X や YouTube、掲示板では、本名ではなくアカウント名や活動名で活動している人が多くいます。配信者、VTuber、同人作家やイラストレーター、水商売や風俗店で源氏名を使って働く人、オンラインゲームのプレイヤー名で知られる人などです。こうした人が中傷を受けたとき、最初に出てくるのが「本名が書かれていないのだから名誉毀損にならないのではないか」「開示請求をしても、自分のことだと認めてもらえないのではないか」という不安です。投稿が誰を指しているかが読み手に分かることを、裁判では同定可能性と呼びます。
この記事は、当事務所の裁判例データベースに収録している判決のうち、同定可能性が争点になった1,388件(2013年〜2025年)と、そのうちハンドルネーム・アカウント名・源氏名・活動名・ペンネームなどが登場する248件を読み、裁判所が何を基準に「その投稿は本人のことだ」と判断しているか、認められなかったのはどのような場合かを整理したものです。媒体ごとの手続はX、Instagram、YouTube、5ちゃんねるの各記事に、開示が認められない投稿の全体像は「発信者情報開示が認められなかった類型」にまとめています。
要点
- 本名が書かれていなくても、名誉毀損やプライバシー侵害は成立し、開示請求も認められます。ハンドルネームなどが登場する248件のうち、同定可能性が否定された判決は30件(すべての投稿について否定12件、一部の投稿について否定18件)で、残りの218件では本人のことと認められています。開示請求が全部認められなかった46件のうち、同定可能性が主な理由だったのは12件で、残りは投稿の内容(感想や意見にとどまる、侮辱の程度が限度内、真実性など)が理由です。
- 判断の基準は「一般の閲覧者の普通の注意と読み方」ですが、ハンドルネームの事件では、閲覧者の全員に分かる必要はなく、本人の属性の幾つかを知る人や、同じコミュニティの相当数の人に分かれば足りるとする判決が多数です(「属性の幾つかを知る者」を基準に挙げた判決が29件)。一般の閲覧者を基準にすることは同定可能性の判断には当てはまらない、と明言した判決も2件あります。
- 名誉毀損・プライバシー侵害は他人に分かることが必要ですが、名誉感情の侵害は本人が自分のことと分かれば足り、他人による同定可能性は不要とする判決が2022年以降7件あります。他人には誰のことか分からない投稿でも、罵倒であれば名誉感情の侵害として開示が認められる道があります。
- 認められなかった理由は、ハンドルネームと本人の結び付きが閲覧者に分からない、同じ名前や同じ属性の人が複数いる、投稿自体に手がかりがなく前後の投稿とも結び付かない、結び付ける手がかりになる投稿が削除されていた、の4つにほぼ集約されます。
- VTuber については、アバターへの中傷も「中の人」の名誉感情の侵害になるとした判決が3件あり、否定した判決はありません。ただし、配信活動に関する消極的な評価は一定程度受忍すべきだとして、内容の面で開示を認めなかった判決が2件あります。
1. 同定可能性とは何か、誰を基準に判断するか
名誉毀損は、人が社会から受ける客観的な評価を下げる行為です。社会の中で誰を指しているのか分からない投稿では、誰の評価も下がりません。そのため、投稿が本人を指していると読み手に分かることが、名誉毀損の前提になります。東京地方裁判所令和3年10月29日判決(令和3年(ワ)第8008号)は、実名が分かる必要はないが「社会において、どの人物に向けられた表現行為であるかが特定できさえすればよい」と述べています。
誰が分かれば足りるか 投稿の意味内容は「一般の閲覧者の普通の注意と読み方」を基準に判断するのが判例の原則で、同定可能性もこの基準で論じられることが多いです。ただし、ハンドルネームの事件では、閲覧者の全員に本人と分かる必要はないとされています。東京地方裁判所令和3年9月3日判決(令和3年(ワ)第2457号)は、一般読者基準は表現の意味内容を判断するためのもので、「同定可能性を判断するに当たり、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすべきことを意味するものではない」とし、プレイヤー名と本人の対応を知る人が相当数いれば足りるとしました。同令和4年11月16日判決(令和4年(ワ)第13532号)も、一般閲覧者を基準にする考え方は「同定可能性が認められる余地を狭める判断基準」だとして退け、面識のある人や属性の幾つかを知る人に分かれば足りるとしています。分かる人が限られていてもよい理由として、判決は伝播可能性を挙げます。同令和3年10月12日判決(令和3年(ワ)第66号)は、ハンドルネームから本人をすぐに特定できる人は限られるとしつつ、「摘示の範囲が限定的であったとしても、伝播可能性があれば成立する」として名誉毀損を認め、同令和3年7月19日判決(令和3年(ワ)第1660号)も、ゲームのユーザー名と本人の結び付きを知る人から不特定の第三者に広がる可能性がある以上、ゲーム上の人格だけでなく本人の社会的評価を下げるとしています。
名誉毀損・プライバシーと名誉感情の違い 名誉感情は、自分の人格的価値について本人が持つ主観的な評価です。他人の評価が下がることを前提にしないため、他人に分かる必要はないとする判決が続いています。東京地方裁判所令和4年3月31日判決(令和3年(ワ)第22400号)は、配信者2名への投稿について「被侵害者において侵害行為の対象者が自己と特定できれば足り、他者による同定可能性が必要となるものではない」としました。同令和4年7月22日判決(令和3年(ワ)第19876号)は、なりすましの口コミについて、一般の読者には本人と分からないとして名誉毀損とプライバシー侵害を否定しながら、名誉感情の侵害は一般読者基準の同定可能性を要しないとして開示を命じました(ただし、表現が本人の名誉感情に具体的に向けられたと認められることは求めています)。生命への加害を予告するコメントについて、平穏に生活する権利と名誉感情の侵害には同定可能性は要件とならないとした判決もあります(同令和5年2月10日判決(令和4年(ワ)第23124号))。逆に、名誉毀損では他人に分かることが必要で、前記の東京地方裁判所令和3年10月29日判決は、ハンドルネームと本人の対応を知る人がごく少数の事案で名誉毀損の成立を否定しつつ、名誉感情の侵害は「客観的に原告に対する表現行為であると認められれば足りる」として検討に進みました(結論は侮辱の程度が限度内として棄却)。本名を伴わない中傷では、名誉毀損とあわせて名誉感情の侵害を主張することが、この違いのために意味を持ちます。
活動名そのものに人格的利益があるか 東京地方裁判所令和3年6月25日判決(令和2年(ワ)第24952号)は、相応の知名度のある配信者について、通称名は「それ自体が原告の人格権ないし人格的利益を構成する」から、通称名に対する権利侵害は本人に対する権利侵害に当たるとし、同令和3年11月4日判決(令和3年(ワ)第3332号)も、ハンドルネームが相当数の人に認知されていれば、匿名の活動者としての名誉権が法的保護の対象になるとしています。古くは同平成26年2月13日判決(平成25年(ワ)第23709号)が、専らペンネームで創作活動をする人には「独立した人格に係る人格的利益」が認められ得ると述べる一方、同平成28年4月26日判決(平成27年(ワ)第5753号)は、現実の社会と隔絶したネット上だけの評価は本人の評価とはいえず、ペンネームへの中傷は名誉感情を害するにとどまるとしました。2020年以降の判決は前者の考え方に沿うものが大半です。
2. 本名が出ていなくても認められた例
248件のうち218件では、本人のことと認められています。判決が手がかりにした情報を類型ごとに挙げます。
- アカウント名・ハンドルネームそのもの 東京地方裁判所令和4年12月2日判決(令和4年(ワ)第17427号)は、アカウントの投稿を写した画像とプロフィール欄の筆名から、アカウント名での言及でも本人と同定できるとし、同令和6年7月18日判決(令和5年(ワ)第31592号)は、ゲームを通じて知り合った人とのオフ会の連絡にそのアカウントを使っていたことから、ゲーム内でアカウントを知る人には本人と分かるとしました。同じ名前を使う別人の存在を示す事情がないこと(同令和3年12月20日判決(令和3年(ワ)第14238号))、同じハンドルネームを長期間使っていたこと(同令和4年2月28日判決(令和2年(ワ)第26406号))が決め手になった例があります。
- 顔写真・画像 氏名がなく顔の大部分が隠れていても、ユーザー名とプロフィール画像、活動中の写真が添えられていれば、「原告の属性の幾つかを知る者であればこれらの情報から原告と推知することは十分に可能」とされます(東京地方裁判所令和4年1月19日判決(令和3年(ワ)第19695号))。顔を出さずに活動する配信者について、顔写真が見られるサイトの所在を示した投稿そのものがプライバシー侵害とされた例もあります(同令和3年8月18日判決(令和3年(ワ)第9685号))。
- 勤務先と源氏名 店名を題名とするスレッドに源氏名で書かれた投稿は、店でその源氏名を使う人が1人であれば、本人を指すと認められるのが通常です。東京地方裁判所令和4年1月13日判決(令和3年(ワ)第16197号)は、「稼働先と源氏名が判明していれば人物の特定は可能であるから、顔写真の不掲載や源氏名と本名との関連性は同定可能性を否定する事情ではない」とし、同令和3年3月30日判決(令和2年(ワ)第28595号)は、1年以上の使用で源氏名が「店舗を中心として社会的に一定程度定着している」としました。
- プロフィールや検索からたどれる情報 投稿自体に本人を示す情報がなくても、ハンドルネームの紹介文から本人のサイトにたどれ、そこに本人を割り出せる情報があれば、結び付けるのは極めて容易だとされます(東京地方裁判所令和4年6月8日判決(令和3年(ワ)第29217号))。検索サイトで容易にアカウントにたどり着き、顔写真やプロフィールを確認できることを挙げた例もあります(同令和5年3月22日判決(令和4年(ワ)第16977号))。
- 前後の投稿・スレッドの流れ 投稿に作品名も作者名もなくても、直前の投稿が作品の特徴を話題にしていれば、その作者である本人に向けた投稿と認められます(東京地方裁判所令和4年7月15日判決(令和3年(ワ)第28586号))。本人だけを話題にする専用スレッドでは、個々の投稿に名前がなくても対象は本人とされます(同令和3年7月16日判決(令和3年(ワ)第602号))。名指しのない X の投稿について、本人の作品をめぐる指摘が続いていた状況と、他の人がその投稿をリツイートしていたという事後の事情から認識可能性を認めた例(同令和4年8月25日判決(令和3年(ワ)第31863号))、関係した店舗とその所在地、使っていたアカウントなど複数の属性がすべて一致し、それをすべて備える人が他にいないとして本人に関するものと認めた例(同令和5年2月20日判決(令和4年(ワ)第25568号))もあります。
3. 認められなかった例
248件のうち同定可能性が否定された30件(一部の投稿についての否定を含む)の理由は、重複して数えると、ハンドルネームと本人の結び付きが閲覧者に分からないもの6件、同じ名前や同じ属性の人が複数いるもの5件、投稿自体に手がかりがなく前後の投稿とも結び付かないもの16件、結び付ける手がかりになる投稿が削除されていたもの1件、団体や別人を対象とすると読まれたもの3件です。
- ハンドルネームと本人の結び付きが閲覧者に分からない ブログのコメント欄のメッセージについて、作成者はハンドルネームで表示されるだけで、そのハンドルネームで活動していることが広く知られている証拠もないとした例(東京地方裁判所平成27年1月30日判決(平成26年(ワ)第3314号))、ペンネームの作者と本人を「広く公開されている媒体から入手しうる情報をもってしては」結び付けられず、本人自身が匿名性を保つよう努めてきたと述べていたことも挙げた例(前記の同平成28年4月26日判決)があります。X の漫画投稿で呼び掛けられたハンドルネームについて、プロフィールに氏名がなく、他のサイトに本人である旨の記載が散見されるだけでは周知とはいえないとした例(同令和2年2月18日判決(令和元年(ワ)第21084号))、ゲームのキャラクター名について、本人と知り得るのはオフ会の参加者などに限られ、伝播の可能性もないとした古い例(同平成26年7月15日判決(平成25年(ワ)第3766号))も同じ類型です。
- 同じ名前・同じ属性の人が複数いる ある肩書で活動する人が複数いて、投稿がその肩書一般に触れただけの場合(東京地方裁判所令和2年11月4日判決(令和2年(ワ)第6177号))、売上ランキングで首位になる作家の「ご本人」という表現について、同様に表現され得る人気作家が多数いるとした場合(同令和3年11月19日判決(令和3年(ワ)第6389号))です。約1000件の投稿があるスレッドで、名前やアカウント名のない19件について、開示を受けた人や損害賠償を請求している人は多数いるとして否定した例もあります(同令和5年1月26日判決(令和4年(ワ)第16978号))。
- 投稿自体に手がかりがなく、前後の投稿とも結び付かない 最も多い類型です。店名と源氏名を題名とする掲示板でも、氏名のない伏せ字だけの投稿は本人のことと明らかでないとされました(東京地方裁判所平成27年5月26日判決(平成27年(ワ)第659号))。返信の形の投稿は、返信先が本人を特定できる投稿でなければ同定可能性は生じません(同令和4年11月1日判決(令和4年(ワ)第9156号))。源氏名を題名とするスレッドでも、「本件スレッドの記載が全て原告に関するものであるとはいえず」、参照先の投稿内容が証拠上明らかでなければ別人の可能性を否定できないとして、4件すべてを否定した例もあります(同令和4年9月5日判決(令和4年(ワ)第6836号))。投稿の間隔も問題になり、社名を含む投稿から90件や40件も後の投稿は、閲覧者が間の投稿をすべて読むとは限らないとして同定できないとされています(同令和4年3月25日判決(令和3年(ワ)第24858号))。
- 結び付ける投稿が削除されていた、後の投稿は考慮しない 東京地方裁判所令和3年2月25日判決(令和2年(ワ)第26673号)は、本名の下の名前だけを挙げた投稿について、以前のスレッドに源氏名と本名を結び付ける投稿があったものの、本人の求めで投稿の時点ではすべて削除されていたことから、一般の閲覧者が結び付けることはできなかったとして否定しました。削除を先に進めたことが、後の投稿の同定可能性を失わせた例です。投稿より後にされた第三者の投稿を併せて読むことについては、投稿者が制御できない事後の事情で違法になるのは表現の自由を不当に制約するとして考慮しない判決(同令和2年8月12日判決(令和元年(ワ)第33737号)、同平成29年9月22日判決(平成29年(ワ)第12653号))と、他の人がリツイートしたという事後の事情から投稿時の認識可能性を認定することは妨げられないとした判決(前記の同令和4年8月25日判決)があり、判断は分かれています。
- 属性だけでは足りない 氏だけと夜勤への言及を併せても本人と分かるとは認め難いとした例(東京地方裁判所令和4年5月26日判決(令和4年(ワ)第4478号))、本人の姓名を名乗るなりすましの口コミでも、住所地から遠く離れた施設への投稿は本人を知る人でも本人の投稿と認識できないとした例(同令和4年5月24日判決(令和3年(ワ)第32429号))があります。
数字で見ると、同定可能性が否定されることは多くありません。1,388件全体でも、同定可能性が否定された投稿を含む判決は60件余りで、全体の5%ほどです。ハンドルネームなどが登場する248件のうち開示請求が全部認められなかったのは46件(19%)で、データベースの発信者情報開示の判決全体の11%より高いものの、46件のうち同定可能性が主な理由のものは12件にとどまり、残りの34件は、感想や意見にとどまる、侮辱の程度が限度内、真実でないとはいえないといった内容の理由です。源氏名で本人と分かることは認めつつ、内容が業務の一環にすぎないとして開示を認めなかった例(東京地方裁判所令和4年12月20日判決(令和4年(ワ)第18737号))のように、ハンドルネームの事件で開示が認められるかどうかは、同定可能性より、投稿が具体的な事実を書いているか、罵倒が限度を超えているかで決まることが多いです。
4. 活動名・キャラクターへの中傷と「中の人」
248件を活動の種類で見ると(重複あり)、源氏名を使う接客業の人が79件、動画配信者が49件、ペンネームで創作活動をする人が41件、ゲームのプレイヤー名が18件、なりすましが9件、VTuber が5件です。
VTuber アバターやキャラクターの姿で活動する人への中傷は、キャラクターではなく「中の人」への権利侵害になるかが問題になります。大阪地方裁判所令和4年8月31日判決(令和3年(ワ)第10340号)は、アバターの言動は「原告自身の個性を活かし、原告の体験や経験をも反映したものになっており」、本人が活動名で表現行為をしている実態にあるとし、侮辱の矛先が表面的にはアバターに向けられていても、本人がアバターの表象を「いわば衣装のようにまとって活動して」いる以上、名誉感情を侵害されたのは本人だとしました。東京地方裁判所令和4年12月14日判決(令和4年(ワ)第8284号)は、キャラクターへの返信の形で危害を告知した投稿について、CG のキャラクターには実在の身体がない以上、「その背後の…実在の個人である原告を対象とするものというべきである」とし、同令和4年7月1日判決(令和4年(ワ)第8924号)も、VTuber の活動名を話題にする投稿はキャラクター自体でなく活動者を話題にするものだとして、氏名や住所がないことを理由に同定可能性を否定する主張を退けています。VTuber 本人が請求した判決は5件あり、同定可能性を否定したものはありません。一方で、東京地方裁判所令和6年6月7日判決(令和5年(ワ)第32872号)と東京高等裁判所令和7年1月16日判決(令和6年(ネ)第3258号)は、VTuber として「活動し、その言動をインターネット上での視聴者の閲覧に供していた以上、その活動に関する限り、消極的な評価であっても一定程度は受忍すべきである」(前者の判決)として、過去の言動への強い罵倒は限度内とし、開示を認めませんでした。もっとも東京高等裁判所の判決は、社会的偏見のある障害があると述べた投稿については、殊更に侮辱する意図で投稿されたものとして開示を命じています。
配信者 配信者の事件では、活動名で本人と分かることはほとんど争いなく認められ、問題は内容に移ります。前記の東京地方裁判所令和3年11月4日判決は、配信者は「一定の公共性のある職業であるとか、芸能人やプロスポーツ選手と同程度に幅広く公平なファンサービスをしなければならない職業であるとまでは認め難い」として、気に入った視聴者とだけやり取りしているという投稿は社会的評価を下げないとする一方、アンチスレの閲覧者には根拠がなくても信じる人が相当数いるとして名誉毀損を認めています。本名や顔を出さずに活動する配信者について、本名を明かす投稿はプライバシー侵害とされます。東京地方裁判所令和2年12月22日判決(令和元年(ワ)第18748号)は、「インターネット上で本名や年齢をあえて公開せずにハンドルネーム等を用いて活動する者にとって、これらの情報は一般に公開を望まない私生活上の事柄である」としました。名字だけを晒す投稿(前記の同令和4年5月26日判決)も同じです。
源氏名 店名のスレッドに源氏名で書かれた投稿は、店でその源氏名を使う人が本人だけなら、本人のことと認められるのが通常です。否定された例は、店名と源氏名の題名があっても「それ以外にいないと理解するとは限らない」とした2015年の判決(東京地方裁判所平成27年4月7日判決(平成26年(ワ)第34781号))と、個々の投稿が本人向けか文脈から分からなかった前記の同令和4年9月5日判決などです。一方、源氏名を知り得るのは店の関係者や客に限られることから、特定される範囲が限られ程度も大きくないとして、内容の判断で社会的評価の低下を認めなかった例もあります(同令和3年2月26日判決(令和2年(ワ)第25070号))。源氏名の事件で開示が認められるかどうかは、客との性的関係や妊娠・中絶、病気、本名の暴露のような具体的な事実の摘示やプライバシーの公表があるかで決まることが多く、容姿や接客への感想は認められにくい傾向です。
ペンネーム・活動名の創作者 作品の題名を題するスレッドで作者を取り上げた投稿は、作者である本人を対象とすると認められています(東京地方裁判所令和3年12月13日判決(令和3年(ワ)第12614号)、前記の同令和4年7月15日判決)。前記の同平成26年2月13日判決は、ペンネームの作者を知る人が一定数いれば閲覧者全員に分からなくても名誉毀損は成り立ち得るとしつつ、作品を公表して読者を求める者は人となりへの辛らつな批判もある程度甘受すべきだとして、開示は認めませんでした。別名義との同一性を指摘する投稿については、どのような作品を公表しているかは読み手の関心事で、漫画家等として活動する以上通常やむを得ないとして権利侵害を否定した判決(同平成29年12月20日判決(平成29年(ワ)第21779号))と、過去に盗用をした別名義の人物と同一だとする投稿を名誉毀損とした判決(前記の同令和4年12月2日判決)があり、同一性の指摘そのものではなく、それに伴って示される事実の内容で結論が分かれています。
ゲームのプレイヤー名 2014年の判決は、キャラクター名はゲーム内の架空の名前にすぎず、現実の社会で個人を特定する名前として使われるものではないとして否定しました(前記の東京地方裁判所平成26年7月15日判決)。2021年以降の3件(前記の同令和3年7月19日判決、同令和3年9月3日判決、同令和3年11月17日判決(令和3年(ワ)第10082号))はいずれも、長年の使用、オフ会での交流、閲覧者がゲームの関係者に限られることなどから同定可能性を認めています。
5. 開示請求で同定可能性を示すときに効いた材料
判決の認定から読み取れる範囲で、同定可能性が認められた事件で裁判所が手がかりにした事情と、否定された事件で足りなかったものを挙げます。
- ハンドルネームの使用期間と活動の実績 同じ名前を長期間使っていたこと(前記の東京地方裁判所令和4年2月28日判決、同令和3年11月17日判決)、ゲーム内で上位の成績を収めていたこと(前記の同令和3年7月19日判決)、同種の配信者の中で相応の知名度があること(前記の同令和3年6月25日判決)が、通称が本人を示すものとして定着している根拠にされています。逆に、本人が匿名性を保つよう努めてきたことは、結び付きを否定する方向に使われました(前記の同平成28年4月26日判決)。
- 面識のある人の存在 オフ会や催し、SNS を通じて本人と知り合った人がいること(前記の同令和3年7月19日判決、同令和4年7月15日判決)、オフ会の連絡にそのアカウントを使っていたこと(前記の同令和6年7月18日判決)は、分かる人がいて伝播し得ることの根拠になります。知る人がオフ会の参加者に限られ、それが多数に上る証拠がないとされた例(前記の同平成26年7月15日判決)との違いは、分かる人の範囲と広がりの立証にあります。
- 検索結果とプロフィールの記載 アカウント名や活動名で検索すると本人のアカウントが上位に表示されること(前記の同令和5年3月22日判決)、プロフィール欄に筆名や活動の記載があること(前記の同令和4年12月2日判決)、紹介文からたどれるサイトに本人を割り出せる情報があること(前記の同令和4年6月8日判決)が認定の基礎になっています。他方、他のサイトに本人である旨の記載が散見されるだけでは周知とはいえず、閲覧者がそれらのサイトを見ているとも認められないとした例(前記の同令和2年2月18日判決)があり、「検索すれば分かる」と「実際に閲覧者が検索する」は区別されています。
- 同じ名前・同じ属性の人が他にいないこと 店に同じ源氏名の人がいないこと、同名の別店舗があるといった反証がないこと(前記の同令和4年1月13日判決)、同じ名を使う別人の存在を示す事情がないこと(前記の同令和3年12月20日判決)、複数の属性をすべて備える人が他にいないこと(前記の同令和5年2月20日判決)は、肯定の根拠として繰り返し現れます。同じ肩書の人や該当者が複数いる事情は否定の根拠になります(前記の同令和2年11月4日判決)。
- 前後の投稿の証拠と投稿の時点 返信の形の投稿や短い投稿では、返信先や直前の投稿が本人を示していることを証拠で示す必要があり、参照先の投稿内容が証拠上明らかでないとして否定された例があります(前記の同令和4年9月5日判決)。間隔の空いた投稿は結び付けてもらえないことが多く(前記の同令和4年3月25日判決)、本人を示す投稿と問題の投稿の位置関係が分かる形で保存しておくことが、認定の前提になっています。本名と結び付ける投稿を先に削除させたことで後の投稿の同定可能性が否定された例(前記の同令和3年2月25日判決)があるため、削除と開示請求の順序は、投稿ごとの手がかりを確認してから決めることになります。
- 名誉感情の侵害を併せて主張する 他人には誰のことか分かりにくい投稿でも、罵倒や差別的な表現であれば、本人が自分のことと分かれば足りるとする判決が増えています(前記の同令和4年3月31日判決、同令和4年7月22日判決)。ただし、名誉感情の侵害は「社会通念上許される限度を超える侮辱」に限られ、同定可能性を認めながら侮辱の程度で否定された判決は多数あります。
開示が認められた後の損害賠償の額は「ネット上の誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」に、特定にかかった費用の扱いは「投稿者の特定にかかった費用は取り戻せるか」にまとめています。ペンネームの作者について同定可能性が否定され、特定費用を含む請求が全部棄却された前記の東京地方裁判所平成28年4月26日判決は、同定可能性の見通しを立てずに手続を進めた場合の費用の問題も示しています。
6. 引用した判決
本記事で触れた判決は次のとおりです。各リンク先に、事案の概要と判決理由の骨子があります。
- 判断の基準に関する判決 東京地方裁判所令和3年10月29日判決(令和3年(ワ)第8008号) 5ちゃんねる・X。名誉毀損は社会で誰を指すか特定できることが必要、名誉感情は客観的に本人に向けられていれば足りる。/東京地方裁判所令和3年9月3日判決(令和3年(ワ)第2457号) 2ちゃんねる。一般読者基準は同定可能性の基準ではない。/東京地方裁判所令和4年11月16日判決(令和4年(ワ)第13532号) ウェブサイト。属性の幾つかを知る者を基準とした。/東京地方裁判所令和3年10月12日判決(令和3年(ワ)第66号) 5ちゃんねる。特定できる人が限られても伝播可能性があれば名誉毀損は成立。/東京地方裁判所令和3年7月19日判決(令和3年(ワ)第1660号) 2ちゃんねる。ゲームのユーザー名と伝播可能性。/東京地方裁判所令和4年3月31日判決(令和3年(ワ)第22400号) 掲示板。名誉感情の侵害に他者による同定可能性は不要。/東京地方裁判所令和4年7月22日判決(令和3年(ワ)第19876号) Googleマップ。名誉毀損・プライバシーには一般読者基準の同定が必要、名誉感情には不要。/東京地方裁判所令和5年2月10日判決(令和4年(ワ)第23124号) ブログ。平穏に生活する権利と名誉感情の侵害に同定可能性は要件とならない。/東京地方裁判所令和3年6月25日判決(令和2年(ワ)第24952号) 5ちゃんねる。配信者の通称名自体が人格権を構成。/東京地方裁判所令和3年11月4日判決(令和3年(ワ)第3332号) 掲示板・動画サイト。相当数に認知された通称には人格的利益。配信者は公共性のある職業とまではいえない。/東京地方裁判所平成26年2月13日判決(平成25年(ワ)第23709号) 2ちゃんねる。ペンネーム活動者の独立した人格的利益。批判はある程度甘受すべきとして不開示。/東京地方裁判所平成28年4月26日判決(平成27年(ワ)第5753号) 2ちゃんねる・損害賠償。ペンネームと本人を結び付けられず、ネット上だけの評価は本人の評価でない。
- 同定可能性を認めた判決 東京地方裁判所令和4年12月2日判決(令和4年(ワ)第17427号) X。アカウント名での言及とプロフィールの筆名。/東京地方裁判所令和6年7月18日判決(令和5年(ワ)第31592号) X。オフ会の連絡に使ったアカウント。/東京地方裁判所令和3年12月20日判決(令和3年(ワ)第14238号) 掲示板。同じ名を使う別人の存在を示す事情なし。/東京地方裁判所令和4年2月28日判決(令和2年(ワ)第26406号) 5ちゃんねる。ハンドルネームの長期使用。/東京地方裁判所令和4年1月19日判決(令和3年(ワ)第19695号) X。ユーザー名と写真から属性を知る者が推知可能。/東京地方裁判所令和3年8月18日判決(令和3年(ワ)第9685号) 電子掲示板。顔写真が見られるサイトの所在を示す投稿はプライバシー侵害。/東京地方裁判所令和4年1月13日判決(令和3年(ワ)第16197号) ホストラブ。稼働先と源氏名で特定可能、本名との関連は不要。/東京地方裁判所令和3年3月30日判決(令和2年(ワ)第28595号) ホストラブ。1年以上の使用で源氏名が定着。/東京地方裁判所令和4年6月8日判決(令和3年(ワ)第29217号) SNS。紹介文からたどれるサイト。/東京地方裁判所令和5年3月22日判決(令和4年(ワ)第16977号) 掲示板。検索で容易にアカウントにたどり着く。特徴だけの投稿は否定。/東京地方裁判所令和4年7月15日判決(令和3年(ワ)第28586号) 5ちゃんねる。作品名も作者名もない投稿を先行投稿と併せて読む。/東京地方裁判所令和3年7月16日判決(令和3年(ワ)第602号) ホストラブ。専用スレッドの投稿。/東京地方裁判所令和4年8月25日判決(令和3年(ワ)第31863号) X。名指しのない投稿。事後のリツイートから認識可能性を認定。/東京地方裁判所令和5年2月20日判決(令和4年(ワ)第25568号) 電子掲示板。複数の属性がすべて一致。/東京地方裁判所令和3年11月17日判決(令和3年(ワ)第10082号) 2ちゃんねる。ゲームの関係者には本人と分かる。/東京地方裁判所令和4年12月20日判決(令和4年(ワ)第18737号) ホストラブ。源氏名で同定を認めたが業務の一環として不開示。/東京地方裁判所令和3年2月26日判決(令和2年(ワ)第25070号) 電子掲示板。特定される範囲が限られることを内容の判断で考慮し不開示。
- 同定可能性を否定した判決 東京地方裁判所平成27年1月30日判決(平成26年(ワ)第3314号) ブログ。ハンドルネームと本人の結び付きが閲覧者に読み取れない。/東京地方裁判所平成26年7月15日判決(平成25年(ワ)第3766号) SNS。ゲームのキャラクター名。知る人がオフ会参加者に限られ伝播可能性なし。/東京地方裁判所令和2年2月18日判決(令和元年(ワ)第21084号) X。他サイトの記載が散見されるだけでは周知でない。/東京地方裁判所令和2年11月4日判決(令和2年(ワ)第6177号) X。同じ肩書で活動する人が複数。/東京地方裁判所令和3年11月19日判決(令和3年(ワ)第6389号) 掲示板。「ご本人」に当たる人気作家が多数。/東京地方裁判所令和5年1月26日判決(令和4年(ワ)第16978号) 5ちゃんねる。約1000件のスレッドで名前・アカウント名のない19件。/東京地方裁判所平成27年4月7日判決(平成26年(ワ)第34781号) 電子掲示板。店名と源氏名の題名でも「それ以外にいないと理解するとは限らない」。/東京地方裁判所平成27年5月26日判決(平成27年(ワ)第659号) 掲示板。伏せ字だけの投稿2件を否定、本名を記載した投稿は開示。/東京地方裁判所令和4年11月1日判決(令和4年(ワ)第9156号) ホストラブ。返信先が本人を特定できない記事は同定可能性なし。12件中2件を開示。/東京地方裁判所令和4年9月5日判決(令和4年(ワ)第6836号) 爆サイ.com。源氏名のスレッドでも各投稿が本人向けか不明。/東京地方裁判所令和4年3月25日判決(令和3年(ワ)第24858号) 爆サイ.com。社名の投稿から90件・40件後の投稿は同定できない。/東京地方裁判所令和3年2月25日判決(令和2年(ワ)第26673号) 爆サイ.com。結び付ける投稿が削除済み。/東京地方裁判所令和2年8月12日判決(令和元年(ワ)第33737号) 掲示板。後の投稿を考慮するのは表現の自由を不当に制約。/東京地方裁判所平成29年9月22日判決(平成29年(ワ)第12653号) 掲示板。地名と姓のみ。後の投稿は考慮しない。/東京地方裁判所令和4年5月26日判決(令和4年(ワ)第4478号) 5ちゃんねる。氏と夜勤の言及だけの投稿を否定、実名公表の投稿は開示。/東京地方裁判所令和4年5月24日判決(令和3年(ワ)第32429号) Googleマップ。なりすまし。遠隔地の施設への投稿は否定。
- VTuber・配信者・創作者に関する判決 大阪地方裁判所令和4年8月31日判決(令和3年(ワ)第10340号) 5ちゃんねる。アバターは衣装、名誉感情を侵害されたのは本人。/東京地方裁判所令和4年12月14日判決(令和4年(ワ)第8284号) X。キャラクターの背後の実在の個人。/東京地方裁判所令和4年7月1日判決(令和4年(ワ)第8924号) X。VTuber の活動名への投稿は活動者を話題にするもの。/東京地方裁判所令和6年6月7日判決(令和5年(ワ)第32872号) X。活動に関する消極的評価は一定程度受忍。/東京高等裁判所令和7年1月16日判決(令和6年(ネ)第3258号) X。障害があると述べた投稿は開示、罵倒は不開示。/東京地方裁判所令和2年12月22日判決(令和元年(ワ)第18748号) 5ちゃんねる。配信者の本名と年齢の公表はプライバシー侵害。/東京地方裁判所令和3年12月13日判決(令和3年(ワ)第12614号) ホストラブ。作品の題名のスレッドで作者を取り上げた投稿。/東京地方裁判所平成29年12月20日判決(平成29年(ワ)第21779号) SNS。別名義との同一性の指摘は権利侵害が明白でない。
7. ご相談について
アカウント名や活動名への中傷について投稿者の特定や削除をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と、その名前でどのような活動をしているかをお知らせいただければ、上記の判決に照らして、本人のことと認められる見通しと開示の見通しをお伝えします。見通しが立たない投稿については、その旨をお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。
関連する解説
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資料
- 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項(開示請求の要件。権利侵害の明白性)、民法709条・710条(不法行為、名誉毀損)
- 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースに収録している裁判例のうち、同定可能性が争点に含まれる1,388件(2013年〜2025年。発信者情報開示1,327件、損害賠償・削除など61件)。「ハンドルネームなどが登場する248件」は、このうち判決の要約または本文にハンドルネーム・アカウント名・源氏名・活動名・ペンネーム・VTuber・配信者のいずれかが現れるもので、東京地方裁判所の判決が243件を占める。否定の件数と理由は、248件の要約を全部、否定された判決と類型ごとの代表例は判決理由の骨子まで読んで分類した。活動の種類の件数は、要約と事案の概要の語による分類で重複がある。248件の結論(発信者情報開示の242件)は、開示請求者側の勝訴111件、一部勝訴85件、敗訴46件。同定可能性が争点の発信者情報開示の裁判例全体では、勝訴859件、一部勝訴318件、敗訴149件。

サイバーアーツ法律事務所 弁護士(東京弁護士会、2007年登録)。インターネット上の権利侵害に関する事件のみを扱う。