Googleマップの口コミは、店舗や医院を探す人が最初に見る情報です。事実と異なる口コミや、誹謗中傷にあたる口コミが放置されると、営業や診療に直接影響します。投稿者に責任を問うには、まず投稿者が誰かを特定する必要があります。そのための手続が発信者情報開示請求です。
この記事では、Googleマップの口コミについて発信者情報開示請求を行う場合の流れ、期間の目安、開示が認められる基準、裁判例、削除請求との使い分け、特定後にできることを整理します。Googleは他のサイトと比べて対応に固有の特徴があり、それを知らずに進めると時間だけが過ぎることがあります。
要点
- Googleは、口コミ投稿者のアカウント作成時IP、ログインIP、ログアウトIP、電話番号、メールアドレスを保有しています。ただし、電話番号については裁判所の終局的な決定または判決がなければ保有の有無を確認しないという立場をとっています。
- 手続の進行は他のサイトより大幅に遅く、申立てから開示まで3か月以上かかるのが通常です。IPアドレスから投稿者にたどり着くには接続プロバイダのログが残っている必要があるため、時間との勝負になります。
- Googleが電話番号の保有を争っても、アカウント作成時に電話番号の入力を求められる仕組みから「保有していると推認される」として開示を命じた裁判例が複数あります。
- 口コミが名誉毀損にあたるかは「一般読者の普通の注意と読み方」を基準に判断されます。Googleマップの口コミは短時間で読まれるものなので、書かれていない背景事情を想定して読むことはしない、とした裁判例があります。
1. Googleの口コミが他のサイトと違う点
発信者情報開示請求の手続自体は、X(Twitter)や掲示板と同じ法律(プロバイダ責任制限法。2025年4月施行の改正で情報流通プラットフォーム対処法に改称)に基づきます。しかしGoogleを相手方とする事件には、次のような固有の事情があります。
保有している情報。 Googleは、①アカウント作成時のIPアドレス、②ログイン時のIPアドレス、③ログアウト時のIPアドレス、④電話番号、⑤メールアドレスを保有しています。氏名や住所を保有している場合もあるはずですが、これらを開示の対象に加えると争ってきます。
電話番号の扱い。 Googleは電話番号について、「裁判所による終局的な決定または判決がなければ存否の確認を行わない」と明言しています。根拠として米国の法律(合衆国法典第18編第2702条)を挙げますが、日本の裁判で米国法が持ち出される根拠は説明されません。結果として、審理の途中では「保有しているかどうか分からない」という状態が続きます。
調査に応じる範囲。 ログアウトIPについては調査の上で「保有していない」と回答した例があり、投稿直後のログインIPについては「手作業で調査しているので時間がかかる」「どのくらいかかるか分からない」「そもそも開示対象外である」と主張が変遷した例があります。投稿者の特定に役立つ情報のうち、Googleが素直に調査に応じるのは直前のログインIPとメールアドレスだけと考えておくのが現実的です。
意見照会を事前に行わない。 法律上、開示請求を受けたプロバイダは発信者の意見を聴かなければなりません。しかしGoogleは、判決・決定が出た後に行っていると説明しており、審理中に投稿者の意向を確認しないまま開示を拒否して争ってきます。
但書の要求。 Googleは、開示を求める情報の目録に「ただし、裁判所が発令する日において被告が保有し、かつ、直ちに利用可能なものに限る」という文言を付けるよう求めてきます。これに応じると、Googleが「保有していない」「直ちに利用可能でない」と判断した情報は開示対象から外れ、判決や決定が出ても事実上執行できなくなります。この要求に従う義務はありません。
手続の進行が遅い。 当事務所のこれまでの事件では、仮処分や開示命令の手続で、申立てから初回期日まで1か月、ログの保有確認まで2か月、開示まで3か月以上かかるのが通常です。
2. 手続の流れ
投稿者にたどり着く経路は、大きく2つあります。
IPアドレス経由。 Googleからログイン時のIPアドレスとタイムスタンプの開示を受け、そのIPアドレスを割り当てていた接続プロバイダ(携帯電話会社や固定回線の事業者)に、契約者の氏名・住所の開示を求めます。2022年10月に施行された発信者情報開示命令の制度では、Googleに対する開示命令の申立てと同時に、提供命令(Googleが接続プロバイダの名称を申立人に提供する命令)と消去禁止命令(接続プロバイダにログを消さないよう命じる命令)を申し立て、一連の手続として進めることができます。
電話番号経由。 2020年8月の総務省令改正で、電話番号が開示対象の発信者情報に加わりました。Googleから電話番号の開示を受ければ、携帯電話会社への照会で契約者を特定できる場合があります。IPアドレス経由と違って接続プロバイダのログ保存期間に左右されない点が利点ですが、上に書いたとおり、Googleは審理中に電話番号の保有を確認しません。
どちらの経路をとるか、または両方を並行するかは、口コミの投稿時期、Googleの回答、費用と期間の見通しによって変わります。
手続の種類としては、発信者情報開示命令の申立て(非訟手続)、仮処分の申立て、本案訴訟(発信者情報開示請求訴訟)があります。
3. 期間の目安
前述のとおり、Googleに対する手続は、申立てから初回期日まで1か月、ログの保有確認まで2か月、開示まで3か月以上が通常です。接続プロバイダのログは数か月程度で消えることが多いため、IPアドレス経由での特定は、口コミの投稿から時間が経つほど難しくなります。口コミに気づいたら、まず投稿日時とURLを記録し、早い段階で見通しを立てることが重要です。
4. 開示が認められる基準
発信者情報の開示が認められるには、①権利侵害の明白性(口コミによって名誉権などの権利が侵害されたことが明らかであること)と、②開示を受けるべき正当な理由(損害賠償請求などのために投稿者の情報が必要であること)が必要です。Googleとの事件で実際に争点になるのは、主に次の点です。
- 権利侵害の明白性
- 開示を求める正当な理由
- 違法性阻却事由(口コミの内容が真実であること、公共性、公益目的)
- 受忍限度(その程度の口コミは我慢すべき範囲かどうか)
一般読者の普通の注意と読み方。 口コミが名誉を毀損するかどうかは、一般の読者が普通の注意を払って読んだときにどう受け取るかで判断されます。Googleは、「口コミには書かれていない背景事情や、投稿者の特性を考慮すれば、直ちに悪い印象を抱くとはいえない」と主張することがあります。これに対し東京地方裁判所令和5年6月30日判決は、次のように述べてGoogleの主張を退けました。
本件マップ上の口コミは、インターネットユーザーが医療機関、飲食店その他の施設のサービス内容等についての情報を手軽に収集するための手段であると考えられ、そのような本件マップの特性に照らすと、本件マップ上の口コミの読者は、それを熟読せずに短時間で閲読することが一般的であると考えられる。そうすると、一般的な読者の普通の読み方として、本件マップ上の口コミに記載されていない背景事情を想定しながら読んだり、当該口コミの記載者(発信者)の特性を考慮したりしながら閲読したりするとは必ずしも認め難い
他の口コミの存在。 Googleは、「読者は多数の口コミを比較して評価するので、良い口コミもある以上、一つの口コミで評価は下がらない」とも主張します。東京地方裁判所令和5年7月4日判決は、次のように述べています。
本件記事自体による原告の社会的評価の低下と他の口コミの存在は関連性がないというべきであり、また、本件記事は、単に投稿者の感想や評価が記載されているというものではなく、原告が反社会的勢力と繋がりがあるという事実を摘示しているのであるから、これによる社会的評価の低下が受忍限度内といえないことは明らかというべきである
一方で、投稿者が実際に体験した事実を書いた口コミや、事実を摘示せず評価・感想にとどまる口コミは、開示が認められない場合があります。開示できるかどうかは口コミの文言と事案によります。
5. 裁判例
電話番号の「保有」をめぐる裁判例。 Googleが電話番号の保有を争った事案で、開示を命じた判決が複数あります。
- 東京地方裁判所令和3年12月23日判決。口コミの投稿にはGoogleアカウントの開設が必要で、その際に氏名、メールアドレス、電話番号の入力を求められることから、住所以外の情報は保有していると認めました。
- 東京地方裁判所令和5年3月22日判決。アカウント作成時に電話番号の入力欄があり、認証用の電話番号が自動的に転記される仕組みがあることから、次のように述べて電話番号の開示を命じました。
被告は、本件投稿を投稿したアカウントの情報として電話番号の情報を保有していると推認され、被告は、当該電話番号の情報を保有しているか確認していないことも考慮すれば、被告は、同電話番号の情報を保有していると認めるのが相当である。
- 東京地方裁判所令和6年3月7日判決。Googleが提出した証拠から約半分のアカウントが電話番号を登録していることを認め、Googleが「開示命令が出されない限り保有の有無の調査すら行わない」と述べていることも踏まえて、保有を推認しました。
但書の要求を退けた裁判例。 東京地方裁判所令和5年7月4日判決は、「判決確定日において被告が保有し、かつ直ちに利用可能なものに限る」という限定を付すべきだというGoogleの主張について、次のように述べて退けました。
口頭弁論終結時に開示関係役務提供者が対象となる情報を『保有』していると認定されれば、開示関係役務提供者は、当該情報について請求者に対して開示する義務を負うのであり、請求者である原告が自主的に請求の趣旨に一定の制限をかけるのであれば格別、そうでない場合に被告が主張するような限定を付すべき根拠があるということはできない。
口コミの削除を命じた裁判例。 東京高等裁判所令和7年7月23日判決(令和7年(ネ)第542号)は、歯科医院に対するGoogleマップの口コミ2件について、請求を棄却した一審判決(東京地方裁判所令和6年11月29日判決)を取り消し、名誉毀損を認めてGoogleに削除を命じました(朝日新聞2025年7月24日、読売新聞オンライン2025年7月23日で報道)。真実性の証明の程度と、意見論評の限界が争点になった事案です。
これらの裁判例の詳しい内容は、次の記事に整理しています。Googleマップに関する裁判例の一覧は裁判例データベースにあります。
6. 削除請求と開示請求の使い分け
口コミを消したいだけであれば、Googleに対する削除請求(送信防止措置の依頼、または裁判所への削除の仮処分・訴訟)を行います。投稿者に損害賠償を求めたい場合は、先に開示請求で投稿者を特定するのが通常です。
順序には注意が必要です。口コミが先に削除されると、開示請求に必要な投稿の存在や内容の証拠が失われるほか、Google側のログの調査にも影響することがあります。損害賠償まで考えているなら、口コミのURL、表示画面、投稿日時を保存した上で、開示請求を先行させるか、削除と開示を並行して進めるかを検討します。どちらが適切かは、口コミの内容、営業への影響の大きさ、投稿からの経過時間によります。
7. 投稿者を特定した後にできること
投稿者が特定できた後は、次の対応が考えられます。
- 損害賠償請求(示談交渉、または訴訟)
- 投稿者自身による口コミの削除と、再投稿しないことの約束
- 悪質な場合の刑事告訴(名誉毀損罪、偽計業務妨害罪など)
開示請求にかかった弁護士費用の一部を損害として請求できる場合もありますが、認められる範囲は事案によります。
8. ご相談について
口コミの投稿者特定をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。口コミのURLや画面の保存などの証拠の保全は、ご相談の後に当事務所で行います。費用についてはFeeをご覧ください。
資料
- 東京地方裁判所令和3年12月23日判決(電話番号の保有)
- 東京地方裁判所令和5年3月22日判決(令和4年(ワ)第27560号。電話番号の保有の推認)
- 東京地方裁判所令和5年6月30日判決(一般読者の普通の注意と読み方)
- 東京地方裁判所令和5年7月4日判決(他の口コミの存在、但書の要求)
- 東京地方裁判所令和6年3月7日判決(電話番号の保有の推認)
- 東京高等裁判所令和7年7月23日判決(令和7年(ネ)第542号。口コミの削除命令)
- 最高裁判所平成29年1月31日第三小法廷決定(検索事業者を「情報流通の基盤」と位置づけた決定)
本記事で取り上げた裁判例には、当事務所が代理人として関与した事件が含まれます。