プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた方へ

携帯電話会社やインターネット接続業者(接続プロバイダ)から、「発信者情報開示に係る意見照会書」という書類が届くことがあります。あなたの回線から投稿された内容について、投稿された側が投稿者の氏名・住所の開示を求めており、開示に同意するかどうかを尋ねる書類です。X(旧Twitter)やYahoo!などのサイト運営者から届くこともあります。

この記事では、意見照会書が届いたときに何が起きているのか、回答の選択肢とそれぞれの帰結、回答書に書くべきこと、開示された後に起きること、裁判例を整理します。当事務所は開示を求める側の事件を多く扱っていますが、照会を受けた側の回答書の作成も行っています。

要点

  • 意見照会書は、開示請求を受けたプロバイダが法律上の義務として送るものです。届いた時点で、投稿された側はすでに裁判所の手続(仮処分や発信者情報開示命令)を進めていることが多く、回答期限は通常2週間程度と短く設定されています。
  • 回答書の内容は、プロバイダから裁判所に証拠として提出されることがあります。回答しなければ不同意として扱われ、手続はそのまま進みます。
  • 「自分は投稿していない」「回線を乗っ取られた」という回答は、裏付けがなければ裁判所に退けられるのが通常です。一方、投稿の内容が事実であることや、自分の体験に基づく批評であることを具体的に説明した回答が、開示請求の棄却につながった例があります。
  • 開示された後は、損害賠償の請求を受けるのが通常です。慰謝料のほか、相手方の弁護士費用の一部と、投稿者の特定にかかった費用(調査費用)が損害として認められることがあります。

1. 意見照会書とは

投稿によって名誉やプライバシーを侵害されたと考える人は、投稿者を特定するために、サイト運営者や接続プロバイダに対して発信者情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)の開示を請求できます。開示請求を受けたプロバイダは、開示するかどうかを判断する前に、発信者(回線の契約者)の意見を聴かなければなりません。これが意見照会で、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)6条1項に定められた手続です。

届く書類は、照会書、問題とされた投稿の写し、開示を求めている理由の要旨、回答書の様式です。回答書では、開示に「同意する」「同意しない」のどちらかを選び、同意しない場合はその理由を書く形になっています。

誰から届くか 多くの場合、携帯電話会社や固定回線の接続プロバイダから届きます。これは、投稿された側がまずサイト運営者からIPアドレスの開示を受け、そのIPアドレスを割り当てていた接続プロバイダを突き止めた段階にあることを意味します。サイト運営者から直接届く場合は、運営者が登録情報(電話番号やメールアドレス)の開示を求められている段階です。

回答期限 通常2週間程度です。2022年10月に始まった発信者情報開示命令の手続では、裁判所の審理の予定に合わせて照会が行われるため、期限が短いことがあります。期限を過ぎると、回答がないまま手続が進みます。

2. 届いた時点で何が起きているか

意見照会書が届いたということは、投稿された側が弁護士に依頼し、裁判所の手続を進めている段階にあるのが通常です。接続プロバイダから届いた場合、その前にサイト運営者に対する仮処分や開示命令があり、接続プロバイダに対しても、ログを消さないよう命じる手続や開示命令の申立てが行われていることが多いです。

回答書は、プロバイダから裁判所に証拠として提出されることがあります。東京高等裁判所令和6年10月23日判決の事案では、発信者の代理人が「投稿したことは事実だが開示には同意しない」と回答し、プロバイダがその回答書を開示命令事件の書証として提出しています。裁判所は、プロバイダの主張と、投稿された側の主張・証拠を見比べて、開示を命じるかどうかを決めます。回答書は、投稿者の言い分を裁判所に届ける事実上唯一の手段です。

3. 回答の選択肢と帰結

同意する プロバイダは裁判所の判断を待たずに氏名・住所などを開示します。その後、投稿された側の弁護士から、損害賠償の請求や投稿の削除の求めが届きます。投稿が明らかに権利を侵害するもので争う余地がない場合、早く同意して示談の交渉に入る方が、相手方の手続費用(後述の調査費用として請求される可能性があるもの)が増えるのを抑えられることがあります。

同意しない(理由を書く) プロバイダは開示を拒み、裁判所が開示の要件(権利侵害の明白性、開示を受ける正当な理由)を判断します。回答書に書いた理由と資料は、この判断の材料になります。開示を命じる決定や判決が出れば、プロバイダは開示します。

回答しない 同意しないのと同じ扱いで手続が進みますが、投稿者側の言い分は裁判所に伝わりません。東京地方裁判所令和5年4月18日判決は、プロバイダが意見照会をしたのに投稿していないとの回答があった旨の主張立証がないことを、ログインした者が投稿者である蓋然性を認める事情の一つに挙げています。

4. 「自分ではない」という回答はどう扱われるか

回線の契約者が「投稿に身に覚えがない」「回線を乗っ取られた」「無線LANのパスワードを解読された」と回答することがあります。裁判所は、仮処分などを経てIPアドレスから契約者にたどり着いた以上、特段の事情がない限り契約者が投稿者だと推認する立場をとっており、裏付けのない否認は退けられています。

  • 東京地方裁判所令和5年5月23日判決 契約者が身に覚えがないと回答した事案。「回答が真実であることを裏付ける証拠はなく、被告は上記契約者の回答の真偽を確認する調査を行った形跡もうかがわれない」として、開示を命じました。
  • 東京地方裁判所令和5年8月21日判決 無線LANのパスワードが解読された可能性を挙げた回答について、根拠のない抽象的な可能性にすぎないとして、契約者を投稿者と認めました。
  • 東京地方裁判所令和5年10月31日判決 不正アクセスの被害を理由に投稿を否定した回答について、裏付ける的確な証拠がなく、挙げられた不正アクセスは投稿とのつながりが示されていないとして退けました。
  • 東京地方裁判所令和5年2月17日判決 回線の乗っ取りを主張した事案で、「回線が乗っ取られるという事態がそれほど高い頻度で起こるとは考えにくい」とし、契約者の陳述が不自然な内容を含むことも指摘して、開示を命じました。

一方、裏付けのある説明が認められた例もあります。東京地方裁判所令和4年6月13日判決は、契約者が「複数の回線を持ち、多くの人に利用を許している法人で、投稿者ではない」と回答した事案で、回答の内容が不自然不合理とはいえないとして、契約者が投稿者とは認められないと判断し、開示請求を棄却しました。また、東京地方裁判所令和4年6月23日判決は、投稿者が回線契約者の同居人だと判明した事案で、契約者ではなく同居人の氏名・住所の開示を命じています。契約者本人が投稿していない場合でも、誰が投稿したかによって帰結が変わります。

逆に、回答書で投稿を認めると、その回答が「ログインした者と投稿者は同一人物」と認める前提に使われます(東京地方裁判所令和5年4月26日判決、知的財産高等裁判所令和5年3月23日判決)。投稿したかどうかについては、事実と違うことを書かないことが前提です。

5. 回答が開示請求の棄却につながった例

投稿者であることを前提に、投稿の内容が事実であることや、自分の体験に基づく批評であることを具体的に説明した回答が、裁判所の判断に影響した例があります。

  • 東京地方裁判所令和6年2月1日判決 営業代行会社を悪質と非難した掲示板の投稿について、投稿者が意見照会で「自身の経験した事実を踏まえた投稿である」と回答していたことなどから、真実である可能性があり、公共の利害に関し公益目的で違法性が阻却される可能性を否定できないとして、開示請求を棄却しました。
  • 東京地方裁判所令和4年7月10日判決 店舗内で違法行為が行われているとする掲示板の投稿について、契約者が店内の設備や店員の対応などを具体的に述べて回答した一方、店側が具体的な状況を明らかにしなかったことから、「真実でないとまで認めることはできない」として、開示請求を棄却しました。

開示が認められるには、投稿された側が「権利侵害の明白性」を立証する必要があります。名誉毀損の投稿であれば、内容が真実でないこと、公共性・公益目的がないことなどが立証されなければなりません。回答書で具体的な事実と資料を示すことは、この立証を揺るがす方向に働きます。

6. 回答書に書くこと

同意しない場合の理由は、法律上の要件に沿って書く必要があります。主な理由は次のとおりです。

  • 投稿が請求者を指していると閲覧者には分からないこと(同定可能性がないこと)
  • 投稿が事実の摘示ではなく意見・論評であり、その域を逸脱していないこと
  • 摘示した事実が真実であること、または真実と信じる相当な理由があること(根拠となる資料を添える)
  • 公共の利害に関する事実について、公益目的で投稿したこと
  • 侮辱の投稿について、社会通念上許される限度を超えていないこと
  • 投稿者が契約者本人ではない場合、その具体的な事情と裏付け

相手方への感情的な反論や新たな攻撃は、回答書に書くべきではありません。回答書は相手方にも裁判所にも読まれ、その後の損害賠償の手続でも使われます。事実と異なることを書くことも、後の手続で不利に働きます。

7. 開示された後に起きること

氏名・住所が開示されると、投稿された側の弁護士から、損害賠償の請求と投稿の削除・再投稿しないことの求めが届くのが通常です。示談で解決する場合と、訴訟になる場合があります。

損害賠償の内容は、慰謝料のほか、相手方の弁護士費用の一部(慰謝料額の1割程度とされることが多い)と、投稿者の特定にかかった費用(調査費用)です。東京地方裁判所平成29年11月28日判決は、匿名掲示板への投稿について、慰謝料に加えて投稿者の特定と削除にかかった調査費用の全額を損害と認めました。東京地方裁判所平成25年12月2日判決は、慰謝料20万円、弁護士費用5万円に調査費用を加えた計30万円の支払を命じています。認められる額は投稿の内容と事案によります。当事務所の裁判例データベースには、損害賠償が争われた裁判例を257件収録しています。

投稿の内容によっては、名誉毀損罪や侮辱罪として刑事告訴を受けることもあります。侮辱罪は2022年7月に法定刑が引き上げられています。

8. 裁判例

本記事で触れた裁判例は次のとおりです。各リンク先に、事案の概要と判決理由の骨子があります。

9. ご相談について

意見照会書が届いた方は、回答期限がありますので、届いた日のうちにメールフォームからご連絡ください。原則として翌営業日までに回答します。回答書(理由書を含む)の作成と送付までを当事務所で行います。費用についてはFeeをご覧ください。

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