元従業員・同僚の書き込みは特定・賠償できるか|判決130件で整理

元従業員を名乗る人が転職口コミサイトに職場の内情を書く、退職した従業員が掲示板やGoogleマップに書き込む、同僚が匿名掲示板に特定の社員のことを繰り返し書く。投稿者が社内の人間の場合、書かれた側は「誰が書いたか見当がつく」一方で、「内部の人の話だから本当だと思われる」という心配も抱えます。この記事は、当事務所の裁判例データベースから、投稿者が元従業員・従業員・同僚・元役員である事案、そう名乗った事案、そうみられた事案の判決・決定130件を選び、開示や賠償が認められた例と認められなかった例、投稿者の推認、損害額、開示費用、社内での対応を整理したものです。

会社・店舗への投稿全般は「会社・店舗の誹謗中傷」、書かれた内容が真実かどうかの争い方は「真実性の抗弁」、特定にかかった費用の一般的な扱いは「特定費用は取り戻せるか」にまとめています。本記事は、投稿者が内部の人間であることに特有の論点を扱います。

要点

  • 転職口コミサイトへの投稿について開示や削除を求めた判決83件のうち、全部認容30件、一部認容20件、請求した側の敗訴33件です。敗訴の理由は、社会的評価を下げない(感想や個人の経験にとどまる)15件、真実またはその可能性がある18件でした。高等裁判所の判決14件のうち11件は請求した側の敗訴です。
  • 内部の事情に詳しい書き方は、閲覧者に信用されやすいとして社会的評価の低下を認める方向に働きます。他方、投稿者が内部の人間であることは、真実である根拠にも、真実と信じた相当の理由にもならないとされています。退職者の不満と読まれる投稿は、評価を下げないとされた例があります。
  • 退職者の逆恨みや、解雇した元従業員の嫌がらせによる投稿だという会社側の主張は、裏付けがないとして採用されていません。退職者の実際の退職理由や有給休暇の消化状況といった具体的な事実が、投稿の真偽を分けています。
  • 投稿者の推認には、同じIPアドレスからの連続投稿、懲戒処分から約5時間後という投稿時刻、同じ機種の端末によるログイン、回線契約者の回答の内容などが使われています。会社の無線LANが使われた事案では、推認が認められた例と否定された例があります。
  • 投稿者本人を訴えた損害賠償13件のうち9件で賠償が認められ、1件あたりの認容額(投稿者に対する分の合計)は20万円から150万円、中央値60万円です。投稿者を開示前から認識していた可能性があるとして、開示費用を損害と認めなかった判決があります。
  • 投稿を理由とする解雇・懲戒解雇・雇止めの効力が争われた4件(同じ事件の控訴審を含む)は、いずれも無効とされました。会社が講師の懲戒解雇や元従業員の不正を自社のホームページやIRリリースで公表した行為には、賠償が命じられています。

1. 集計の対象

  • 転職口コミサイト 転職会議(30件)とその他の企業口コミサイト(53件)への投稿について、会社などが開示や削除を求めた判決83件。同じ投稿をめぐる一審と控訴審とみられる組が14組あり、事件の数では約69件です。
  • その他の媒体 掲示板、爆サイ.com、Googleマップ、YouTube、ブログなどで、投稿者が元従業員などを名乗ったか、内部者の投稿と扱われた・主張された30件。内部者のものとされた投稿について認められたもの22件、認められなかったもの8件です。
  • 投稿者を訴えた損害賠償 元従業員、元部下、同僚、元役員などを被告とする13件。
  • 雇用上の処分 投稿を理由とする解雇・懲戒解雇・雇止めの効力が争われた4件。

2. 転職口コミサイトの投稿で結論を分けたもの

転職口コミサイトの投稿は、労働環境の情報が転職を考える人に役立つとして公共性と公益目的が認められやすく、結論は「社会的評価を下げるか」と「真実か」で決まります。請求した側の敗訴は2013年〜2016年の17件中3件に対し、2017年〜2019年は33件中17件、2020年以降は33件中13件でした。

  • 評価を下げないとされたもの(15件) 社長がすべてを決める、会議で帰りが遅くなるといった記載は、利用者が「投稿の特性を理解した上で就職先の情報を収集するために本件サイトを利用している者」であることを前提に、主観的な感想とされました(東京高等裁判所平成29年8月23日判決)。女性であることを理由に外回りの営業を任されなかったという投稿は、投稿者個人の経験を述べたにすぎず、会社の評価を下げないとされています(東京地方裁判所令和元年9月24日判決)。賞与や退職金がないという投稿について、この程度で権利侵害を認めれば、従業員は「せいぜい差し障りのない内容しか表現することができず」、批判を投稿すれば表現の自由などが侵害される危険にさらされるとして、開示を否定した判決もあります(同令和3年1月22日判決(令和元年(ワ)第35193号))。
  • 真実またはその可能性があるとされたもの(18件) 投稿者の意見照会への回答が具体的だったもの6件、会社自身の資料や事実関係から真実またはその可能性がうかがわれたもの9件などです。社長らの働きかけで退職前に有給休暇を取得できないという投稿では、退職した従業員2名が有給休暇を相当日数残して退職していたことから、会社の意向が働いていたと推認されました(東京地方裁判所令和5年5月19日判決(令和5年(ワ)第2293号))。
  • 一審と控訴審で結論が分かれたもの 人事評価・離職率・新人教育の投稿は、一審で開示が認められた後(千葉地方裁判所平成29年10月12日判決)、控訴審では他の投稿者の同趣旨の投稿や離職率の報告書から重要な部分の真実がうかがわれるとされました(東京高等裁判所平成30年3月8日判決)。サービス残業の投稿も、一審は会社の従業員アンケートの報告書を踏まえて開示を認めましたが(東京地方裁判所平成31年2月21日判決)、控訴審は実名で署名押印させる確認書では足りないとしました(東京高等裁判所令和元年7月11日判決)。逆に、会社の陳述書だけでは足りないとした一審(東京地方裁判所令和2年3月25日判決(令和元年(ワ)第26941号))を、控訴審が、日時や人物を特定しない回答に対して事実の不存在の厳密な立証を求めるのは「およそそのような事実はないという不可能に近い立証を強いることになり,相当でない」として覆した例があります(東京高等裁判所令和2年11月11日判決)。

認められた例では、年収や残業時間の数値を同じ勤続年数の正社員の実績で(東京地方裁判所令和6年9月2日判決(令和5年(ワ)第20649号))、脱税や労働基準監督署からの呼出しを税務の経過や呼出しの回数と理由で(同令和5年4月20日判決)否定したように、会社が具体的な記録を出しています。

3. 内部の事情に詳しいことは、どちらに働くか

信用されやすいという方向 取引先との取引が減って経営が苦しいという元正社員の投稿は、具体的な根拠がなくても「原告の取引内容や売上,利益等の情報を知り得る立場の者が記載したものとして,一般の閲覧者がその内容をある程度信用できるものとして読むことは避けられない」とされました(東京地方裁判所平成25年4月24日判決)。製造業の会社のGoogleマップの口コミも、職場環境や製造装置の状況を挙げていることから「原告における勤務経験があるなど、原告の関係者による情報であり信頼性が高いと受け取られやすい」として、受忍限度を超えるとされています(同令和5年3月15日判決(令和4年(ワ)第19791号))。現役の従業員を名乗る株式掲示板の投稿(同令和4年4月27日判決(令和4年(ワ)第2027号))、元従業員を名乗るYouTubeの動画(徳島地方裁判所令和2年2月17日判決)も同じ考え方です。損害賠償でも、元社員が内情紹介の体裁で真実でない内容を織り交ぜた投稿は「これを読んだ者において真実と受け取る可能性が比較的高い表現方法であるといえる」とされました(東京地方裁判所平成28年8月5日判決)。

真実の根拠にはならないという方向 投稿者は会社の内情に通じた者だとプロバイダが主張した事案で、裁判所は「内部事情を知る者が本件書き込みをしたからといって,直ちに,それが真実であるとはいえず」とし(同平成25年2月26日判決)、ほかにも、仮に投稿者が元従業員であっても真実と信じる相当の理由はないとした判決(同平成25年10月9日判決)、投稿者が内部者に近い者だとしても「そのことをもって直ちに,本件記事の内容が真実であるとか,真実であると信じるにつき相当な理由があるということにはならない」とした判決(同令和3年3月26日判決(令和2年(ワ)第25358号))があります。勤務経験に基づく投稿だという主張も、裏付けの証拠がなければ採用されていません(同平成29年9月1日判決(平成29年(ワ)第7498号))。

退職者の不満と読まれる場合 退職した旨を述べて根拠なく会社を批判した投稿は「単なる一個人の主観的な感情以上の意味を有せず、原告の社会的評価が低下するとまでは考えにくい」とされました(同平成26年3月17日判決)。元従業員を被告とする損害賠償でも、具体的な根拠のない会社批判は「投稿者が原告の元従業員であるという前提を知らない一般の閲覧者としては、投稿者が、原告代表者のブログの内容から翻って推測した内容であるとしか理解しようがない」として、請求が棄却されています(同平成28年4月22日判決(平成27年(ワ)第16623号))。内部告発を迷う人への返信で内部告発や労働基準監督機関への相談を勧めた投稿についても、「内部告発や労働基準局への相談自体は,従業員としての正当な権利に根差すものであると考えられる」とされました(同令和3年4月15日判決(令和2年(ワ)第32713号))。

4. 退職の経緯と在職中のトラブル

  • 退職の経緯が投稿を支えた例 社長のモラルハラスメントを理由に辞めた人がいるという転職会議の投稿について、モラルハラスメントの認定は困難としつつ、元従業員の退職の経緯や職務分掌の文書をめぐるやり取りに接した投稿者がそう認識したことに「相当性をうかがわせる事情が存在するというべきである」として、開示が否定されました(東京地方裁判所平成29年5月23日判決(平成28年(ワ)第27141号))。
  • 会社が退職理由を示した例 事務員が1年で3名入れ替わったというGoogleマップの口コミは、3名の退職理由が労働環境以外にあったとして虚偽とされました(同令和3年3月24日判決)。
  • 逆恨みや嫌がらせだという主張 退職者の逆恨みによる投稿で、接続サービスの提供地域に住む従業員4名の一人だという会社の主張は、目的の推認も、投稿者がその一人であることも認められませんでした(東京高等裁判所平成30年6月6日判決)。歯科医院が、ユーザー名が一部の者しか知らない呼称であり解雇した元従業員の嫌がらせの可能性が高いと主張した事案でも、その呼称は珍しいものではないとされています(東京地方裁判所平成30年6月12日決定)。
  • 投稿者側の事情 施設でのハラスメントの深刻さを訴えた投稿者に対し、裁判所は、仮にそのような事実があっても「それは別途解決すべき事象にすぎず」、虚偽を含む投稿の違法性を失わせないとしました(同令和4年7月19日判決(令和4年(ワ)第11371号))。元同僚が、原告から受けたハラスメントが投稿のきっかけだとして過失相殺を主張した事案でも、投稿とは別の性質の行為だとして退けられ(同平成29年2月14日判決)、同僚どうしの事案では、相手に不当な発言があった場合でも、交渉や法的手段といった正当な方法で権利を回復すべきだとされています(同平成29年11月28日判決(平成27年(ワ)第17011号))。

5. 投稿者は誰か

投稿者が誰かが争われた判決は、次のような事情を手がかりにしています。

  • 投稿の時刻とIPアドレス 医院の口コミ3件のうち2件が5分違いで同じIPアドレスから投稿され、それが元従業員に減給の懲戒処分を科した約5時間後だったこと、元従業員やその親族は受診していないことなどから、投稿者は「同一人物であるか,少なくとも密接な関係がある者であると推認できる」とされ、受診していない人物の投稿として開示が認められました(東京地方裁判所令和2年11月18日判決(令和元年(ワ)第30492号))。
  • ログインの記録 投稿時のIPアドレスが残らないブログでも、同じ機種の端末で同じアカウントへのログインが続いていたことから「たまたま別の者が,同じメーカーの同じ機種を用いて,同じ通信事業者経由で,同じサイトに,同じID,パスワードによりログインするというのは考え難い」として、同一人物と推認されました(前記の東京地方裁判所令和3年3月26日判決)。
  • 契約者の回答 「本件の内容に関しては,契約者は関係ない」と答えるだけで「他に投稿した者が存するなどの具体的な事情を明らかにするものではない」契約者は、投稿者と認められました(同平成28年4月25日判決)。友人が書いたという回答も、「この種の書き込みは,無関係の第三者を装った内部者ないし関係者によって行われることも多いのであるから」として退けられています(同平成26年6月13日判決(平成25年(ワ)第32332号))。
  • 会社の無線LAN 元勤務先の元取締役が、会社の無線LANのセキュリティを外して第三者に使わせていたと主張した事案では、「セキュリティを解除し、第三者までも利用できるようにすることはおよそ考え難い」として開示された1件だけ本人またはその意を受けた者の投稿と推認され、内容や写真が共通する他の8件は推認されませんでした(同平成28年4月8日判決)。反対に、取締役名義の無線LANを社内で使わせていたという陳述を打ち消す証拠がなく、「本件書込みが被告によるものと断定することはできない」とされた例もあります(同平成28年2月8日判決)。
  • 名乗り出た人、否認した人 投稿者を名乗って削除を求めた元従業員は、投稿の記憶がなく登録情報も一致しないとして、投稿者と認められませんでした(同令和3年4月21日判決)。逆に、勤務先への詫び状や検察の取調べで投稿を否定していなかった元従業員の、なりすましだという主張は採用されていません(同平成29年10月17日判決(平成29年(ワ)第2538号))。
  • 社内の記録との照合 開示された住所を雇用関係の情報と照らし合わせることについて、元従業員または現従業員と考えられる投稿者への損害賠償請求は「利用目的の達成に必要な範囲を超えたものとまではいえない」とされ、当時の個人情報保護法に違反しないとされました(東京高等裁判所令和元年9月11日判決)。

6. 損害額

投稿者を被告とした13件のうち、賠償が認められた9件の投稿者に対する認容額は次のとおりです。いずれも2016年以降の判決です。

  • 元従業員がXで会社の法令違反や役員のハラスメントを繰り返し投稿: 会社100万円、役員50万円と投稿の削除(前記の東京地方裁判所平成29年10月17日判決)
  • 元従業員が掲示板に約2か月半で29件: 会社65万円(無形損害50万円、弁護士費用5万円、特定費用10万円)、代表者55万円(前記の同平成28年8月5日判決)
  • 元従業員の夫がXで歯科医師による医療費の不正請求などを投稿: 慰謝料80万円(千葉地方裁判所令和6年9月26日判決)
  • 同僚が二つの掲示板に繰り返し投稿: 74万9000円(前記の東京地方裁判所平成29年11月28日判決)。元同僚が約3か月で19件: 60万円(前記の同平成29年2月14日判決)。元部下が管理職のハラスメントや経費の私的流用を投稿: 55万円(同平成28年4月11日判決)
  • 懲戒解雇された元従業員が自分のサイトで会社を批判: 30万円と弁護士費用3万円、記述の削除(同平成28年12月26日判決)。アクセス数が毎月数十人程度であることなどが考慮されました。
  • 元取締役の投稿1件: 22万円(前記の同平成28年4月8日判決)。関係会社の元勤務者が社長と従業員の性的な関係を投稿: 会社に20万円(同平成28年2月17日判決)

会社が主張した採用広告費約650万円(前記の同平成28年2月17日判決)や、取引機会の喪失・応募辞退による損害(前記の同平成28年12月26日判決)は、投稿との因果関係が認められていません。認められなかった4件は、評価を下げないとされた元従業員の投稿(前記の同平成28年4月22日判決)、関与の証拠が足りない元取締役(前記の同平成28年2月8日判決)、前提事実が真実とされた労働組合の元役員のブログ(同平成27年1月15日判決(平成25年(ワ)第17197号))、役職だけでは動画の外部提供への関与を認められないとされた組合役員(同平成29年9月26日判決(平成27年(ワ)第12279号))の事案です。慰謝料の水準全体は「慰謝料・損害賠償額の一覧」をご覧ください。

7. 開示費用は回収できるか

特定費用を判断したのは4件で、全額が認められたのは同僚の事案1件(前記の東京地方裁判所平成29年11月28日判決)、減額されたのが3件です。関係会社の元勤務者の事案では74万4000円のうち8万円(前記の同平成28年2月17日判決)、元従業員の事案では52万5000円のうち10万円(前記の同平成28年8月5日判決)、元同僚の事案では73万5000円のうち5万円(前記の同平成29年2月14日判決)にとどまりました。4件とも2016年〜2017年の判決で、その後の判決では全額を認める例が増えています(「特定費用は取り戻せるか」)。

投稿者に心当たりがある場合に固有の問題もあります。会社の代表者が投稿者のアカウントを認識してメッセージを送っていたとうかがわれる事案では、投稿者を認識していた可能性を否定できず、開示手続の必要性がないとして、開示費用が損害と認められませんでした(東京地方裁判所令和6年9月4日判決(令和5年(ワ)第26849号))。投稿者本人が訴訟に参加し、申立人も投稿者を認識していた事案では、「被告は,本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由をもはや有していないものといわざるを得ない」として、開示命令自体が取り消されています(同令和6年3月21日判決(令和5年(ワ)第26526号))。一方で、前記の平成28年2月8日判決のように、心当たりがあっても裁判で投稿者と認められないことがあり、開示で確定させるか本人に直接請求するかは心当たりの程度によります。

8. 社内での対応

  • 投稿を理由とする解雇 勤務先をブラック企業と呼ぶ講師のツイートについて、裁判所は「これは,被告の名誉や信用を毀損するものとして,違法性を有する行為である。」としつつ、「被告は,本件解雇前にこれらの記載を注意したり,削除を求めたりしてはいないことに照らし,これらの記載をしたことが,労働契約を解消するほどの信頼破壊行為であると認めることはできず」として解雇を無効としました(東京地方裁判所平成29年6月23日判決)。控訴審も、フォロワーが251人にとどまり中傷のツイートがほとんどリツイートされていないことなどを挙げて、無効を維持しています(東京高等裁判所平成30年1月24日判決)。
  • 同僚を中傷した従業員の懲戒解雇 同僚の准教授の論文を匿名掲示板で中傷した准教授について、懲戒事由は認めつつ、投稿をやめたことを有利な事情とし、懲戒解雇は「重きに失して客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない」とされました(東京高等裁判所平成29年9月7日判決)。労働組合を批判するブログを理由とする元専従職員の雇止めも、一度も削除を求めていないことなどから無効とされています(東京地方裁判所平成28年1月29日判決(平成25年(ワ)第25952号))。解雇や懲戒の効力は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性で判断されます(労働契約法15条・16条)。
  • 秘密保持と誓約書 退職後の秘密保持義務は「当該情報が秘密保持義務の範囲内にあることが客観的に明確にされており,労働者の予測可能性を害する不当な制約にならない限りで,使用者はそうした義務を負わせることができる」とされ、秘密の定義も表示もなかった社内規程や議事録の掲載は義務違反とされませんでした(前記の東京地方裁判所平成28年12月26日判決)。退職後の効力を定める条項のない誓約書は、転職サイトへの投稿の公益目的を否定しないとされています(同令和4年9月30日判決(令和4年(ワ)第10554号))。
  • 社内での調査 代表者が在職中の従業員を何度も問い詰め、防犯カメラで見張り、会話を無断で録音した行為は「根拠が極めて乏しいにもかかわらず,上記のような社会通念上相当性を欠く行為に至ったものであり,その行為は違法というほかない」とされ、退職後のつきまといや、会社のブログに社内で不正があったとする記事を載せたことにも賠償が命じられました(同平成27年3月19日判決)。
  • 会社からの公表 講師の懲戒解雇の事実と理由をホームページに載せた行為は、「多数一般の利害に関係するものとして正当な関心の対象となり得るものとはいえない」として名誉毀損とされました(同平成28年2月4日判決(平成24年(ワ)第31531号))。上場企業が元従業員の実名を挙げて不正への関与を記載したIRリリースには300万円(東京高等裁判所平成30年4月12日判決)、診療所の医師が元従業員らを横領容疑で解雇したとSNSに書いた行為にも賠償が命じられています(東京地方裁判所平成26年9月24日判決(平成22年(ワ)第43163号))。反論は、事実の裏付けがある範囲にとどめる必要があります。

9. 同僚から中傷された従業員の方へ

会社の従業員個人に対する投稿は、会社の活動と違って公共の利害に関する事実とされにくい傾向があります。元部下が管理職のハラスメントを書いた事案では、原告は公職にない会社の従業員でその言動は私人の私的な事柄にとどまるとして公共性が否定され、元同僚の陳述書と本人の供述だけでは真実の証明にならないとされました(前記の東京地方裁判所平成28年4月11日判決)。勤務先の工場のスレッドに書かれた性的な投稿は、主に見るのが同僚と考えられ、同僚の目に触れるおそれが大きいことから、傷つく程度が一層深いとされています(同令和4年1月28日判決(令和3年(ワ)第24323号))。元勤務先のスレッドでは、社員などの関係者が多く読むと想定されるため、名前が書かれれば本人を指すと認められやすくなります(同令和3年11月24日判決(令和3年(ワ)第18376号)。この事案は評価の低下が明白でないとして開示は否定)。障害者の雇用枠での入社を明かした投稿はプライバシーの侵害とされましたが、根拠を示さずに気持ち悪いと述べる程度の投稿は限度を超えないとされた例もあります(前記の同平成29年2月14日判決)。侮辱的な投稿の扱いは「名誉感情の侵害」、開示が認められなかった投稿の類型は「開示が認められなかった投稿の類型」にまとめています。

10. ご相談について

元従業員や同僚によるとみられる投稿の削除、投稿者の特定、損害賠償をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と、書かれた事実について手元にある記録、投稿者に心当たりがあればその理由をお知らせいただければ、上記の判決に照らして見通しをお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。

関連する解説

11. 引用した判決

集計の対象: 当事務所の裁判例データベースのうち、一行要約・事案の概要・判決理由の骨子に元従業員、元社員、同僚、退職者、元職員、内部者、内部事情、転職会議、企業口コミなどの語を含む判決・決定から、投稿者が元従業員・従業員・同僚・元役員であるもの、そう名乗ったもの、そうみられたもの、当事者がそう主張したものを手作業で選んだ130件(2013年〜2024年)。転職口コミサイトの「敗訴」は請求した側の全部敗訴で、一部認容を含まない。一審と控訴審の組は、投稿の内容、当事者の業種、時期の一致から判断したもの。

  • 情報流通プラットフォーム対処法5条(発信者情報の開示請求)、8条(発信者情報開示命令)、民法709条・710条、労働契約法15条(懲戒)・16条(解雇)