会社・店舗・医療機関がネット上で誹謗中傷を受けた場合の投稿者の特定・削除・損害賠償(法人が請求した判決458件から)

会社、店舗、医療機関、学校、団体に対するネット上の投稿には、Googleマップや口コミサイトの口コミ、爆サイや5ちゃんねるの社名スレッド、転職サイトの元従業員の投稿、X での告発型の投稿、競合他社による告知、元従業員を名乗る YouTube の動画などがあります。この記事は、法人や事業主の立場から、投稿者の特定(発信者情報開示)、削除、損害賠償がどこまで認められているかを、当事務所の裁判例データベースに収録している、法人が請求した判決458件をもとにまとめたものです。

媒体ごとの手続の流れと期間は、Googleマップ、X、5ちゃんねる、YouTube、Instagram、Facebookの各記事をご覧ください。

要点

  • 法人が請求した発信者情報開示の判決383件のうち、開示が認められたものは315件です。個人が請求した場合と認められる割合は変わりません。媒体は X、電子掲示板、ウェブサイト、口コミサイト、爆サイ、Googleマップの順に多く、争点は真実性(261件)、事実の摘示か意見か(229件)、同定可能性(177件)の順です。
  • 会社の活動に関する投稿は、公共の利害に関する事実とされやすく、書かれた内容が真実かどうかが争点になります。虚偽であることを会社側が示す必要があり、真実であれば、元従業員の投稿も顧客の口コミも開示は認められません。
  • 具体的な事実を書かずに感想や評価だけを述べた口コミは、認められにくい類型です。口コミサイトの読者は多数の投稿を比較して判断し、感想だけの書き込みを直ちに信用しないとされています。医療機関は一定の範囲で批判的な口コミを受忍すべき立場にあるとした判決もあります。
  • 法人には名誉感情がなく、「クズ」「最低」のような罵倒だけの投稿について法人が請求することはできません。代表者個人への人格攻撃は、代表者個人が請求します。
  • 社会的評価の低下が認められるために、売上の減少や取引の減少といった実損害の発生は必要ありません。投稿者に対する損害賠償では、法人の無形損害として50万円〜300万円程度が認められ、投稿者の特定にかかった弁護士費用が加算されます。
  • 信用毀損罪・業務妨害罪は親告罪ではなく、被害届でも捜査の対象になります。虚偽の投稿で店舗に電話が殺到し休業に至った事案で、投稿者に懲役刑が言い渡された例があります。

1. 会社・店舗が受ける投稿の類型

  • 口コミ Googleマップ、口コミサイト(医療、美容、飲食、学習塾、結婚相談所など)への顧客や患者による投稿。誤診、詐欺、さくら、不当な料金といった事実を書くものと、態度が悪い、二度と行かないといった感想だけのものがあります。
  • 掲示板の社名スレッド 爆サイの地方掲示板や5ちゃんねるに社名を題名とするスレッドが立ち、代表者や従業員の悪口、労働環境、違法行為の指摘が書き込まれるもの。運送業、建設業、介護、水商売、医療機関に多い類型です。
  • 転職サイト・元従業員の投稿 転職口コミサイト、愚痴投稿サイト、元従業員を名乗る YouTube の動画。パワーハラスメント、残業の強要、虚偽の求人、離職率といった労働環境に関する事実が書かれます。
  • X での告発型の投稿 店舗の従業員が感染症に罹患したまま勤務している、会社が不正をしている、寄付金を目的外に使っているといった投稿。拡散されやすく、営業への影響が出やすい類型です。
  • 競合他社による告知 自社サイトや掲示板で、競合の商品が模造品である、法令違反であると告知するもの。名誉毀損のほか、不正競争防止法の信用毀損行為(2条1項)に当たることがあります。
  • 脅迫や業務妨害を伴う投稿 イベントの参加者を通報すると予告する投稿、店に電話が殺到するような虚偽の投稿。営業権の侵害や業務妨害として扱われます。

2. 法人の名誉毀損が個人と異なる点

  • 公共性が認められやすい 会社の商品、サービス、労働環境に関する事実は、顧客や転職希望者にとって判断材料になるため、公共の利害に関する事実とされやすく、投稿の目的も公益目的と推認されやすい傾向があります。そのため、争点は書かれた内容が真実かどうかに集中します。転職サイトへの解雇予告の投稿について、転職候補先の情報提供であり、解雇予告の事実は真実だとして開示を認めなかった判決があります(東京地方裁判所令和5年11月17日判決)。
  • 虚偽であることを示す資料が要る 開示を求める側は、権利侵害が明白であること、すなわち違法性を失わせる事情がないことまで示す必要があります。口コミで誤診を指摘された事案では、誤診でなかったことの立証がないとして開示が認められませんでした(東京地方裁判所令和6年6月14日判決)。一方、学習塾の離職率を扱った動画について、証拠で認められた離職率が動画の水準を大きく下回るとして開示を命じた判決(同令和5年3月20日判決)や、事務員3名の退職原因が労働環境以外にあったことを認定して開示を命じた判決(同令和3年3月24日判決)のように、会社側が事実関係を資料で示せた事案では認められています。
  • 法人には名誉感情がない 名誉感情(自分自身に対する評価や感情)は個人の権利であり、法人が代表者の名誉感情の侵害を理由に申し立てることはできません(東京地方裁判所令和5年1月16日決定)。愚痴投稿サイトの事案では、法人の労務や求人を非難する投稿は法人への名誉毀損として、代表者の人格を非難する投稿は代表者個人への名誉感情侵害として、それぞれ別に判断されています(同令和5年1月17日判決)。法人と代表者の両方が請求するのが通常です。
  • 実損害は要らない 社会的評価の低下を認めるにあたって、取引や就職の減少、収益減といった実損害が発生している必要はありません(東京地方裁判所令和4年3月25日判決)。
  • 自社サイトでの反論は名誉の回復にならない 投稿の翌々日に自社サイトで反論を掲載しても、名誉毀損は書き込みの時点で成立しており、反論によって十分に回復される保証はないとされています(東京地方裁判所平成25年9月25日判決)。反論を載せることで損害賠償が減ることもありません。
  • 営業権 名誉毀損に当たらなくても、イベントの参加者を通報すると予告する投稿がイベントの中止につながった事案で、脅迫に当たり営業権を侵害するとして開示が認められています(東京地方裁判所令和3年12月24日判決)。

3. 認められた投稿と、認められなかった投稿

口コミ

  • 認められた例: 医院の良い評価の口コミの大半はさくらだと断定した投稿(東京地方裁判所令和4年11月17日判決)。産婦人科で差額ベッド代の同意を強いられたとする投稿(同令和6年9月9日判決)。いずれも具体的な事実が書かれ、会社側が虚偽であることを示したものです。
  • 認められなかった例: スタッフの入れ替わりが多い、医師の見逃しが多いという程度の抽象的な記載と感想だけの口コミ(大阪高等裁判所平成30年11月28日決定)。矯正歯科の予約の遅れ、院長の離席、患者との言い争いを書いた口コミは、通常想定される事態についての主観的な意見であり、医療機関は一定の範囲で批判的な口コミを受忍すべきだとして、削除も開示も認められませんでした(東京地方裁判所令和6年6月27日判決)。「頓珍漢」「無駄足」といった記載も感想とされています(同令和7年10月24日決定)。

掲示板の社名スレッド

  • 爆サイの運送会社のスレッドについて、代表者の虚言癖、健康診断の不実施、モラルハラスメントの疑い、犯罪の摘示など具体的な事実を書いた5件は開示が認められ、「モラハラ」の一言、社名だけの投稿、世間一般への意見は、投稿者個人の否定的な評価にとどまるとして認められませんでした。社名を書いた投稿に続く投稿は同定でき、社名の投稿から40件、90件離れた投稿は同定できないとされています(東京地方裁判所令和4年3月25日判決)。
  • 社名を題名とするスレッドで会社と従業員を罵倒した投稿について、電話番号を含む開示を命じた判決(東京地方裁判所令和5年8月15日判決)、介護施設の従業員がハラスメントで自殺したとする5ちゃんねるの投稿について、投稿者自身が誇張を認めており重要部分が虚偽だとして開示を命じた判決(同令和4年7月19日判決)があります。

元従業員・転職サイト

  • 元従業員を名乗る投稿は、内部者しか知り得ない事実を具体的に述べる形式のため、一見して信用性が低いとは受け取られないとされます。製造業の会社と課長を非難する YouTube の動画について、不買を呼びかけ復讐として拡散を求めていることから嫌がらせと復讐が主な目的だとして、削除と開示の両方が認められました(徳島地方裁判所令和2年2月17日判決)。
  • 一方、転職サイトの解雇予告の投稿のように、書かれた事実が真実で、転職希望者への情報提供と理解できる投稿は認められません(東京地方裁判所令和5年11月17日判決)。従業員への処遇に関する投稿は、会社側に事実関係を示す資料(勤怠、給与、退職の経緯)があるかどうかで結論が分かれます。

X での告発型の投稿

  • 店舗の従業員が感染症に罹患したまま勤務しているとする投稿は、推測の形の言い回しでも事実の摘示とされ、公益目的も真実性も認められないとして開示が命じられました(東京地方裁判所令和5年2月22日判決)。ペットショップのフードで猫が血尿になっているという医師の話を伝える投稿は、医師がその話をしていないとは認められないとして認められませんでした(同令和6年6月24日判決)。

競合他社による告知

  • 販売代理店が自社サイトで競合の出品者の商品を真正品でない、薬事法違反と告知した事案で、真正品でない旨は真実と推認されて責任が否定され、薬事法違反の記載は虚偽で営業上の信用を害するとして、不正競争防止法の信用毀損行為に当たるとされました(東京地方裁判所平成30年8月17日判決)。競合による告知は、内容が真実であれば消費者への情報提供として許容されます。

4. 手続の流れ

投稿者の特定は、サイトの運営者からIPアドレス等の開示を受け、接続プロバイダから契約者の氏名と住所の開示を受ける2段階の手続です。2022年10月からは、発信者情報開示命令の手続で両方を一つの事件として進めることができます。期間は媒体によって異なり、Googleマップで3〜4か月、X で3〜4か月、5ちゃんねるで1〜3か月、YouTube で4〜6か月が目安です。削除は、運営者が任意の申出に応じない場合、仮処分または訴訟で求めます。

法人の事件で固有なのは、虚偽であることを示す資料の準備です。口コミであれば予約や診療の記録、従業員の投稿であれば勤怠や退職の経緯、商品に関する投稿であれば検査結果や仕入れの資料が、開示の可否を分けます。投稿者が従業員や元従業員と判明した場合は、損害賠償のほか、秘密保持義務や就業規則との関係も検討します。

5. 損害賠償の実例

法人の損害は、精神的苦痛の慰謝料ではなく、社会的評価の低下による無形損害として算定されます。売上の減少を立証できれば逸失利益も請求できますが、投稿との因果関係の立証が難しく、認められた例は多くありません。

  • 金貨の買取価格をめぐる顧客が掲示板に詐欺的な業者と書いた事案: 無形損害50万円、調査費用と弁護士費用30万円の計80万円(東京地方裁判所平成25年9月25日判決)。
  • ブログで会社と役員が詐欺に関わると書いた事案: 会社と役員に各55万円(東京地方裁判所平成26年9月29日判決)。
  • 化粧品の分析評価サイトがシャンプーに違法成分が含まれると約2年3か月掲載した事案: 無形損害200万円と弁護士費用20万円、記事の削除、同じサイトへの謝罪広告(東京地方裁判所令和5年12月13日判決)。売上全体の減少を示す証拠はないとされました。
  • 保育園の設置認可をめぐるウェブ記事の事案: 慰謝料300万円と弁護士費用、記載の削除、訂正記事の掲載(東京高等裁判所令和元年11月27日判決)。

投稿者の特定にかかった弁護士費用は、近年の東京地方裁判所の判決では全額が損害と認められることが多くなっています。投稿者に対する判決の金額の一覧は「ネット上の誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」をご覧ください。

6. 刑事告訴・被害届

法人も名誉毀損罪の被害者になります。虚偽の事実を流して信用を害する行為は信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条)に当たり、これらは親告罪ではないため、告訴期間の制限がなく、被害届でも捜査の対象になります。飲食店についてナメクジが混入しているかのように投稿して電話を殺到させ一時休業に追い込んだ事案で、偽計業務妨害罪等により懲役1年の実刑が言い渡された例(仙台地方裁判所令和6年10月24日判決)、コンビニの店員が感染症に感染していると言ったとする虚偽の投稿で名誉毀損罪と偽計業務妨害罪により懲役8月・執行猶予3年とされた例(大津地方裁判所令和4年10月18日判決)があります。詳しくは「ネット上の誹謗中傷の刑事告訴(名誉毀損罪・侮辱罪)の流れ」をご覧ください。

7. 裁判例

  • 東京地方裁判所平成25年9月25日判決 金貨販売会社の名を掲げた掲示板スレッドへの顧客の書き込みについて、私人間の取引をめぐる紛争は公共の利害に関する事実でなく、買取価格の圧力をかける動機によるものとして違法性を認め、無形損害50万円等の計80万円を命じた。自社サイトでの反論は名誉の回復にならないとした。
  • 大阪高等裁判所平成30年11月28日決定 医院へのGoogleマップの口コミについて、口コミサイトの読者は多数の投稿を比較して判断し、具体的な事実のない感想だけの書き込みを直ちに信用しないとして、開示を認めなかった。
  • 徳島地方裁判所令和2年2月17日判決 元従業員を名乗る投稿者が製造業の会社と課長を非難する動画を YouTube に投稿した事案。公益目的は一定程度推認されるとしつつ、不買の呼びかけや復讐としての拡散要求から主な目的は嫌がらせと復讐だとして、削除と発信者情報の開示を命じた。
  • 東京地方裁判所令和3年3月24日判決 Googleマップの口コミで事務員が1年で3名退職したと書かれた事案。退職者3名の退職理由が労働環境以外にあったと認定し、投稿の1か月以上後のログイン情報も開示対象に含めて開示を命じた。
  • 東京地方裁判所令和3年12月24日判決 イベントの参加者を警察に通報すると予告した投稿について、参加を断念させる萎縮効果をもたらす脅迫であり、イベントの中止との因果関係を認めて、主催会社の営業権の侵害として開示を命じた。
  • 東京地方裁判所令和4年3月25日判決 爆サイの地方掲示板の運送会社のスレッドについて、具体的な事実を摘示した5件だけ開示を認め、抽象的な否定評価や社名だけの投稿は認めなかった。社会的評価の低下に実損害の発生は不要とした。
  • 東京地方裁判所令和4年11月17日判決 医院の良い評価の口コミの大半はさくらだとする投稿を事実の摘示と認め、医院が来院者に投稿を促していたことは口コミの頻度の要因にすぎないとして、開示を命じた。
  • 東京地方裁判所令和5年1月17日判決 愚痴投稿サイトの法人の労務や求人を非難する投稿と代表者の人格を非難する投稿について、法人への名誉毀損と代表者への名誉感情侵害を投稿ごとに判断し、一部の投稿について開示を命じた。
  • 東京地方裁判所令和5年2月22日判決 店舗の従業員が感染症に罹患したまま勤務しているとする X の投稿について、推測の形でも事実の摘示とし、投稿の1時間10分前のログインの契約者を投稿者と認めて、電話番号とメールアドレスを含む開示を命じた。
  • 東京地方裁判所令和5年3月20日判決 学習塾の元従業員へのインタビュー動画について、早期離職の多い職場との事実を摘示し、証拠上の離職率は動画の水準を大きく下回るとして、YouTube の運営者に開示を命じた。出演者の発言は投稿者との共同不法行為とした。
  • 東京地方裁判所令和5年11月17日判決 転職口コミサイトの解雇予告を批判する投稿について、社会的評価の低下は認めたが、解雇予告の事実は真実で、転職希望者への情報提供として公益目的もうかがわれるとして、開示を認めなかった。
  • 東京地方裁判所令和5年12月13日判決 化粧品の分析評価サイトがシャンプーに違法成分が含まれるとした記事について、検体の取り違えの疑いから真実性も相当性も否定し、削除、無形損害200万円等の賠償、謝罪広告を命じた。
  • 東京地方裁判所令和6年6月27日判決 矯正歯科の予約の遅れ、院長の離席、患者との言い争いを書いた口コミについて、通常想定される事態についての主観的な意見にすぎず、医療機関は一定の範囲で批判的な口コミを受忍すべきだとして、削除も開示も認めなかった。

8. ご相談について

会社、店舗、医療機関、学校、団体に対する投稿の削除、投稿者の特定、損害賠償をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と、書かれた事実が事実と異なる点をお知らせいただければ、開示や削除の見通しをお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。

関連する解説

資料

  • 情報流通プラットフォーム対処法5条(発信者情報の開示請求)、8条(発信者情報開示命令)
  • 民法709条、710条、723条、不正競争防止法2条1項(信用毀損行為)、刑法230条(名誉毀損)、233条(信用毀損及び業務妨害)
  • 集計の対象: 当事務所の裁判例データベース2,479件のうち、株式会社、有限会社、医療法人、学校法人、宗教法人、一般社団法人などの法人が請求した458件(発信者情報開示383件、損害賠償33件、削除・損害賠償17件、開示・削除10件、削除8件、その他)。開示が認められた315件には一部認容を含む。争点の件数は判決の争点タグによる。
  • 上記7の裁判例のほか、東京地方裁判所令和5年1月16日決定(令和4年(ヨ)第3681号。法人と名誉感情)、同令和6年6月14日判決(令和5年(ワ)第28195号。誤診の口コミと真実性)、同令和6年6月24日判決(令和6年(ワ)第7849号。医師の話を伝える投稿)、同令和6年9月9日判決(令和6年(ワ)第8997号。差額ベッド代の口コミ)、同令和7年10月24日決定(令和7年(ヨ)第5991号。感想の口コミ)、同令和5年8月15日判決(令和5年(ワ)第5013号。社名スレッド)、同令和4年7月19日判決(令和4年(ワ)第11371号。誇張を認めた投稿者)、同平成30年8月17日判決(平成28年(ワ)第15812号。競合の告知と不正競争防止法)、同平成26年9月29日判決(平成24年(ワ)第18393号。会社と役員への賠償)、東京高等裁判所令和元年11月27日判決(平成31年(ネ)第1126号。訂正記事の掲載)