携帯電話会社や光回線などの接続プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届き、問題とされた通信を見ると、BitTorrent(トレント)によるアダルトビデオなどの動画ファイルの共有だった、という方に向けた記事です。開示を求めているのは動画の著作権を持つ法人で、あなたの回線から動画のデータが送信されたとして、契約者の氏名・住所の開示に同意するかどうかを尋ねています。
この記事は、当事務所の裁判例データベースに収録している BitTorrent の裁判例115件(2022年〜2025年)を集計し、どのような場合に開示が認められ、認められなかったのか、裁判所の判断がどう変わってきたのか、開示された後に何が起きるのかを整理したものです。意見照会書の手続一般と回答書の書き方は意見照会書が届いた方へを、裁判例の一覧はデータベースの BitTorrent 一覧をご覧ください。
要点
- BitTorrent の発信者情報開示の裁判例114件のうち、開示を求めた著作権者側が勝った(開示が命じられた)ものは93件、負けたものは18件、一部だけ認められたものは2件です。2025年の判決18件に、著作権者側の敗訴はありません。
- 敗訴18件のうち16件は、2023年10月から2024年6月の東京地方裁判所の判決で、調査会社が記録した「UNCHOKE」やハンドシェイクの通信はピース(分割されたファイルの断片)の送受信を伴わず開示の対象にならない、という理由でした。知的財産高等裁判所は2024年5月以降この判断を相次いで取り消し、UNCHOKE の通信の発信者情報も開示の対象になるとしています。
- 契約者が意見照会に「身に覚えがない」「アップロードしていない」と回答したことは、裏付けがなければ開示を妨げる事情にならないとされています。114件の中に、契約者の否認回答を理由に開示が否定された例はありません。
- 開示された後は、著作権者から損害賠償の請求を受けるのが通常です。BitTorrent の利用者が起こした債務不存在確認訴訟で、知的財産高等裁判所は、責任を負う期間を自分がダウンロードした日からプロバイダの意見照会を受けた日までに限り、8名の債務額を1万5906円から5万9892円の範囲で確定しました。
1. 意見照会書が届くまでに起きていること
BitTorrent の仕組み 判決が前提として認定している仕組みは次のとおりです。共有されるファイルはピースに分割され、トレントファイルをμTorrent などのクライアントソフトに読み込むと、トラッカーと呼ばれるサーバーから同じファイルを共有している他の参加者(ピア)の一覧を受け取り、各ピアからピースをダウンロードします。ダウンロードしたピースは、同時に他のピアの求めに応じて自動的にアップロードされる状態に置かれます。アップロードの操作をしなくても、ダウンロードした時点で送信する側に回るのが BitTorrent の特徴です。
調査会社の記録 著作権者から委託を受けた調査会社が、動画のファイルを共有しているピアの IP アドレス、ポート番号、日時を記録します。方法は事案によって異なり、μTorrent の画面に表示された送信元の IP アドレスを時刻とともに撮影するもの、独自の監視ソフトでピアに順に接続し、ピースをアップロードできる状態にあると知らせる「UNCHOKE」の通信があった日時を記録するもの、実際にピースを受信して保存し、そのピースから動画の一部が再生できることを確かめる再生試験を行うものがあります。どの方法で記録されたかが、後述のとおり裁判所の判断を分けてきました。
開示請求と意見照会 著作権者は、記録した IP アドレスを割り当てていた接続プロバイダに対し、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項に基づいて契約者の氏名・住所などの開示を求めます。114件のうち、利用者側が起こした債務不存在確認訴訟の1件を除く113件は、接続プロバイダが相手方です。請求を受けたプロバイダは、同法6条1項に基づき、契約者に開示に同意するかどうかを尋ねます。これが意見照会書で、回答期限は通常2週間程度です。
裁判所の手続はすでに進んでいることが多い 114件の内訳は、著作権者がプロバイダを訴えた本案訴訟の一審判決が84件、2022年10月に始まった発信者情報開示命令の手続で、開示を命じた決定にプロバイダが異議の訴えを起こしたものが18件、控訴審が12件です。2025年の18件では13件が異議の訴えで、開示命令の手続が主流になっています。意見照会書が届いた時点で、裁判所の手続が始まっていることが多いです。
2. 裁判例の全体像
集計の対象は、データベースの媒体「BitTorrent」に分類された115件です。このうち1件(東京地方裁判所令和7年3月7日判決(令和6年(ワ)第70052号))はクラウドストレージに投稿された3Dモデルの事件で BitTorrent の事案ではないため、以下では除いて114件で見ます。
- 結論 開示請求者側の勝訴93件、敗訴18件、一部勝訴2件、そのほか1件(利用者が起こした債務不存在確認訴訟)。
- 裁判所と年 東京地方裁判所90件、知的財産高等裁判所15件、大阪地方裁判所9件。2022年1件、2023年25件、2024年70件、2025年18件。敗訴18件の内訳は2023年7件、2024年11件、2025年0件です。
- 請求した側 大半はビデオソフトやDVDの制作・販売会社(アダルトビデオの制作会社が多数)で、ほかにレコード会社や漫画家が請求した例があります。
名誉毀損の投稿の事件と違って、動画の無断共有に違法性を失わせる事情が認められる余地はほとんどなく、争われてきたのは、調査会社の記録が正確か、記録された通信が法律上の開示の対象に当たるか、送信されたピースが著作権侵害といえるか、という点です。
3. 開示が認められなかった例(1)UNCHOKE・ハンドシェイクの通信
敗訴18件のうち16件は、調査会社がピースを実際に受け取らず、ピアとの接続を確認するハンドシェイクの通信や、ピアが「アップロードできる状態にある」と知らせる UNCHOKE の通信の日時を記録していた事案です。東京地方裁判所は、2023年10月から2024年6月にかけて、この型の請求を次のような理由で退けました(16件の一覧は9に掲げます)。
- 侵害が起きた時点とは別の通信である 東京地方裁判所令和5年10月26日判決は、著作権侵害は明らかだとしつつ、侵害は「ファイル(ピース)をダウンロードすると同時に、同ファイルの送信可能化が完了した時点であって、ハンドシェイクの時点ではない」として、ハンドシェイクの通信の発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとしました。
- UNCHOKE の時点で新たな送信可能化はない 東京地方裁判所令和5年12月15日判決は、送信可能化に当たるのは著作権法2条1項9号の5イ・ロに列挙された行為に限られ、調査会社の説明を前提にしても UNCHOKE の時点より前に送信できる状態が生じているから、その時点で新たな送信可能化や複製があったとは認められないとしました。改正法の施行規則が定める「侵害関連通信」にも UNCHOKE は含まれていないとしています。
- 所持の確認にすぎない 東京地方裁判所令和6年6月3日判決(令和5年(ワ)第70039号)などは、UNCHOKE の通信は「単にピアがファイルの一部を所持していることを確認するものにすぎない」として、送信可能化権の侵害を構成しないとしました。
- 各ピアがどれだけのピースを持っていたか分からない 東京地方裁判所令和5年10月20日判決などは、ハンドシェイクの時点で各ピアが保有していたピースの容量が立証されておらず、動画の本質的特徴を感じ取れる情報を送信可能化したとは認められないとして、権利侵害の明白性そのものを否定しました。
これらの判決は、いずれも調査結果の信用性や著作権の帰属を判断せずに請求を棄却しています。契約者側の事情が考慮されて開示が否定されたのではなく、調査会社の記録の取り方と法律の解釈の問題でした。
4. 知的財産高等裁判所による判断の変化
棄却された著作権者は控訴し、知的財産高等裁判所は2024年5月以降、上記の東京地裁の判断を相次いで取り消しました。
- 2024年5月16日 知的財産高等裁判所令和6年5月16日判決(令和5年(ネ)第10110号)は、ハンドシェイクに応答したピアは「その保有するピースの多寡にかかわらず」他のピアと共同して送信可能化を担ったと評価でき、法5条1項は開示の対象を「当該権利の侵害に係る発信者情報」と「やや幅を持たせ」て定めており、ピースを現実に送受信した通信に限ると著作権者に多大な負担を強いるとして、原判決を取り消して開示を命じました。
- 2024年6月26日 知的財産高等裁判所令和6年6月26日判決(令和5年(ネ)第10095号)など同日の4件は、ピース単体では再生できなくても、集めれば元のファイルに復元できる仕組みの一環として送受信されている以上、送信可能化権の侵害は成立するとし、送信可能な状態が続く限り違法状態は続いているから、その状態を直接示す UNCHOKE の通信の発信者情報は開示の対象に当たるとしました。予想される損害賠償額が少額でも、開示を受ける正当な理由は否定されないとも述べています。
- 2024年7月10日 知的財産高等裁判所令和6年7月10日判決(令和6年(ネ)第10006号)など同日の4件も、参加者は「保有するピースの割合又は多寡に関わらず」他の参加者と共同して動画全体の送信可能化権を侵害したとし、UNCHOKE の通信の発信者情報は侵害情報の発信者の特定に資する情報として開示の対象になるとして、いずれも原判決を取り消しました。
- 2024年12月24日 知的財産高等裁判所令和6年12月24日判決(令和6年(ネ)第10052号)は、全部棄却の原判決を変更し、プロバイダが情報を保有していない2件を除いて開示を命じました。UNCHOKE の通信はその日時までにファイルの少なくとも一部を送信可能化したことを示し、送信可能化をした人物と同一人物による蓋然性があり、ログイン時の通信などと比べても権利侵害との結びつきが強い、という理由です。
東京地裁の棄却判決は2024年6月3日のものが最後で、その後、UNCHOKE やハンドシェイクの通信を理由に開示を否定した判決はデータベースにありません。調査の方法も変わっています。東京地方裁判所令和6年8月27日判決の事案では、調査会社の監視ソフトは2022年12月3日まで UNCHOKE の通信の時刻を記録するだけでしたが、同月4日に機能を追加し、以後は実際にピースを受信して保存し、再生試験を行っています。2024年後半以降の判決の多くは、このようにピースを実際に受信した通信(PIECE 通信)を対象にしたもので、知的財産高等裁判所も令和7年7月30日判決(令和7年(ネ)第10019号)、同(令和7年(ネ)第10022号)、同令和7年10月20日判決(令和7年(ネ)第10028号)で、開示を命じた判断を争うプロバイダの控訴をいずれも棄却しています。2025年の BitTorrent の判決18件は、17件で開示が命じられ、1件が一部認容で、著作権者側の敗訴はありません。
5. 開示が認められなかった例(2)そのほかの理由
- 受信したピースが再生できない 東京地方裁判所令和6年5月16日判決は、調査会社がピースを受信したものの再生できず、再生試験の報告書を提出できなかった事案で、送られたものが対象の動画のピースかどうか判然とせず、複製の証拠もないとして請求を棄却しました。知的財産高等裁判所令和6年10月21日判決(令和6年(ネ)第10050号)も、PIECE 通信まで行って受信したピースを著作権者が再生できなかった事案で、ピースが動画の複製物であることに疑義があるとして棄却を維持しています。知財高裁が UNCHOKE の通信について開示を認めた後も、受信したピースの内容が確認できない事案では開示が否定されています。
- 出演者が映らない場面だけのピース 東京地方裁判所令和7年10月30日判決は、受信した個々のピースが2〜4秒程度の映像で動画全体の本質的特徴は感じ取れないとして動画全体の侵害は認めず、出演者の表情や動きが分かる場面に対応するピースについて動画の一部の侵害を認めました。風景やロゴマークだけのピース2件は表現としてありふれていて創作性がないとして、この2件の通信とプロバイダが情報を保有していない2件を除いて開示を命じています。
- プロバイダが情報を保有していない 知的財産高等裁判所令和6年12月24日判決や東京地方裁判所令和7年10月30日判決のように、プロバイダが記録を保全できなかった分は、権利侵害が明らかでも開示されません。契約者に意見照会書が届いている以上、あなたの分の情報はプロバイダが保有しています。
6. 開示が認められた例:プロバイダの反論が退けられた点
開示が命じられた93件では、接続プロバイダが調査の正確性や法律の解釈をさまざまに争い、退けられています。主な争点と判断は次のとおりです。
- 調査ソフトが業界団体の認定を受けていない μTorrent や独自開発の監視ソフトによる調査について、認定システム(P2P FINDER)でないことだけでは足りず、正確性を疑わせる具体的な事情がない限り信用できるとされています(東京地方裁判所令和6年10月30日判決、大阪地方裁判所令和7年10月16日判決)。調査画面の「qBittorrent」の表示は発信者側のソフトを示すにすぎないとされました(東京地方裁判所令和5年12月11日判決(令和5年(ワ)第70312号))。
- ハッシュ値の裏付けと数秒の時刻差 監視したハッシュ値がその動画のファイルのものかという反論は、受信した各ピースのインフォハッシュが一致することなどから退けられています。発信時刻と再生試験の報告書の日時が3〜4秒ずれている点は、ピースをメモリに置いてからハードディスクに書き込むまでの遅れとして説明がつくとされました(上記の知的財産高等裁判所令和7年7月30日判決2件、同令和7年10月20日判決、東京地方裁判所令和7年2月17日判決)。
- ピースが小さい、保有割合が低い 画面の「37.7%」はそのピアからのダウンロードの進捗率で保有割合ではないとされ(東京地方裁判所令和6年2月15日判決)、保有率が相当少なくても動画は再生できること(同令和5年12月7日判決)が認められています。
- 調査会社との1対1の通信は開示の対象になる「特定電気通信」でない BitTorrent の利用者は不特定の者の求めに応じて送信している以上、受信したのが調査会社であっても特定電気通信に当たるとされています(東京地方裁判所令和6年3月7日判決(令和4年(ワ)第21406号)、同令和6年1月30日判決)。
- 契約者は仕組みを知らず、故意も過失もない 開示を求める段階で著作権者が発信者の故意・過失を立証する必要はないとされています(東京地方裁判所令和5年10月30日判決)。同令和5年12月14日判決は、ダウンロードと同時にアップロードされる仕組みは「ビットトレントの最も基本的な特徴の一つ」で、使用許諾契約書や公刊された書籍にも明記されているから、発信者に少なくとも過失があることは明らかだとしています。
- アダルトビデオはわいせつ物で著作権の保護を受けない 業界団体の審査を受けて販売されている動画はわいせつな電磁的記録に当たらないとされ(東京地方裁判所令和6年2月15日判決)、共有されたファイルが無修正版だという主張も、著作権者が販売したDVDにはモザイクの修正があり、著作権者がそのファイルを作ったとは認められないとして退けられました(同令和7年1月22日判決)。
- 著作権者自身が拡散した、高額の和解金が目的である 東京地方裁判所令和7年3月7日判決(令和5年(ワ)第70463号)は、アダルトビデオメーカーによる大量の開示請求や高額の和解金請求の事実が認められるとしても、それだけで著作権者が最初にファイルをアップロードしたと推認するのは無理があり、不当な目的の証拠もないとして、開示を命じました。
7. 「自分はやっていない」という回答はどう扱われるか
意見照会に対して契約者が「身に覚えがない」「そのファイルは持っていない」「その時刻には使っていない」と回答し、プロバイダがこれを裁判で指摘した事案が複数あります。裁判所の扱いは一貫しています。
- 東京地方裁判所令和5年12月22日判決(令和5年(ワ)第70370号) 身に覚えがないなどの回答について、「その回答が真実であることを裏付ける客観的な証拠はない」とし、調査結果の信頼性を欠くことを示す具体的事情もないとして、全部の開示を命じました。
- 東京地方裁判所令和5年11月15日判決、同令和5年12月7日判決 身に覚えがない、ファイルを保有していない、指摘の時刻には端末を使っていないという回答があっても、それだけでその人による権利侵害が否定されるものではないとしました。
- 東京地方裁判所令和7年2月17日判決 パソコンを買い替えた、ファイルが見つからない、外出していたという回答について、客観的な裏付けもなく抽象的に述べるにとどまるとしました。
- 東京地方裁判所令和7年1月28日判決(令和6年(ワ)第70271号)、同(令和6年(ワ)第70291号) 意見照会の対象53件のうち26件、34件のうち10件の契約者が発信者でないと回答していても、調査結果の信用性は否定されないとしました。東京地方裁判所令和7年10月30日判決も、多数の契約者の否認は権利侵害の明白性を左右しないとしています。
- 知的財産高等裁判所令和6年6月26日判決(令和6年(ネ)第10011号) 意見照会で発信者であることを否定した回答は具体的内容に乏しいとしました。同令和7年7月30日判決(令和7年(ネ)第10019号)では、契約者の1人がファイルを保有しておらずアップロードもしていないと明確に回答していることをプロバイダが主張しましたが、判断は左右されませんでした。
名誉毀損の投稿の事件では、投稿の内容が事実であることなどを具体的に説明した回答が開示の棄却につながった例がありますが、BitTorrent の事件では争点が調査の正確性と法律の解釈に集中しているため、回答書に「やっていない」と書くだけでは開示を止められないことが多い、というのが114件から読み取れる実情です。回答書で意味を持ち得るのは、契約者本人以外の人が回線を使っていたことの具体的な事情と裏付け、調査結果の記載と自分の端末の状況との食い違いの具体的な指摘です。回答書は後の損害賠償の手続でも使われるため、事実と異なることを書くことは避ける必要があります。
8. 開示された後に起きること
開示が認められた判決のほぼ全件で、開示を受ける「正当な理由」は、著作権者が発信者に対する損害賠償請求を予定していることとされています。氏名・住所のほか、電話番号とメールアドレスの開示も、「訴えの提起前に示談交渉を行う場合には、電話番号や電子メールアドレスを知ることが有用」として命じられています(東京地方裁判所令和6年1月30日判決、同令和7年9月5日判決)。開示の後、著作権者側から損害賠償や示談の求めが届くのが通常です。請求は開示から1か月ほどで届くことが多く、請求額は200万円から300万円と高額であることが多いです。
その後の金額について、裁判所の判断が示された例があります。知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号)は、開示を受けた著作権者から損害賠償を請求された BitTorrent の利用者11名が、債務が存在しないことの確認を求めた訴訟です。裁判所は、ダウンロードと同時に送信できる状態になる仕組みを利用者は認識していたか容易に認識し得たとして少なくとも過失を認めつつ、他の利用者との共謀はないから、自分がダウンロードする前や利用をやめた後のダウンロードには責任を負わないとしました。利用をやめた日については、「プロバイダからの意見照会を受けたことで怖くなり」利用を停止したという陳述書は自然であるとして、意見照会の日を責任期間の終期と認定しています。その結果、控訴した8名の債務は、1ダウンロード当たりの損害額にこの期間の推定ダウンロード数を掛けた1万5906円から5万9892円を超えては存在しないことが確認されました。開示回答がどの IP アドレス・どの侵害行為に対応するのか分からない2名については、債務がないとした原審の判断が維持されています。
この判決の枠組みでは、責任を負う期間は意見照会を受けた日までとされました。裏返せば、意見照会書が届いた後も共有を続けていれば、責任を負う期間はその分延びることになります。意見照会書が届いたら、クライアントソフトを止め、止めた日が後から分かるようにしておくことが、この判決から導かれる対応です。開示後に損害賠償を請求された場合の対応は投稿者として損害賠償を請求された方へをご覧ください。
9. 裁判例
本記事で触れた裁判例は次のとおりです。各リンク先に、事案の概要と判決理由の骨子があります。
- 利用者が起こした債務不存在確認訴訟 知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号) 責任期間を自らのダウンロード日から意見照会日までに限り、8名の債務額を1万5906円〜5万9892円の限度で確定。開示回答の対象を特定できない2名は債務なし。
- UNCHOKE・ハンドシェイクの通信を理由に開示を否定した東京地方裁判所の判決(16件) 令和5年10月20日判決(令和5年(ワ)第70005号)、同10月26日判決(令和4年(ワ)第25488号)、同10月27日判決(令和3年(ワ)第27419号)、同10月27日判決(令和5年(ワ)第70029号)、同12月12日判決(令和5年(ワ)第70041号)、同12月15日判決(令和4年(ワ)第23937号)、同12月22日判決(令和5年(ワ)第70028号)、令和6年1月23日判決(令和5年(ワ)第70015号)、同1月31日判決(令和5年(ワ)第70040号)、同2月21日判決(令和4年(ワ)第1538号)、同2月21日判決(令和5年(ワ)第70014号)、同2月26日判決(令和5年(ワ)第70007号)、同3月14日判決(令和5年(ワ)第70030号)、同3月25日判決(令和4年(ワ)第70013号)、同3月26日判決(令和5年(ワ)第70027号)、同6月3日判決(令和5年(ワ)第70039号)
- これを取り消した知的財産高等裁判所の判決(10件) 令和6年5月16日判決(令和5年(ネ)第10110号)、同6月26日判決(令和5年(ネ)第10095号)、同(令和5年(ネ)第10099号)、同(令和5年(ネ)第10102号)、同(令和6年(ネ)第10011号)、同7月10日判決(令和5年(ネ)第10108号)、同(令和5年(ネ)第10109号)、同(令和6年(ネ)第10006号)、同(令和6年(ネ)第10008号)、同12月24日判決(令和6年(ネ)第10052号)
- 受信したピースが再生できず開示を否定した判決 東京地方裁判所令和6年5月16日判決(令和5年(ワ)第70071号)、知的財産高等裁判所令和6年10月21日判決(令和6年(ネ)第10050号)
- 一部認容 東京地方裁判所令和7年10月30日判決(令和7年(ワ)第70014号) 出演者が映る場面の一部侵害を認め、風景やロゴだけの2通信と不保有の2件を除き開示を命令。
- プロバイダの控訴を棄却した知的財産高等裁判所の判決 令和7年7月30日判決(令和7年(ネ)第10019号)、同(令和7年(ネ)第10022号)、同10月20日判決(令和7年(ネ)第10028号) ハッシュ値の裏付けと3〜4秒の時刻差への説明を認め、開示命令を維持。
- 契約者の否認回答が退けられた判決 東京地方裁判所令和5年11月15日判決(令和4年(ワ)第21568号)、同12月7日判決(令和5年(ワ)第70372号)、同12月22日判決(令和5年(ワ)第70370号)、令和7年1月28日判決(令和6年(ワ)第70271号)、同(令和6年(ワ)第70291号)、同2月17日判決(令和6年(ワ)第70312号)
- そのほかプロバイダの反論を退けて開示を命じた判決 東京地方裁判所令和5年10月30日判決(令和5年(ワ)第70316号)、同12月11日判決(令和5年(ワ)第70312号)、同12月14日判決(令和5年(ワ)第70318号)、令和6年1月30日判決(令和5年(ワ)第70368号)、同2月15日判決(令和5年(ワ)第70430号)、同3月7日判決(令和4年(ワ)第21406号)、同8月27日判決(令和5年(ワ)第70069号)、同10月30日判決(令和5年(ワ)第70491号)、令和7年1月22日判決(令和5年(ワ)第70070号)、同3月7日判決(令和5年(ワ)第70463号)、同9月5日判決(令和6年(ワ)第70636号)、大阪地方裁判所令和7年10月16日判決(令和7年(ワ)第7316号)
10. ご相談について
BitTorrent に関する意見照会書が届いた方は、回答期限がありますので、届いた日のうちにメールフォームからご連絡ください。原則として翌営業日までに回答します。意見照会書に記載された通信の内容とご自身の状況をうかがい、上記の裁判例に照らして開示の見通しと回答の方針をお伝えし、回答書(理由書を含む)の作成と送付までを当事務所で行います。開示された後の損害賠償の請求への対応もお受けしています。費用についてはFeeをご覧ください。
関連する解説
- プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた方へ
- ネット上の投稿について損害賠償や示談金を請求された方へ(請求額と判決で認められた額の実例、争える点、示談と訴訟)
- 写真・イラストの無断転載と著作権・肖像権――判決245件で見る開示と賠償
資料
- 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項(発信者情報の開示請求)、6条1項(発信者の意見の聴取)、14条1項(開示命令に対する異議の訴え)、著作権法2条1項9号の5(送信可能化)、23条1項(公衆送信権)
- 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースの媒体「BitTorrent」に分類された115件(2022年〜2025年、東京地方裁判所91件・知的財産高等裁判所15件・大阪地方裁判所9件)。うち東京地方裁判所令和7年3月7日判決(令和6年(ワ)第70052号)はクラウドストレージの3Dモデルの事案で BitTorrent ではないため、本文の件数(114件)から除いた。「敗訴」は請求棄却・控訴棄却(開示否定)に分類したもの、「一部勝訴」は一部認容に分類したもの。

サイバーアーツ法律事務所 弁護士(東京弁護士会、2007年登録)。インターネット上の権利侵害に関する事件のみを扱う。