逮捕された事実や有罪判決を受けた事実は、報道記事、SNSへの転載、掲示板の書き込み、検索結果などの形でインターネット上に残ります。刑事手続が終わり、罰金を納めたり刑の執行を終えたりした後も、氏名で検索すると当時の情報が表示され続けることがあります。
この記事では、こうした情報の削除を求める場合に、誰に対して、どのような根拠で、どのような手続をとるのか、裁判所がどのような事情を見て判断するのかを整理します。判断は事案ごとの比較衡量によるもので、同じ罪名・同じ経過年数でも結論が変わりうることを、最初にお断りしておきます。
要点
- 逮捕歴や前科は、プライバシーに属する事実として法的保護の対象になります。一定の条件のもとで、人格権に基づいて削除を求めることができます。
- 削除を求める相手方は、情報が置かれている場所によって異なります。報道機関、SNSの運営者、掲示板の管理者、検索事業者は、それぞれ別の相手です。
- SNS上の投稿については、最高裁令和4年6月24日判決が、公表されない法的利益と閲覧に供し続ける理由とを比較衡量し、前者が優越すれば削除を求めることができるという枠組みを示しました。
- 検索結果の削除については、最高裁平成29年1月31日決定が、法的利益の優越が「明らか」であることを求めています。SNSの投稿より削除のハードルが高い扱いです。
- 逮捕からの経過年数、刑の言渡しの効力が失われているか、元の報道記事が削除されているか、投稿の目的、氏名検索で表示されるか、本人の社会的立場などが、判断の材料になります。
逮捕歴の情報が残る場所と、削除を求める相手方
逮捕歴の情報は、通常、次のような経路で広がります。相手方が違えば、手続も判断の枠組みも違います。
報道機関のニュース記事。 逮捕当日に新聞社や放送局のウェブサイトに掲載される記事です。多くの報道機関は一定期間で記事を削除する運用をとっていますが、残っている場合は報道機関に削除を求めることになります。報道機関に対する請求では、報道の自由との関係が正面から問題になります。
SNSへの転載。 X(旧Twitter)などで、報道記事の一部を転載したり、リンクを貼ったりした投稿です。元の記事が削除された後も、転載した投稿は残ります。相手方はSNSの運営者、または投稿者本人です。
掲示板やまとめサイトの書き込み。 5ちゃんねる、爆サイ.comなどの掲示板や、それらを転載するまとめサイトです。相手方は掲示板の管理者やサイト運営者です。海外法人が運営している場合や、運営者の所在が不明な場合があります。
検索結果。 Googleなどで氏名を検索したときに表示される、上記の記事や投稿へのリンクとスニペット(抜粋)です。相手方は検索事業者です。検索結果の削除は、元のページを削除するものではなく、検索結果に表示されないようにするものです。
削除を求める際は、まずどこに何が残っているかを確認し、それぞれの相手方に対して順序を決めて対応することになります。元の記事が削除されていることは、転載投稿や検索結果の削除を判断する際の事情の一つになるため、対応の順序を考える必要があります。
削除を求める法的根拠
逮捕歴や前科は、個人のプライバシーに属する事実です。最高裁は、前科等にかかわる事実について、有罪判決を受けた者が社会復帰後に新しく形成している社会生活の平穏を害されず、その更生を妨げられない利益を有することを認めています(最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決)。
削除請求の根拠は、この人格権ないし人格的利益です。最高裁令和4年6月24日判決は、次のように述べています。
個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される
つまり、損害賠償を求めるのではなく、現在の侵害状態を止めること(削除)を、人格権に基づいて求める構成です。
ただし、逮捕や有罪判決の事実は、報道された時点では公共の利害に関する事実でもあります。そのため、削除が認められるかどうかは、本人の公表されない利益と、その情報を公開し続ける理由とを比較して判断されます。
削除が認められるかの判断枠組み
SNS上の投稿: 最高裁令和4年6月24日判決
約8年前の逮捕報道を転載したツイートについて、最高裁は、次の事情を比較衡量して削除の可否を判断するとしました。
- 事実の性質および内容
- 投稿によって事実が伝達される範囲と、本人が被る具体的被害の程度
- 本人の社会的地位や影響力
- 投稿の目的や意義
- 投稿がされた時の社会的状況とその後の変化
そして、公表されない法的利益が閲覧に供し続ける理由に「優越する場合には」削除を求めることができるとし、二審が採用していた「優越することが明らかな場合に限る」という基準を退けました。
判決の詳しい内容は、最高裁令和4年6月24日判決の解説をご覧ください。本件は、当事務所の弁護士が上告代理人を務めた事件です。
検索結果: 最高裁平成29年1月31日決定
検索結果の削除については、これより前に最高裁が別の枠組みを示しています。平成29年1月31日の決定は、検索事業者が現代社会において情報流通の基盤としての役割を果たしていることを踏まえ、当該事実を公表されない法的利益が優越することが「明らか」な場合に、検索結果からの削除を求めることができるとしました。
比較衡量する事情は令和4年判決とおおむね共通していますが、「明らか」という加重がある分、検索結果の削除のほうが認められにくい扱いになっています。令和4年判決は、Twitterについてはこの加重を課さないことを明らかにしたもので、検索結果とSNS投稿とで判断の枠組みが分かれた形です。
報道機関の記事、掲示板
報道機関の記事や掲示板の書き込みについては、令和4年判決や平成29年決定の考慮要素を参照しつつ、媒体の性質や投稿の目的に応じて判断されています。報道機関の記事については、報道機関自身が定める削除基準に基づく任意の対応が実際上の中心になります。
判断の目安になる事情
令和4年判決のあてはめは、逮捕歴の投稿について、裁判所がどの事情を重く見るかを示しています。以下は目安であり、どれか一つで結論が決まるものではありません。
逮捕からの経過年数と、刑の言渡しの効力。 刑法34条の2により、罰金以下の刑は執行を終えてから5年、禁錮以上の刑は10年を、罰金以上の刑に処せられずに経過すると、刑の言渡しは効力を失います。令和4年判決は、約8年の経過と刑の言渡しの失効を、公共の利害との関わりが小さくなった事情として挙げました。
元の報道記事が削除されているか。 転載元の記事が報道機関のサイトから既に削除されていることは、転載投稿を公開し続ける理由を弱める方向に働きます。
投稿の性質と目的。 逮捕当日に速報として投稿されたものか、長期にわたって閲覧されることを想定した論評や記録か。令和4年判決は、140文字で報道記事の一部を転載したツイートについて、速報目的で長期の閲覧を想定したものとは認め難いとしました。
氏名検索で表示されるか。 投稿が特に注目を集めていなくても、氏名で検索すれば表示される状態であれば、本人を知る人に伝わる可能性は小さくないと評価されました。
本人の社会的地位。 公職にある者や社会的影響力のある者については、公共性が維持されやすくなります。令和4年判決の原告は、父の事業を手伝って生活する私人でした。
犯罪の性質と重さ。 令和4年判決は、原告の事案について、不特定多数の者が利用する場所で行われた軽微とはいえない犯罪であることを認めた上で、なお削除を認めています。より重大な犯罪や、再犯の危険を具体的に危惧すべき事情がある場合には、公開を続ける理由が重く評価されることになります。
これらの事情は相互に関係します。たとえば経過年数が短くても、投稿の内容が氏名のみを摘示する目的のものであれば、削除が認められる余地があります。逆に経過年数が長くても、本人が公職に就いている場合は結論が変わりえます。
手続の流れ
削除を求める手続は、大きく任意の依頼と裁判手続に分かれます。
任意の削除依頼。 報道機関、SNS運営者、掲示板管理者に対して、削除を求める申出を行います。SNSや掲示板については、プロバイダ責任制限法(2025年4月施行の改正で「情報流通プラットフォーム対処法」に改称)に基づく送信防止措置の申出という形式があり、運営者は申出を受けて投稿者に意見照会を行った上で削除するかどうかを判断します。検索事業者に対しては、各社が設けている削除申請の窓口があります。
任意の依頼で削除されるかどうかは、相手方の運用によります。報道機関は独自の基準を持っていることが多く、SNS運営者は裁判所の判断がなければ応じない対応をとることがあります。
裁判手続。 任意の依頼で削除されない場合、裁判所に対して、削除を命じる仮処分の申立て、または削除を求める訴訟を提起します。仮処分は比較的短期間で判断が出る手続ですが、相手方が海外法人の場合には送達などに時間を要します。訴訟は判決まで時間がかかる一方、判断が確定します。令和4年判決の事件は、東京地方裁判所の一審判決(令和元年10月11日)から最高裁判決まで約2年8か月を要しました。
削除できても残る問題
投稿や記事が削除されても、次のような形で情報が残ることがあります。
- 再投稿。 削除された投稿と同じ内容が、別のアカウントや別の掲示板に再度投稿されることがあります。削除の効力は、削除を命じられた投稿に限られます。
- 検索エンジンのキャッシュや、まとめサイトへの転載。 元のページが削除されても、検索結果やまとめサイトに内容が残っている場合があります。それぞれに対して別途の対応が必要です。
- アーカイブサービス(いわゆる魚拓)。 ページの保存サービスに残っている場合、そのサービスの運営者に対する削除依頼が別途必要になります。海外のサービスであることが多く、対応は一様ではありません。
このため、削除を検討する際は、現時点で情報が残っている場所を一通り把握した上で、どこから対応するかを決めることになります。
ご相談について
逮捕歴や前科に関する記事・投稿の削除は、情報が残っている場所、経過年数、刑の種類、投稿の内容によって、とりうる手続と見通しが変わります。個別の事案の見通しについては、次の資料をお持ちの上でご相談ください。
- 削除を求めたい記事や投稿のURL(複数ある場合はすべて)
- 逮捕、起訴、判決または処分の時期と内容が分かる資料
- 氏名で検索したときの検索結果の状況(スクリーンショットなど)
費用はFeeをご覧ください。ご相談はContactのメールフォームから受け付けています。
資料と関連記事
- 最高裁判所 令和4年6月24日 第二小法廷判決(令和2年(受)第1442号 投稿記事削除請求事件): 判決全文(裁判所ウェブサイト PDF)
- 最高裁判所 平成29年1月31日 第三小法廷決定(平成28年(許)第45号): 検索結果削除。民集71巻1号63頁
- 最高裁判所 平成6年2月8日 第三小法廷判決(平成元年(オ)第1649号): 前科等の公表と更生を妨げられない利益。民集48巻2号149頁
- 東京地方裁判所 令和元年10月11日判決: 令和4年判決の第一審(削除認容)
- 刑法34条の2(刑の消滅)
- 関連記事: 最高裁令和4年6月24日判決の解説
- 裁判例データベース: X(Twitter)に関する裁判例/検索結果に関する裁判例