X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、マッチングアプリなどで、自分の名前と顔写真を使ったアカウントが勝手に作られ、自分が書いたように見える投稿をされる被害があります。本人が書いていない暴言や性的な投稿が、本人の発言として読まれます。この記事は、こうした「なりすまし」について、裁判所がどの権利の侵害として扱い、どのような場合に投稿者の特定(発信者情報開示)、削除、損害賠償を認めているかを、当事務所の裁判例データベースに収録した判決で整理したものです。
対象は、投稿者が本人を名乗る、または本人の氏名・顔写真・アカウント名を使って本人のアカウントや投稿に見せかけた事案を扱った判決77件(発信者情報開示73件、損害賠償3件、削除1件。2013年〜2024年)です。他人の写真を無断で転載しただけの事案や、元配偶者など第三者を名乗った事案は含めていません。媒体ごとの手続の流れと期間の目安は、X、Instagram、Facebookの各記事をご覧ください。
要点
- なりすましそのものを違法とする法律の規定はなく、裁判所は、なりすましのアカウントで何が使われ、何が投稿されたかを見て、名誉権、氏名権、肖像権、名誉感情、プライバシーのいずれかの侵害に当たるかを判断します。開示を求めた73件のうち64件で、いずれかの権利の侵害が認められました。
- 最も多い構成は名誉権の侵害(33件)です。本人が書いたように見える暴言や性的な投稿は、「本人がそのような投稿をする人物である」という事実を示したものとして名誉毀損に当たるとされています。
- 本人の氏名(通称を含む)を使ったアカウントは、投稿の内容を問わず、氏名を他人に冒用されない権利(氏名権)の侵害とされた判決が16件あります。顔写真を使ったアカウントは、私人であれば肖像権の侵害とされ、Instagram の判決10件はすべて開示が認められています。
- 「アイデンティティ権」(他人から見た人格の同一性を保つ利益)は、概念として認める余地を示した判決はありますが、それだけで請求を認めた判決はなく、5件で否定されています。
- 開示が全部認められなかったのは7件で、理由は、X のログイン記録と投稿の結び付きが認められないという手続上のもの(4件)と、閲覧者が本人の投稿と誤認しないというもの(3件)です。氏名と1〜2字違いの名前や、匿名掲示板で名乗っただけの投稿は、なりすましとは扱われませんでした。
- 損害賠償の判決は少なく、なりすましアカウントの投稿者に130万6000円(慰謝料60万円、特定費用58万6000円を含む)の支払を命じた例があります。Googleマップの口コミについては氏名権に基づく削除が認められ、X のアカウント自体の削除は認められませんでした。
1. なりすましは、どの権利の侵害になるか
民法にも、投稿者の特定を定める情報流通プラットフォーム対処法にも、「なりすまし」を直接に禁じる規定はありません。被害者は、判例で認められてきた人格権のどれかが侵害されたと主張することになります。発信者情報開示の判決73件で、裁判所がなりすましによる権利侵害を認めた根拠(1件で複数の権利を認めたものを含む)は、名誉権33件、氏名権16件、肖像権13件、名誉感情11件、プライバシー8件、著作権2件、営業権1件です。
- 名誉権(名誉毀損) 本人が書いたように見える暴言や性的な投稿は、「本人がそのような投稿をする人物である」という事実を示したものと扱われます。大阪高等裁判所平成28年10月6日判決は、顔写真と名前由来のハンドルネームで他の利用者を蔑称で呼んだ投稿について、名誉毀損を「直接他人を対象とする行為に制限すべき理由はない」として開示を認めました。東京地方裁判所令和5年7月13日判決は、プロフィール欄の記載(既婚者で性的な相手を求めている趣旨)だけで名誉毀損を認めています。
- 氏名権(氏名を冒用されない権利) 氏名は個人の人格の象徴で人格権の一内容を構成するから、人は氏名を他人に冒用されない権利を持つとして、氏名・顔写真・所属を使って本人が開設したように装ったアカウントを、フォロワー数に左右されず明白な権利侵害と認めた判決があります(東京地方裁判所令和2年6月19日判決)。書籍を出すときの通称(東京高等裁判所平成30年6月13日判決)や、近親者と共同で使ってきた活動名(東京地方裁判所令和4年2月3日判決(令和3年(ワ)第20889号))も同じです。
- 肖像権 顔写真をアイコンにしたなりすましアカウントは、本人が私人であれば、使用の目的が不当で必要性がなく態様も悪質だとして、受忍限度を超える肖像権の侵害とされます(東京地方裁判所令和2年6月26日判決、同令和4年12月8日判決、奈良地方裁判所葛城支部令和4年10月6日判決)。本人が自分の SNS で公開していた写真でも、使用の目的に照らして判断されるため、結論は変わりません(東京地方裁判所令和4年9月8日判決)。
- 名誉感情(侮辱) 本人を名乗るアカウントから、本人が自分の問題点を省みているような見かけで本人をばかにする投稿は、社会通念上許される限度を超える侮辱とされました(東京地方裁判所令和4年3月14日判決)。本人の氏名を名乗って親族の関係先に口コミを書き込んだ事案では、一般の読者には本人と分からなくても、名誉感情の侵害には一般読者にとっての同定可能性を要しないとして開示が認められています(同令和4年7月22日判決)。
- プライバシー なりすましアカウントから本人の不貞や家族に関する事実(東京地方裁判所令和3年3月12日判決)や私的な場面の写真(同令和3年9月15日判決(令和3年(ワ)第719号))を公開した事案のほか、酷似した名称のアカウントが周囲に隠していた勤務先をうかがわせる表示をした事案(同令和5年2月8日判決)で認められています。
- 著作権 本人のアイコン画像(イラスト)を無断で使ったなりすましアカウントについて、複製権・公衆送信権の侵害で開示を認めた判決が2件あります(東京地方裁判所令和3年7月16日判決、同令和3年10月15日判決)。いずれも、名前をもじったアカウントで別人と分かるため名誉権の侵害は否定され、著作権と名誉感情の侵害で開示に至りました。
- アイデンティティ権 大阪地方裁判所平成28年2月8日判決は、名誉毀損・プライバシー・肖像権に当たらないなりすましでも「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」の侵害が問題になり得るとしつつ、許容限度の共通認識はまだ形成されていないとして認めませんでした(控訴審の前記大阪高等裁判所平成28年10月6日判決は、名誉毀損を理由にこの判決を取り消しています)。その後も、この権利だけで請求を認めた判決はなく、損害賠償の事案(大阪地方裁判所平成29年8月30日判決)やアカウント削除の事案(東京地方裁判所令和6年3月12日判決)で否定されています。
2. なりすまし自体は違法か――何を投稿したかで決まる
相談で最も多い質問は、「なりすまされたこと自体で訴えられるのか、投稿の内容が問題なのか」です。判決を見ると、答えは使われた要素によって分かれます。
氏名を使われた場合 氏名権の構成では、投稿の内容が本人の評価を下げるものでなくても侵害が認められています。前記の東京地方裁判所令和2年6月19日判決の投稿は、出版社の編集部に対する問いかけの形でした。著名人の氏名と似顔絵を使った11個のアカウントについて、X の運営会社は「なりすましが違法となるのは極めて限定的な場合に限られる」と主張しましたが、裁判所は「氏名を冒用されない権利を安易に制限するものといわざるを得ず、にわかに採用できない」として退け、パロディだとする主張も認めませんでした(東京地方裁判所令和4年6月13日判決)。投稿が非公開で、通称・顔写真・紹介文からなるプロフィールだけが問題になった事案でも、氏名権の侵害は認められています(前記の東京高等裁判所平成30年6月13日判決)。
顔写真を使われた場合 肖像権の構成では、「本人になりすます目的で写真を使った」こと自体が目的の不当性として考慮されます。本人を装って性的なやり取りをするための投稿(東京地方裁判所令和5年6月16日判決)や、入浴中の盗撮写真を晒すためのなりすまし(同令和4年10月31日判決)は、いずれも肖像権の侵害が明らかとされました。
名誉権の構成では投稿内容が問われる 本人になりすまして何を書いたかで「本人がこういう人物だ」という印象が決まるため、投稿内容が判断の中心になります。施術者の実名を挙げて責任を追及する投稿は本人を「攻撃的なクレーマー」と印象づけるとされ(東京地方裁判所令和3年6月17日判決)、弁護士の氏名を使った要求と非難の投稿は、弁護士に求められる品位の観点から社会的評価を下げるとされました(同令和3年9月15日判決(令和3年(ワ)第8872号))。内容が本人側の事業を宣伝するものでも、評価の低下は「記載内容によるものではなく、原告自身の投稿であるかのような態様によるもの」だとして名誉毀損を認めた判決もあります(同令和2年6月4日判決)。逆に、匿名掲示板で本人の氏名を投稿者名にしただけで、内容も「多少の誇張ないし下品な表現」にとどまる投稿は、許容範囲内として開示が認められませんでした(同平成25年2月25日判決)。
真実性の抗弁は成り立たない 通常の名誉毀損では、書かれた事実が真実であれば違法性がなくなりますが、なりすましでは本人が発言していない内容を本人の発言として示しているので、裁判所は「なりすましによるものであることに照らして、上記の摘示事実が真実であると認められる余地はない」としています(東京地方裁判所令和4年12月21日判決、同平成30年8月9日判決)。開示請求では請求する側が虚偽であることを示す必要がありますが、なりすましの事案ではこの負担がほとんどありません。
一見して偽物と分かる場合 名前をもじったアカウントや、からかう目的が明らかなアカウントは、閲覧者が本人の投稿と受け取らないため名誉権の侵害は否定されますが、本人を揶揄する投稿は名誉感情の侵害に、本人の画像の使用は肖像権や著作権の侵害に当たるとして開示が認められています(前記の東京地方裁判所令和3年7月16日判決、同令和3年10月15日判決、同令和5年1月18日判決)。
3. 開示が認められた例(媒体別)
発信者情報開示の判決73件を媒体で分けると、X 42件(全部棄却5件)、Instagram 10件(棄却なし)、掲示板(2ちゃんねる、爆サイ.com など)10件(棄却1件)、Facebook 2件、Googleマップ 2件、ブログ 2件、SNS名非公表2件(棄却1件)、出会い系サイト、地図サービス、YouTube が各1件です。X の棄却5件のうち4件は、後述する手続上の理由によるものです。
- X 氏名と顔写真を使ったアカウントからの性的な投稿(東京地方裁判所令和4年5月6日判決。氏名権と名誉権)、金品目当ての交際をしたという趣旨の投稿(同令和3年6月29日判決。名誉権と肖像権)、本人がアカウントを消した当日に同じ名前で作られたアカウントの投稿(同令和3年4月27日判決。十数分で消えた投稿でも名誉毀損)などで開示が認められています。運営会社に電話番号・メールアドレスの開示を命じた判決もあります(前記の東京地方裁判所令和4年6月13日判決)。
- Instagram 10件すべてで開示が認められ、7件は顔写真の無断使用(肖像権など)、残りは氏名権・名誉権、名誉感情、プライバシーの侵害です。氏名と肖像を使って本人をおとしめる自己紹介文を載せた投稿は「正当な意見ないし論評の域を超えた人格攻撃」とされ(東京地方裁判所令和2年11月24日判決)、顔写真を載せたアカウントの名前欄を本人の氏名と「死」を結び付ける表記に変えた行為は、名誉感情の侵害とされました(同令和5年8月7日判決)。
- Facebook、掲示板 Facebook で同じ氏名のアカウントが多数(本人の主張では50以上)作られ卑猥な記事が投稿された事案(東京地方裁判所平成27年7月2日判決)、顔写真をプロフィールにしたアカウントが不貞や家族の事実を投稿した事案(前記の東京地方裁判所令和3年3月12日判決)で開示が認められています。爆サイ.com で本人を装い、体つき・服装・勤務先の情報と性的な誘いに応じる旨の投稿を短時間に繰り返した事案では、一連の投稿全体から名誉毀損が認められました(東京地方裁判所令和4年7月28日判決)。
- Googleマップ、出会い系サイト 本人の姓名を名乗るアカウントから本人の元勤務先や住所地の市役所などに書き込まれた口コミについて、本人の居住地を知る者が本人の投稿と認識できる5件の開示が認められ、遠方の施設への1件は否定されました(東京地方裁判所令和4年5月24日判決)。出会い系サイトに本人の写真と名前を使ったプロフィールを載せた事案では、名誉権・名誉感情・プライバシー・肖像権の侵害がいずれも明らかとされました(同令和4年12月23日判決)。
- 会社・団体のなりすまし 法人になりすました事案は6件で、5件で開示が認められています。学校法人の理事長の名を冠したアカウントの投稿(東京地方裁判所令和3年1月19日判決)、会社名のアカウントから「オーナー提供」として代表者の写真を投稿した事案(同令和5年1月31日判決。法人の名称を冒用されない権利と代表者の肖像権)、社会福祉法人の名称とロゴを使ったチャンネルに介護中の動画を投稿した事案(同令和5年8月18日判決)、登録商標を名乗って商品券の取引を呼びかけた事案(同令和6年1月16日判決。営業権)があります。
4. 開示が認められなかった例とその理由
閲覧者が本人の投稿と誤認しない 匿名掲示板で風俗店の経営者を名乗り差別的な内容を書いた投稿は、匿名掲示板であえて実名を告げる者はいないから本物と信じる者はほとんどおらず、読み進めれば悪ふざけと分かるとして、開示が認められませんでした(東京地方裁判所平成28年1月25日判決)。本人の氏名と字形が似た1〜2字違いのユーザー名で本人の友人を攻撃した投稿は、友好関係にある相手を似た名前で批判するのは不合理で、本人の投稿と認識される可能性は極めて低いとして、氏名権・アイデンティティ権・名誉権のいずれも否定されました(同平成31年3月20日判決)。芸名を名乗る短文の繰り返しの後にハートの絵文字を付けた投稿も、なりすましによる侵害には「本人の言動であると閲覧者が受け止めるほどに通用性を持っていることが不可欠の前提」であるとして、認められていません(同令和3年8月4日判決)。
もっとも、なりすましだと指摘する投稿があっただけでは誤認は否定されません。前記の大阪高等裁判所平成28年10月6日判決は、投稿の直後に掲示板上でなりすましの可能性が指摘されていても、「閲覧者の全てが過去の投稿やその指摘を併せて閲覧するとは限らない」として原審の判断を覆しました。なりすましアカウント自身が「本人ではない」と投稿していた事案でも、本人のアカウントだと思っている人には本人の投稿と受け取られるおそれが高いとされています(前記の東京地方裁判所令和3年4月27日判決)。
ログイン記録と投稿が結び付かない X や Instagram は投稿時のIPアドレスを保存せず、ログイン時の記録から投稿者をたどります。初期の判決には、投稿の後のログインを媒介した接続プロバイダは開示の相手方にならないとして棄却したものがあり(東京地方裁判所平成28年1月26日判決、同平成29年11月24日判決)、後者は前記の東京高等裁判所平成30年6月13日判決が取り消し、その後の判決は、特段の事情がない限りログインした者と投稿者は同一と推認する扱いで固まっています。それでも、投稿の1か月半後のログイン(同令和4年2月2日判決)、予約投稿機能が使われたためログインと投稿が結び付かない場合(同令和4年3月7日判決)、1秒単位で数十人から千人以上が同じIPアドレスを使うプロバイダで契約者を一人に絞れない場合(同令和5年1月26日判決)は認められていません。2022年10月施行の改正法の下では、開示の対象になるログインは原則として投稿ごとに最も近い1つとされています(前記の東京地方裁判所令和6年1月16日判決)。ログイン型の論点は「開示が認められなかった投稿の類型」にまとめています。
なりすましの事案では、アカウントが本人への嫌がらせという限られた目的で作られていることが、ログインした者と投稿者が同一だと推認する事情として働き、投稿の5か月以上後のログインでも開示が認められています(前記の東京地方裁判所令和4年9月8日判決)。投稿に近い複数のログインの全部を開示の対象とした高裁判決もあります(大阪高等裁判所令和5年5月11日判決)。
5. 投稿やアカウントの削除
運営会社への報告 X、Instagram、Facebook には、なりすましを報告する窓口があります。Instagram と Facebook では、本人の写真を使ったなりすましアカウントは、本人確認書類を添えて報告すれば停止されることがあります。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、大規模なプラットフォーム事業者には、削除の申出窓口を整備し、判断の結果を原則14日以内に通知する義務が課されました。一方、報告でアカウントが停止されると、投稿者を特定するための証拠が失われます。損害賠償まで考えている場合は、アカウントのURL、プロフィール画面、各投稿の表示画面と日時を保存してから、報告と開示請求の順序を決めます。
裁判所の手続による削除 Googleマップに本人の氏名を逆に表記した投稿者名で整骨院を批判する口コミが投稿された事案で、大阪地方裁判所令和2年9月18日判決は、氏名を冒用されない権利は「強固なものとして保護される」とし、運営会社が主張した、なりすましの認定・誤認の明白性・受忍限度の3要件を満たす場合に限るという枠組みを採用せず、投稿の削除を命じました。運営会社が削除を怠ったことによる損害賠償は、過失がないとして認めていません。
アカウント自体の削除 X のなりすましアカウントについて、投稿者の開示は認めながら、アカウント自体の削除は認めなかった判決があります(前記の東京地方裁判所令和6年3月12日判決)。アカウント名やプロフィール画像は自由に変更できるので氏名ほど本人を象徴する度合いが高くないこと、アカウントの削除は情報発信そのものを妨げるもので、保有者が関与しない運営会社相手の手続で判断するのは相当でないことが理由です。Instagram と Facebook では、プロフィールも投稿もすべて本人の不倫を話題にするアカウントの削除を命じた判決がありますが(東京地方裁判所令和5年6月15日判決)、なりすましの事案ではありません。投稿者が特定できた後に、投稿者本人に対して本人を識別できる情報の公開を禁じる差止めを認めた判決はあります(同平成28年8月25日判決)。
6. 損害賠償の額
なりすましの投稿者に対する損害賠償の判決は、データベースに3件しかありません。開示の判決73件に比べて少ないのは、投稿者が特定された後は示談で解決することが多いためと考えられますが、統計はありません。
- 大阪地方裁判所平成29年8月30日判決 SNS で本人と同じアカウント名と顔写真を使って他の利用者を罵倒した投稿者に対し、名誉権と肖像権の侵害を認め、慰謝料60万円、特定のための仮処分と開示訴訟の弁護士費用58万6000円の全額、訴訟の弁護士費用12万円の合計130万6000円の支払を命じました(請求額723万6000円)。
- 東京地方裁判所平成28年8月25日判決 元顧客が、本名を示した掲示板への中傷、死を求めるメール、弁護士の警告後のなりすまし Facebook ページの開設を続けた事案で、慰謝料100万円と前記の差止めを認めました。一連の行為に対する額です。
- 東京地方裁判所平成28年4月8日判決 なりすましメールや掲示板への投稿など9件の表現行為について賠償を求めた事案で、発信者情報開示で氏名が判明した投稿1件だけを被告の関与と認め、22万円を認めました。開示で特定できた投稿以外まで同じ人物の仕業だと立証する難しさを示しています。
誹謗中傷の判決全体の水準は「ネット上の誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」に、特定にかかった費用がどこまで認められるかは「投稿者の特定にかかった費用は取り戻せるか」にまとめています。刑事については、なりすましそのものを処罰する規定はなく、投稿の内容によって名誉毀損罪や侮辱罪の対象になり、本人のアカウントを乗っ取った場合は不正アクセス禁止法の対象になります。進め方は「刑事告訴」の記事をご覧ください。
7. 見通しを立てるときに確認する点
- 何が使われたか 氏名(通称を含む)、顔写真、本人のアカウントと同じ表示名やユーザー名、所属や経歴のうち、どれが使われているかで主張できる権利が決まります。氏名があれば氏名権、顔写真があれば肖像権を軸にでき、投稿内容への依存が小さくなります。
- 本人の投稿と受け取られる作りか 名前をもじっている、からかう目的が明らかといった場合、なりすましとしては扱われず、名誉感情や著作権の構成を検討します。知人から「あなたですか」と確認の連絡があった事実は、誤認が現に生じたことを示す資料になります(東京地方裁判所令和4年8月24日判決は、本人の別のアカウントだと受け止めた者が現にいたことを考慮しています)。
- 何を投稿されたか 暴言、性的な内容、他人への攻撃、私生活上の事実は、名誉権・名誉感情・プライバシーの侵害になります。投稿がごく短い、または無害な内容である場合は、氏名権か肖像権で構成できるかが分かれ目です。
- 投稿からどのくらい経っているか X と Instagram では、運営会社のログイン記録と接続プロバイダの通信記録の保存期間の中で手続を進める必要があります。アカウントが消される前に、プロフィール画面と各投稿を日時が分かる形で保存します。
8. 裁判例
本記事で触れた裁判例は次のとおりです。各リンク先に、事案の概要と判決理由の骨子があります。
- 東京地方裁判所平成25年2月25日判決 2ちゃんねるで本人の氏名を投稿者名にした投稿について、匿名掲示板では一般読者が本人の投稿と考えるものではなく、内容も許容範囲内として開示を認めず、氏名を挙げて処罰歴を示す投稿は開示を認めた
- 東京地方裁判所平成27年7月2日判決 Facebook で同じ氏名のアカウントが多数作られ卑猥な記事が投稿された事案で、ログイン・ログアウトの記録から投稿の時間帯を特定して開示を命令
- 東京地方裁判所平成28年1月25日判決 爆サイ.com で風俗店の経営者を名乗る差別的な投稿について、匿名掲示板では本物の経営者の投稿と誤信する者はほとんどいないとして開示を棄却
- 東京地方裁判所平成28年1月26日判決 X のなりすましアカウントについて、投稿の後のログインを媒介した接続プロバイダは開示の相手方にならないとして棄却
- 大阪地方裁判所平成28年2月8日判決 名をもじった表示名と顔写真を使った SNS の投稿について、名誉・プライバシー・肖像権の侵害を否定し、アイデンティティ権の侵害も慎重に判断すべきとして認めなかった(控訴審で取消し)
- 東京地方裁判所平成28年4月8日判決 なりすましメールなど9件の表現行為のうち、開示で氏名が判明した掲示板の投稿1件だけ被告の関与を認め、22万円の賠償を命令
- 東京地方裁判所平成28年8月25日判決 元顧客による中傷となりすましの Facebook ページについて、慰謝料100万円と、本人を識別できる情報の公開の差止めを命令
- 大阪高等裁判所平成28年10月6日判決 顔写真と名前由来のハンドルネームで他の利用者を侮辱した投稿について、本人がそのような投稿をする人物との事実を摘示したものとして名誉毀損を認め、原判決を取り消して開示を命令
- 大阪地方裁判所平成29年8月30日判決 同じアカウント名と顔写真で他の利用者を罵倒した投稿者に、名誉権・肖像権の侵害を認め、特定費用の全額を含む130万6000円の賠償を命令。アイデンティティ権の侵害は受忍限度内として否定
- 東京地方裁判所平成29年11月24日判決 通称を使ったなりすましアカウントについて、投稿後のログインを媒介した接続プロバイダへの請求を棄却(控訴審で取消し)
- 東京高等裁判所平成30年6月13日判決 投稿後のログイン時の情報も投稿者のものと認められれば開示の対象になるとし、通称であっても人格の象徴なら冒用されない権利があるとして、原判決を取り消して開示を命令
- 東京地方裁判所平成30年8月9日判決 なりすまし投稿は虚偽であることが明らかで違法性阻却事由はないとし、契約者の回答の不自然さから契約者またはその子を投稿者と認めて開示を命令
- 東京地方裁判所平成31年3月20日判決 氏名と字形が似た1〜2字違いのユーザー名で知人を攻撃した投稿について、本人の投稿と認識する可能性は極めて低いとして、氏名権・アイデンティティ権・名誉権の侵害を否定
- 東京地方裁判所令和2年6月4日判決 掲示板で本人の姓を名乗り、本人側の事業を宣伝し他の利用者を見下した書き込みについて、本人の投稿のような態様自体が社会的評価を下げるとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和2年6月19日判決 氏名・顔写真・所属を使って本人が開設したように装った X のアカウントについて、氏名権の明白な侵害を認め、ログイン時の情報の開示を命令
- 東京地方裁判所令和2年6月26日判決 高校生になりすまして顔写真を使った X のアカウントについて肖像権侵害を認め、運営会社に SMS 認証用の携帯電話番号の開示を命令
- 大阪地方裁判所令和2年9月18日判決 本人の氏名を使った投稿者名の Googleマップの口コミについて、氏名を冒用されない権利に基づき運営会社に削除を命じ、削除を怠ったことによる損害賠償は否定
- 東京地方裁判所令和2年11月24日判決 Instagram で本人の氏名と肖像を使い、おとしめる自己紹介文を載せた投稿について、人格攻撃にほかならないとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年1月19日判決 学校法人の理事長の名を冠したアカウントの投稿について名誉毀損を認め、投稿と同じ日のログイン分に限って開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年3月12日判決 Facebook で本人の写真を使ったなりすましアカウントが不貞や家族の事実を投稿した事案で、日本の管轄とプライバシー侵害を認め、運営会社に SMS 用メールアドレスと電話番号の開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年4月27日判決 本人がアカウントを消した当日に同じ名前で作られた X のアカウントの投稿について、十数分で消えた投稿でも名誉毀損が成立するとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年6月17日判決 Instagram で本人の氏名のアカウントから施術者の実名を挙げて責任を追及する投稿がされた事案で、名誉権と氏名権の侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年6月29日判決 顔写真を使った X のなりすましアカウントから金品目当ての交際をしたとの趣旨の投稿がされた事案で、名誉権と肖像権の侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年7月16日判決 名前に似せたアカウントが本人のイラストをアイコンに使って揶揄した事案で、なりすましが明白なため名誉権は否定し、著作権と名誉感情の侵害で開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年8月4日判決 ホストラブで芸名を名乗りハートの絵文字を付けた投稿について、閲覧者が本人の言動と受け止める通用性がなく、茶化す意図の投稿と理解されるとしてなりすましによる侵害を否定
- 東京地方裁判所令和3年9月15日判決(令和3年(ワ)第719号) 本人名義のなりすましアカウントに私的な場面の画像が投稿された事案で、プライバシー侵害を認め、投稿前のログインを媒介したプロバイダに開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年9月15日判決(令和3年(ワ)第8872号) 弁護士の氏名を使ったアカウントの投稿21件について氏名権と名誉権の侵害を認め、投稿から約40日後のログイン時の情報の開示を命令
- 東京地方裁判所令和3年10月15日判決 名前をもじったアカウントが本人のプロフィール画像を使って卑猥な言葉でからかった事案で、別人によるものと分かるため名誉権は否定し、著作権と名誉感情の侵害で開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年2月2日判決 なりすまし投稿から約1か月半後のログイン時の情報は開示の対象に当たらないとして棄却
- 東京地方裁判所令和4年2月3日判決(令和3年(ワ)第20889号) 近親者と共同で使ってきた活動名を名乗るアカウントについて、共同名義の通称でも冒用されない権利があるとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年3月7日判決 2名になりすましたアカウントについて、一方は氏名権の侵害で開示を認め、予約投稿機能が使われた他方は接続プロバイダが開示の相手方に当たらないとして棄却
- 東京地方裁判所令和4年3月14日判決 本人を名乗るアカウントから本人が省みているような見かけで人格を攻撃した投稿などについて、名誉感情の侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年5月6日判決 氏名・所属・写真を使ったアカウントからの性的な投稿について、氏名権と名誉権の侵害を認め、悪ふざけと分かるとの主張を退けて開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年5月24日判決 本人の姓名を名乗るアカウントから公的機関などに書き込まれた Googleマップの口コミについて、本人の投稿と受け取られる5件に限って開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年6月13日判決 著名人の氏名と似顔絵を使った X の11アカウントについて、氏名を冒用されない権利の侵害は明らかとし、なりすましが違法となるのは限定的な場合だとする運営会社の主張を退けて電話番号等の開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年7月22日判決 本人を名乗るアカウントで親族の関係先に投稿された Googleマップの口コミについて、一般の読者に本人と分からなくても名誉感情の侵害は成立するとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年7月28日判決 爆サイ.com で本人を装い性的な内容の投稿を短時間に繰り返した事案で、一連の投稿全体から名誉毀損が明らかとして開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年8月24日判決 本人になりすました一連の X の投稿について、本人の別のアカウントだと受け止めた者が現にいたことなどから本人の発信と理解されるとし、名誉権と肖像権の侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年9月8日判決 Instagram の写真を使って実在の人物が発信しているように装った X の投稿について肖像権侵害を認め、投稿の5か月以上後のログイン時の情報の開示を命令
- 奈良地方裁判所葛城支部令和4年10月6日判決 本人の名前と同じ読みのアカウントで本人の写真を投稿し友人に卑猥なメッセージを送った事案で、手段と目的が不当かつ悪質な肖像権侵害として開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年10月31日判決 Instagram のなりすましアカウントによる入浴中の盗撮写真の投稿について肖像権侵害を認め、投稿に最も近いログインの契約者情報の開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年12月8日判決 顔写真をアイコンに使った Instagram のなりすましアカウントについて、目的が不当で態様も悪質な肖像権侵害として運営会社に開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年12月21日判決 医師になりすましたアカウントの投稿について、なりすましである以上真実と認められる余地はないとして名誉権侵害を認め、1秒前に別回線のログインがあっても開示を命令
- 東京地方裁判所令和4年12月23日判決 出会い系サイトに本人の写真と名前を使ったプロフィールが投稿された事案で、名誉権・名誉感情・プライバシー・肖像権の侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年1月18日判決 本人と同じプロフィール画像だが名称を本人をからかうように変えたアカウントについて、なりすましの主張は退け、肖像権と名誉感情の侵害で開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年1月26日判決 ログインごとに該当する契約者が複数いる場合に、複数のログインに共通する契約者の情報を求めた請求を棄却
- 東京地方裁判所令和5年1月31日判決 会社になりすましたアカウントが代表者の写真を「オーナー提供」として投稿した事案で、法人の名称を冒用されない権利と代表者の肖像権の侵害を認めて開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年2月8日判決 本人のアカウントと酷似した名称のアカウントが周囲に秘匿していた勤務の事実を黙示的に公表したとして、プライバシー侵害を認めて開示を命令
- 大阪高等裁判所令和5年5月11日判決 Instagram のなりすまし投稿について、投稿に近い複数のログインは1件だけでは投稿者を特定できるとは限らないとして、全部の開示を認めた原判決を維持
- 東京地方裁判所令和5年6月15日判決 本人の不倫を摘示し続ける Facebook・Instagram のアカウントについて、開示とアカウント自体の削除を命令(なりすましの事案ではない)
- 東京地方裁判所令和5年6月16日判決 本人を装って性的なやり取りをするため本人の写真を使った Instagram の投稿について、肖像権侵害を認め、投稿に最も近いログインの開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年7月13日判決 X のなりすましアカウントのプロフィール欄の記載だけで名誉毀損を認め、なりすまし行為は真実を摘示するものとはいえないとして運営会社に開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年8月7日判決 本人の顔写真を載せた Instagram のアカウントの名前欄を氏名と「死」を結び付ける表記に変えた行為を名誉感情の侵害とし、電話番号を含む開示を命令
- 東京地方裁判所令和5年8月18日判決 社会福祉法人の名称とロゴを用いたチャンネルに介護の様子の動画が投稿された事案で、法人自身が公開したと受け取られるとして名誉毀損を認め、開示を命令
- 東京地方裁判所令和6年1月16日判決 登録商標を投稿者名に含む X のなりすまし投稿について営業権の侵害を認め、開示の対象になるログインは原則として投稿ごとに最も近い1つとした
- 東京地方裁判所令和6年3月12日判決 X のなりすましアカウントについて、第三者への誹謗中傷の投稿が名誉権と名誉感情を侵害するとして開示を認め、アイデンティティ権に基づくアカウント自体の削除請求は退けた
9. ご相談について
なりすましアカウントの投稿者の特定や削除をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。アカウントのURLと、氏名・写真のどれが使われ、どのような投稿がされているかをお知らせいただければ、上記の判決に照らして、どの権利で構成できるか、開示の見通しをお伝えします。証拠の保全は、ご相談の後に当事務所で行います。費用についてはFeeをご覧ください。
関連する解説
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資料
- 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項(開示請求の要件)、5条2項・3項(ログイン時の通信に係る開示、侵害関連通信)、同法施行規則5条(侵害関連通信の範囲)、大規模特定電気通信役務提供者の削除申出窓口と通知義務の規定(2025年4月1日施行)
- 刑法230条(名誉毀損罪)、231条(侮辱罪)、不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条・11条(アカウントの乗っ取り)
- 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースに収録している判決のうち、投稿者が本人を名乗る、または本人の氏名・顔写真・アカウント名を使って本人のアカウントや投稿に見せかけた事案を扱った77件(発信者情報開示73件、損害賠償3件、削除・損害賠償1件。2013年〜2024年)。権利の件数は、開示請求の判決で侵害を認めた根拠を数えたもので、複数の権利を認めた判決は重複して数えている。

サイバーアーツ法律事務所 弁護士(東京弁護士会、2007年登録)。インターネット上の権利侵害に関する事件のみを扱う。