、年齢、婚姻歴、職業、収入など)や、私的なDMの画像を公開するもの。
2. 運営会社が保有している情報と「ログイン型」の仕組み
保有している情報 Instagram の運営会社は、①ログイン時のIPアドレスと日時、②登録された電話番号、③登録されたメールアドレスを保有しています。登録された名前は本名とは限らず、住所の登録もありません。投稿時のIPアドレスは保有しておらず、仮処分で開示されるのはログイン時のIPアドレスとタイムスタンプだけです(東京地方裁判所令和4年10月31日判決の認定)。
電話番号とメールアドレス 運営会社に対して電話番号とメールアドレスの開示を命じた判決があります(東京地方裁判所令和5年8月24日判決)。登録された氏名・名称と電話番号の開示を命じた判決もあります(同令和4年7月20日判決)。X と同様、登録のしかたによって一方しか保有していないことがあります。
日本の裁判所の管轄 運営会社は米国法人で、日本に事務所がありません。しかし、Instagram のサイトとアプリは日本語で表示でき、日本の利用者に提供されているため、裁判所は「日本において事業を行う者」に対する訴えとして日本の管轄を認めています(民事訴訟法3条の3第5号)。運営会社が管轄がないとして訴えの却下を求めた事件でも、管轄は認められました(東京地方裁判所令和5年8月24日判決、同令和6年2月22日判決、同令和3年12月15日判決など)。国内の管轄裁判所は東京地方裁判所です。
開示されるのは原則「投稿に最も近いログイン」 Instagram に投稿するにはアカウントへのログインが必要です。裁判所は、投稿に最も時間的に近いログインの通信を、投稿と「相当の関連性」のある侵害関連通信として開示の対象にしています(東京地方裁判所令和5年6月16日判決、同令和5年9月21日判決)。投稿の10日前のログインでも、その間に別のログインがなく、一人で運用しているアカウントと考えられる場合には開示が認められました(同令和4年11月17日判決)。大阪高等裁判所令和5年5月11日判決は、投稿に近い複数のログインについて、1件の情報だけでは投稿者を特定できるとは限らないとして、いずれも開示の対象と認めています。
一方で、投稿の約5日後のログインは、投稿の直前にも別のログインがあったことから関連性が乏しいとして開示が認められませんでした(東京地方裁判所令和5年3月10日判決)。投稿から3か月以上後の別のアカウントへのログインも、使用者が同一とは推認できないとして棄却されています(同令和3年6月15日判決)。一つのアカウントに複数の端末から同時にログインできる仕組みのため、どのログインで投稿されたかの証明がないとして棄却された例もあります(同令和2年2月20日判決)。
3. 投稿者を特定する手続の流れ
IPアドレス経由 運営会社に対する発信者情報開示命令の申立て(または仮処分)により、ログイン時のIPアドレスと日時の開示を受けます。2022年10月に始まった開示命令の手続では、開示命令とあわせて提供命令を申し立てるのが通常です。提供命令が出ると、運営会社から接続プロバイダ(携帯電話会社や固定回線の事業者)にIPアドレスなどの情報が直接渡され、申立人は同じ手続の中で接続プロバイダに対する開示命令を申し立てて、契約者の氏名・住所などの開示を受けます。現在は、この経路で投稿者の特定に至ることが多くなっています。Instagram の裁判例60件のうち大半は、この2段階目の接続プロバイダに対する請求です。
電話番号・メールアドレス経由 運営会社から電話番号の開示を受ければ、携帯電話会社への照会で契約者を特定できる場合があります。接続プロバイダのログ保存期間に左右されない点が利点です。ただし、メールアドレスは無料サービスで取得した本人にたどり着けないものであることが多く、メールアドレスだけで投稿者を特定できることは少ないです。
運営会社の対応 運営会社は日本の裁判所の決定に従って開示や削除に応じています。申立ての事実を投稿者に通知することがあるとされ、通知を受けた投稿者がアカウントを消すおそれがあるため、申立てと並行して証拠を保全しておく必要があります。決定が出れば、開示は速やかに行われます。
4. 期間の目安
運営会社に対する手続は、申立てから開示まで2〜3か月程度が目安です。その後の接続プロバイダに対する手続を含めると、投稿者の氏名・住所が分かるまで3〜4か月程度を見ておく必要があります。接続プロバイダのログは数か月程度で消えることが多く、運営会社のログイン記録にも保存期間があるため、投稿に気づいたら早い段階で見通しを立てることが重要です。
5. 開示が認められる基準
発信者情報の開示が認められるには、①権利侵害の明白性(投稿によって肖像権や名誉権などの権利が侵害されたことが明らかであること)と、②開示を受けるべき正当な理由(損害賠償請求などのために投稿者の情報が必要であること)が必要です。Instagram の事件で実際に争点になるのは、主に次の点です。
肖像権 人は自分の肖像をみだりに使用されない権利を持ち、使用の目的・態様・必要性と本人の社会的地位を総合して、受忍限度を超える場合に違法となります。私人の顔写真を、本人を貶める目的でなりすましアカウントのアイコンに使った行為は、目的が不当で必要性がなく態様も悪質だとして、違法であることが明らかとされました(東京地方裁判所令和4年12月8日判決)。
著作権 自分でカメラを操作して撮った写真は、自撮りでも本人の著作物です。それを複製して別のアカウントで公開する行為は、引用などの例外にあたらない限り、複製権と公衆送信権の侵害として権利侵害が明白とされます(東京地方裁判所令和5年9月21日判決)。
同定可能性 投稿が自分を指していると閲覧者に分かるかどうかです。氏名と居住する市区町村、本人と分かる鮮明な画像を伴う投稿は本人に対する投稿と認められます(東京地方裁判所令和6年2月22日判決)。店舗の略称でも、その略称で呼ばれている事実があれば同定が認められました(同令和4年11月17日判決)。私的なDMを本人のアカウントとのやり取りと分かる形で載せた投稿は、本人のアカウントを知る一定の範囲の人には本人と分かるとして、名誉感情の侵害が認められています(同令和3年9月1日判決)。
ログインと投稿の結び付き 第2節のとおり、開示を求めるログインが投稿者のものと認められるかが、Instagram の事件で最も多く争われる点です。アカウントが一人で運用されていること、投稿の前後に別のログインがないこと、投稿に近い時期のIPアドレスが共通していることなどが判断材料になります。
6. 開示が認められやすい投稿と認められにくい投稿
裁判例データベースの Instagram の裁判例60件のうち、開示が認められたものは53件、棄却されたものは6件です。認められた例と棄却された例を見ると、次の傾向があります。
認められやすい投稿
- 本人の顔写真や氏名を使ったなりすましアカウント(肖像権・氏名権の侵害)
- 本人が撮影した写真や動画の無断転載(著作権の侵害)
- 氏名や居住地、本人の画像とともに、不貞や犯罪への関与などの事実を書いた投稿(名誉権・プライバシーの侵害)
- 元配偶者や関係者を名乗って私生活上の事実を暴露する投稿
- 広く報道された事件の関係者と決めつけるコメント
認められにくい投稿、または特定が難しい場合
- 投稿に近いログインの記録が残っておらず、投稿から数か月離れたログインや別のアカウントのログインしか手がかりがない場合
- 複数の端末や複数の人がアカウントを使っていて、どのログインで投稿されたかを証明できない場合
- アカウント名だけが書かれ、本人を指していると閲覧者に分からない投稿
- 具体的な事実を書かず、感想や評価にとどまる投稿
Instagram の棄却例の多くは、投稿の内容ではなく、ログインと投稿の結び付きが証明できなかったことを理由にしています。投稿に気づいた時点で手続を始めるかどうかが、結果を分けることになります。
7. 裁判例
当事務所の裁判例データベースには、Instagram に関する裁判例を60件収録しています(2026年10月現在)。本記事で触れた裁判例は次のとおりです。各リンク先に、事案の概要と判決理由の骨子があります。
- 東京地方裁判所令和6年2月22日判決 氏名・居住地・画像と不貞等を摘示する投稿について、日本の管轄を認め、氏名権等の侵害が明らかとして運営会社に開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年8月24日判決 運営会社が管轄を争ったが日本の管轄を認め、電話番号とメールアドレスの開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年7月20日判決 診療所の点滴を中傷する投稿について、登録された氏名・名称と電話番号の開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年12月15日判決 報道された事件の関係者と誤認するコメントについて、日本の管轄と名誉権侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年12月8日判決 顔写真をアイコンに使ったなりすましアカウントについて、肖像権侵害が明らかとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年6月16日判決 なりすまし投稿について、投稿に最も近いログイン通信を侵害関連通信と認め、接続プロバイダに開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年10月31日判決 入浴中の盗撮写真を晒すなりすまし投稿について肖像権侵害を認め、投稿の前提となった最も近いログインの契約者情報の開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年9月21日判決 自撮り写真の無断転載を著作権侵害と認め、投稿前のログイン通信を侵害関連通信と認定
- 東京地方裁判所令和4年11月17日判決 投稿の約10日前のログインでも投稿者と推認し、店舗の略称による同定も認めて開示を命令
- 大阪高等裁判所令和5年5月11日判決 投稿に近い複数のログインについて、1件だけでは特定できるとは限らないとして開示を認めた原判決を維持
- 東京地方裁判所令和3年9月1日判決 私的なDMの画像を載せた投稿について、一定範囲の閲覧者には本人と分かるとして名誉感情の侵害による開示を認容
- 東京地方裁判所令和4年6月16日判決 元夫を名乗り不倫を書き込んだ投稿について、投稿時期に近くIPアドレスが共通する期間のログインに限って開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年6月15日判決 不倫を摘示し続ける Facebook・Instagram のアカウントについて、開示とアカウント自体の削除を命令
- 東京地方裁判所令和5年3月10日判決 投稿の約5日後のログインは侵害関連通信に当たらないとして棄却
- 東京地方裁判所令和3年6月15日判決 投稿から3か月以上後の別アカウントへのログインについて、使用者の同一性を推認できないとして棄却
- 東京地方裁判所令和2年2月20日判決 複数端末の同時ログインが可能なため、どのログインで投稿されたかの証明がないとして棄却
8. 投稿やアカウントの削除請求
運営会社への申出 Instagram には、なりすましや写真の無断使用、嫌がらせを報告する窓口があります。本人の写真を使ったなりすましアカウントは、本人確認書類を添えて報告すれば停止されることがあります。名誉毀損やプライバシー侵害の投稿が申出だけで削除されることは少なく、裁判所の手続が必要になるのが通常です。
裁判所の手続 申出で削除されない場合は、裁判所に削除の仮処分を申し立てるか、削除請求の訴訟を提起します。運営会社は裁判所の決定や判決が出れば削除に応じています。X ではアカウント全体の削除が認められにくいのに対し、Instagram と Facebook のアカウントについては、プロフィールも投稿もすべて本人の不倫を話題にするものだった事案で、アカウント自体の削除を命じた判決があります(東京地方裁判所令和5年6月15日判決)。
削除と開示の順序 投稿者に損害賠償を求めるつもりがある場合、先に投稿やアカウントが削除されると、開示請求に必要な証拠が失われ、ログイン記録の特定にも影響します。投稿のURL、表示画面、投稿日時、アカウントのプロフィール画面を保存した上で、開示請求を先行させるか、削除と開示を並行して進めるかを検討します。証拠の保全は、ご相談の後に当事務所で行います。
9. 投稿者を特定した後にできること
投稿者が特定できた後は、損害賠償請求(示談交渉、または訴訟)、投稿者自身による投稿やアカウントの削除と再投稿しないことの約束、悪質な場合の刑事告訴(名誉毀損罪、侮辱罪など)が考えられます。認められる賠償額の実例は「ネット上の誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」にまとめています。
10. ご相談について
Instagram の投稿やアカウントの削除、投稿者の特定をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。証拠の保全は、ご相談の後に当事務所で行います。費用についてはFeeをご覧ください。
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資料
- 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項・3項、同法施行規則5条(侵害関連通信)
- 民事訴訟法3条の3第5号(日本において事業を行う者に対する訴えの国際裁判管轄)、10条の2(管轄裁判所が定まらないときの東京地方裁判所の管轄)
- 大阪高等裁判所令和5年5月11日判決(令和4年(ネ)第2431号。複数のログインの開示)
- 東京地方裁判所令和5年8月24日判決(令和5年(ワ)第8452号。運営会社に対する電話番号・メールアドレスの開示)
- 東京地方裁判所令和5年6月15日判決(令和4年(ワ)第32267号。アカウント自体の削除)
- 東京地方裁判所令和5年3月10日判決(令和4年(ワ)第21352号。投稿後のログインの関連性を否定)

サイバーアーツ法律事務所 弁護士(東京弁護士会、2007年登録)。インターネット上の権利侵害に関する事件のみを扱う。