リポスト・引用・「いいね」をした人も責任を負うか―裁判例94件

中傷の投稿が広まるとき、書いた本人のほかに、それをリポスト(リツイート)した人、コメントを付けて引用した人、「いいね」を押した人、リンクを貼った人、まとめサイトに転載した人がいます。被害を受けた側からは、拡散した人にも開示や賠償を求められるのかが問題になり、拡散した側からは、自分で書いたわけではないのに意見照会書や請求が届いたという相談があります。

この記事は、当事務所の裁判例データベースに収録している裁判例のうち、他人の投稿や記事を広める行為そのものが争点になった94件を、単純リポスト、引用リポスト、「いいね」、リンク、スクリーンショットの添付、転載の類型に分けて、名誉毀損や名誉感情の侵害が成立するか、開示が認められるか、賠償額はどうかを整理したものです。X(旧Twitter)の投稿者を特定する手続は「Xの投稿者特定と削除」に、意見照会書が届いた段階の対応は「プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた方へ」にまとめています。

要点

  • コメントを付けないリポストでも、元の投稿が名誉を毀損するものであれば、リポストした人は責任を負います。大阪高等裁判所は、元の投稿をフォロワーが読める状態に置くことを認識している限り「経緯,意図,目的,動機等のいかんを問わず」不法行為責任を負うとして、33万円の賠償を命じました。単純リポストが争点になった15件のうち、責任や開示を認めたものは9件、認めなかったものは6件です。
  • 認められなかった事案の多くは、元の投稿自体が違法でないものです。元の投稿が違法でなければ、リポストが独自に違法になることはありません。
  • コメント付きの引用リポストは、他人の中傷を引用して広めた8件のうち7件で開示が認められ、「拡散希望」の一言だけの投稿も引用元の事実を摘示したものとされています。相手の投稿を引用して批判した7件では、意見・論評の域にとどまるとして認められなかったものが3件あり、性的な侮辱語や人格攻撃を含むものだけが認められています。
  • 「いいね」について、東京高等裁判所は、侮辱的な投稿に繰り返し「いいね」を押した議員に名誉感情の侵害による賠償を命じました。「いいね」は好意的・肯定的な感情を示したものと一般に理解されるとしつつ、記載内容、当事者の関係、押すに至った経緯をあわせて判断しています。1回の「いいね」で責任を認めた判決はありません。
  • リンクを貼った投稿は25件のうち19件で、リンク先の内容を投稿に取り込んだものとして権利侵害が認められています。URLだけの投稿でも認められた例があります。認められなかったのは、誘導する文言がなくリンクを貼っただけの投稿や、リンク先の問題の箇所に直接つながらない投稿です。
  • 他人の投稿のスクリーンショットを添えて批評した投稿は、著作権の面では、知的財産高等裁判所がスクリーンショットの添付も「公正な慣行」に当たり得るとして以降、適法な引用とされるものが多く、10件のうち6件で開示が認められていません。ただし、添えた文章が人格攻撃に当たれば名誉権の侵害として開示は認められます。
  • まとめサイトやブログへの転載は、18件のうち13件で責任や開示が認められています。掲示板の投稿を選んで編集したまとめ記事は引用元とは独立した表現行為とされ、45本の記事について200万円の賠償が命じられました。拡散した人に認められた賠償額は、1回の単純リポストで11万円と33万円、まとめサイトの運営で200万円です。

1. 裁判例の全体像

名誉毀損は、他人の社会的評価を下げる事実を不特定または多数の人に伝えることで成立し、自分で文章を書いたかどうかは要件ではありません。問題は、ボタン1つで済むリポストや「いいね」、リンクを貼るだけの行為、他人の文章を集めて載せる行為が、どこまで「自分が伝えた」と評価されるかです。当事務所の裁判例データベースから、拡散する行為そのものが争点になった94件を抽出しました。請求の種類は、発信者情報開示が73件、投稿者本人に対する損害賠償が10件、削除が16件です(併合された事件は重複して数えています)。類型別の内訳は、単純リポスト15件、引用リポスト15件、「いいね」1件、リンク25件、スクリーンショット10件、転載18件、逮捕報道の転載の削除10件で、全体では、拡散した人の責任や開示を認めたもの(一部認容を含む)が66件、認めなかったものが28件です。

2. 単純リポスト(コメントなしのリツイート)

責任を認めた判決 大阪高等裁判所令和2年6月23日判決は、元知事を非難する他人の投稿を、フォロワー18万人を超えるジャーナリストがコメントを付けずにリツイートした事案です。裁判所は、単純リツイートは、意味内容が変わったと解される特段の事情がない限り、元の投稿の表現内容をそのままフォロワーの読める状態に置く行為だとし、元の投稿が社会的評価を下げるものである場合、リツイートした人は次のように責任を負うとしました。

当該投稿を行った経緯,意図,目的,動機等のいかんを問わず,当該投稿について不法行為責任を負う

投稿が際限なく拡散し得ることから、単純リツイートをする人にも相応の慎重さが求められるとして過失を認め、慰謝料30万円と弁護士費用3万円の計33万円を命じた原判決を維持しました。投稿が後に削除されたことは、賠償を否定する理由にならないとしています。東京高等裁判所令和4年11月10日判決は、性被害を公表した人を虚偽の告発者のように描くイラスト付きの投稿について、投稿者本人に110万円、コメントなしでリツイートした2人にそれぞれ11万円の賠償を命じました。情報提供のつもりならその旨のコメントを付けることは十分に可能だったのに付けていない以上、閲覧者が賛同と解するのは自然だとしています。

開示を認めた判決 東京地方裁判所令和3年10月21日判決は、法人の代表者による性加害を指摘する投稿を繰り返しリツイートしたアカウントについて、単純なリツイートでも同じ趣旨の投稿を繰り返している以上、フォロワーに賛同の意思を示していると認識されるとして開示を命じました。同令和4年9月7日判決は、拡散を依頼する文言を付けたリツイートは自分で投稿したのと異ならないとし、同令和5年12月1日判決は、私人の住所を含む投稿をリツイートした人について、ボタンを押すと元の投稿のデータがサーバーに複製・記録される仕組みと拡散の機能から、情報を流通に置く「発信者」に当たるとして、X の運営会社に開示を命じました。名誉感情の侵害では元の投稿ごとに限度を超えるかが判断され、同令和4年7月1日判決は、2件の単純リツイートのうち1件だけ開示を認めました。

認めなかった判決 6件のうち3件は、元の投稿自体が違法でないとされたものです。東京地方裁判所令和2年2月27日判決は、コスプレ活動を批判する投稿のリツイートについて、露出度の高い衣装での活動を自ら公開している以上、批判的な意見にすぎないとし、同令和5年12月14日判決は、元の投稿が受忍限度内である以上、「これを共有するにすぎないリツイートが独自に名誉感情侵害を引き起こすことはない」としました(同令和5年1月17日判決も同旨)。同令和2年8月3日判決は、被害報告の記事と、その伝え方に懐疑的な記事をまとめてリツイートした事案で、元の投稿をそのまま紹介しているとみる余地があり、賛同が明白とはいえないとしました。同令和3年12月8日判決は、リツイートで送信されるのは引用元を表示させるデータにすぎず「侵害情報の流通」に当たらないとして、運営会社に対する開示請求を棄却しました。前記の令和5年12月1日判決と反対の方向で、運営会社に対する請求では判断が分かれています。残る1件は著作権の事案で、一審の東京地方裁判所平成28年9月15日判決はリツイートは公衆送信に当たらないとしましたが、最高裁判所令和2年7月21日判決は、リツイートで画像が自動的に切り取られ著作者名が見えなくなった点を氏名表示権の侵害とし、リツイートした人は開示の「発信者」に当たると判断しました。

3. 引用リポスト・シェア(コメント付き)

他人の中傷を引用して広めた場合 8件のうち7件で開示が認められています。広島地方裁判所令和4年4月25日判決は、報道された事件の加害者だと名指しする投稿への顔写真付きの返信を引用し、「拡散希望」とだけ記載した投稿について、返信先と引用元の内容を前提に事実の摘示を認めました。東京地方裁判所令和4年9月26日判決は、事件の加害者が原告だとする情報があるというブログ記事をシェア機能で引用した投稿について、コメントによって意味内容が変わったと解される特段の事情がない限り、投稿の意味内容は引用した記事と同一だとしました。同令和5年11月17日判決は、逮捕歴を暴露する投稿の引用ツイートについて、引用元のデータが別に記録される仕組みから、引用した人も引用元の投稿の「発信者」に当たるとして運営会社に開示を命じました。認められなかった1件(同令和6年3月26日判決)は、他人の投稿を引用して不正を疑う趣旨を書いたうえで、段落を分けて引用元に否定的な感想を述べたもので、引用元をどう受け止めたかを示したにすぎないとされました。

相手の投稿を引用して批判した場合 7件のうち3件で認められていません。東京地方裁判所令和6年6月19日判決は、医師で議員の原告がワクチン接種を強く勧めた投稿を引用して過激な語で非難した投稿について、公的な立場を明らかにした元投稿への批判であり意見・論評の域を逸脱しないとし、同令和6年3月11日判決は、外来種の魚を放流する動画を実名で投稿した会社代表者への「自然破壊」などの引用・返信投稿を公正な論評としました。津地方裁判所令和4年10月6日判決は、参考人招致での発言を揶揄する他人の投稿を引用して「県議会の汚点」だとした県議の引用リツイートについて、人格そのものを貶めるものではないとして削除と賠償の請求を棄却しています。認められた4件は、性的な侮辱語の部分(東京地方裁判所令和5年1月19日判決。虐待だと非難する部分は感想の域)、罵倒や障害者だとの示唆(同令和6年4月23日判決)、公的機関の検索結果を示して採用人数の誇大表示という事実を摘示したもの(同令和6年5月24日判決)です。相手の投稿を引用した批判は、元投稿が批判を受ける契機になっている分、意見・論評として保護される幅が広く、分かれ目は、人格攻撃や性的な侮辱に及んでいるか、証拠で存否を決められる事実を断定しているかにあります。

4. 「いいね」

「いいね」の責任を判断した裁判例は、データベースでは東京高等裁判所令和4年10月20日判決の1件です。被害を公に訴えた人をからかい中傷する他人の投稿に、議員が繰り返し「いいね」を押した事案で、一審は請求を棄却しましたが、控訴審は名誉感情の侵害を認めました。判決は、「いいね」の押下は「その行為をした者が当該対象ツイートに関して好意的・肯定的な感情を示したものと一般的に理解されているということができる」としつつ、ボタンは押すかどうかの二択しかなくブックマーク代わりに使われることもあるので、投稿の記載内容に加えて、押した人と話題にされた人との関係、押すに至った経緯をあわせて見る必要があるとしています。この事案では、議員が以前から番組やブログで被害者をからかい批判する言動を重ねていたこと、議員自身の投稿がきっかけで投稿された中傷に「いいね」を押し、自分を批判する投稿には押していなかったことから賛意を示すために押したと認め、押下の回数、害する意図、多くのフォロワーを持つ議員の影響力から、限度を超えた侮辱に当たるとしました。賠償額は判決文の掲載部分からは分かりませんが、報道では55万円とされ、その後、最高裁判所が上告を退けて確定したと報じられています。

この判決は、繰り返しの押下、以前からの経緯、議員としての影響力を重ねて責任を認めたもので、1回の「いいね」で責任を認めた判決はありません。前記の東京高等裁判所令和4年11月10日判決も、コメントなしのリツイートと「いいね」を併せて行った行為について、それまでのリツイートの経緯を考慮して本人の表現行為だとし、11万円の賠償を命じています。

5. リンクを貼った投稿

中傷記事へのリンクを貼る行為は、投稿自体に中傷の文言がないため、リンク先の内容を投稿の内容として読めるかが争点になります。25件のうち19件で、リンク先を取り込んだものとして名誉毀損やプライバシー侵害が認められています。東京地方裁判所平成25年1月17日判決は、リンク先を見るよう促す文言を添えた掲示板の投稿について、投稿はリンク先の記事をその一部に含むものとして判断すべきだとし、同平成25年12月6日判決は、不適切な行為を示す見出しを付けて別スレッドの投稿にリンクした投稿について、「リンクを置くだけなら名誉毀損にならないと考えていた」という主張を退け、計55万円を命じました。同平成28年7月21日判決は、Q&Aサイトの回答に付けたリンクについて、匿名の質疑応答を読んだだけの投稿者に真実と信じる相当の理由はないとして、特定費用を含む62万1060円の賠償を命じています。URLだけの投稿でも、同令和6年7月11日判決は、原告の氏名を冠したサイトへのURLだけの投稿について、1つの操作で容易にリンク先が表示され、閲覧者もリンク先が原告に関する情報だと予想できることから、リンク先を含めて判断して開示を命じました。X でブログ記事の題名を書いてリンクを付けた投稿も、異論や中立的な意見を付けていない以上、記事の内容を援用する趣旨だとされています(同令和2年6月16日判決)。

認めなかった6件の典型は、東京地方裁判所令和4年2月16日判決です。「先の投稿が消えているようなので貼っておく」という短い記載とともに記事へのハイパーリンクを貼った5ちゃんねるの投稿について、リンク先への興味を駆り立てる文句も原告に関するコメントもなく、一般の読者が直ちにクリックするのが通常とは認められないとし、次のように述べました。

単にハイパーリンクを貼っただけでそのリンク先の記事において事実摘示をした者と全く同一の表現行為をしたものと理解しその責任を認めることは,一般の読者の普通の注意と読み方に照らしてあまりにも飛躍があり,行き過ぎた解釈であるといわざるを得ない。

東京地方裁判所平成27年1月29日判決も、意味の分からない短い記載とリンク、またはリンクだけの投稿について同じ判断をし、同令和4年3月30日判決は、リンク先が誰でも投稿できる掲示板で、問題の指摘に直接つながらない場合には、その指摘まで読んだうえで投稿を理解するとは認められないとしています。分かれ目は、リンク先を見るよう促す文言や見出しの有無、本人の名前を冠したスレッドやサイトへの投稿か、クリック1回で問題の記載に直接たどり着けるかです。「貼っただけ」で済むのは、文脈も誘導もない投稿に限られます。

6. スクリーンショットの添付

他人の投稿のスクリーンショットを添えて投稿する行為は、元の投稿の著作権(複製権・公衆送信権)の侵害として開示が争われることが多い類型で、画像で引用することが著作権法32条1項の「公正な慣行」に合うかが争点になります。東京地方裁判所令和3年12月10日判決は、X の利用規約に反し公正な慣行に合わないとして開示を命じていました。しかし知的財産高等裁判所令和5年4月13日判決は、利用規約は運営会社と利用者の間の約束にすぎず、引用リツイートでは元の投稿が削除されると批評の趣旨が読み取れなくなるおそれがあり、画面画像を添えた投稿が現に多数行われていることから、「スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである」として、開示を認めた原審を取り消しました。同令和5年4月17日判決は全文を画像で示した引用も必要かつ相当だとしています。引用が否定されたのは批評の目的が認められない場合で、東京地方裁判所令和3年11月25日判決は近況と写真の記事の画像を添えてからかう投稿を、知的財産高等裁判所令和5年3月23日判決は私生活上の事項を明かす文章と写真の画像を興味本位に載せた投稿を、正当な範囲の引用とは認めませんでした。

注意が必要なのは、著作権の面で適法な引用とされても、添えた文章が名誉を毀損すれば開示が認められることです。知的財産高等裁判所令和4年11月2日判決は、他人のツイートの画像を添えて、その人が画像を偽って作った、作り話をする人物だから注意するようにと述べた投稿について、画像の添付は批評目的の公正な慣行に合うとしつつ、「捏造又は妄想して作り上げた話をする人物であるとの意見ないし論評は、控訴人X1の人格を攻撃するものであり」論評の域を逸脱するとして、名誉権の侵害を理由に開示を命じました。名誉毀損の成否は、引用リポストと同じ基準で判断されます。

7. まとめサイト・ブログ・掲示板への転載

転載では、「すでに公開されている情報を写しただけで、新たに評価を下げていない」という反論がされますが、ほとんど認められていません。大阪高等裁判所平成30年6月28日判決は、2ちゃんねるのスレッドやツイートから民族的出自や容姿を侮辱する投稿を選び、表題を付け、並べ替え、文字を拡大・色付けして編集したブログ記事45本について、「控訴人が一定の意図に基づき新たに作成した一本一本の記事(文書)であり,引用元の2ちゃんねるのスレッド等からは独立した別個の表現行為である」とし、まとめサイトには掲示板とは異なる相当数の読者がいて印象もより扇情的になっているとして、慰謝料180万円と弁護士費用20万円の計200万円を命じた原判決(大阪地方裁判所平成29年11月16日判決)を維持しました。東京地方裁判所令和3年10月28日判決も、まとめサイトが一般に信用性に乏しいことは周知の事実とはいえないとして、まとめ記事の開示を命じています。

東京高等裁判所平成25年9月6日判決は、他の掲示板や雑誌の記事を転載した投稿について、転載先で見た人の多くが転載元を読んだとは考えられず、転載は「新たに,より広範に情報を社会に広め,控訴人の社会的評価をより低下させたもの」だとして、転載にすぎないとして棄却した原審(東京地方裁判所平成25年4月22日判決)を変更しました。東京地方裁判所平成28年3月9日判決は、同じスレッドの16個前の投稿をそのまま貼り付けた投稿について「本件投稿から先に読む者もいると考えられる」として開示を認め、同平成29年11月7日判決は、過去のスレッドの記事を複写して再投稿した投稿者に計100万円を命じています。認められなかった5件は、転載した内容そのものが違法でない事案です。東京地方裁判所平成25年9月19日判決は、元従業員が法廷で行った意見陳述をそのまま転載した投稿について、「法廷でかかる意見陳述が行われたという意味において,本件投稿の記載は真実である」とし、東京高等裁判所令和元年10月23日判決は、事業者を批判するまとめサイトの投稿を、自ら資料の販売を公表した以上受忍すべき論評の域内としました。

8. 逮捕報道を転載した投稿

報道記事の一部を転載して逮捕の事実を伝える投稿は、投稿の時点では適法でも、時の経過によって削除の対象になります。最高裁判所令和4年6月24日判決は、公表されない法的利益がツイートを閲覧に供し続ける理由に優越する場合には削除を求められるとし、約8年の経過、刑の失効、転載元の報道記事の削除、速報目的で長期間の閲覧を想定したものとは認め難いことから、X の運営会社に削除を命じました。データベースには、このほかに削除を認めた判決が8件あり(報道記事へのリンクを含む投稿について大阪地方裁判所令和6年10月24日判決など)、認めなかったのは、約9年6か月後も教育公務員の立場にあった原告の東京地方裁判所令和5年7月18日判決の1件です。詳しくは「逮捕歴・前科に関するネット上の記事や投稿の削除について」をご覧ください。

9. 拡散した人に認められた賠償額と、開示の見通し

拡散した人に対する損害賠償の認容額は、1回の単純リポストで11万円(元の投稿者は110万円)と33万円(フォロワー18万人超)、見出し付きのリンク投稿で55万円、Q&Aサイトのリンク付き回答で62万1060円(法人の無形損害と特定費用を含む)、過去記事の複写再投稿で100万円、まとめサイトの記事45本で200万円です。元の投稿者に対する判決の認容額の中央値が55万円であること(「慰謝料・損害賠償額の一覧」)と比べると、1回の単純リポストはその下に、自分で編集・作成したまとめ記事はその上に位置します。

被害を受けた側が拡散した人の開示を求める場合に確認する点は3つです。第一に、元の投稿が違法といえるかです。元の投稿が意見・論評の域にとどまる場合や受忍限度内の場合、リポストした人の開示は認められません。第二に、拡散の態様です。繰り返し、拡散依頼の文言、賛同のコメント、見出しを付けたリンクは、賛同や事実摘示と読まれやすくなります。第三に、手続の問題です。X ではリポストについてもログイン時の通信から投稿者を特定することになり、リポストに係るログインの通信を媒介したことの立証がないとして請求の根拠にならないとされた例があります(東京地方裁判所令和4年1月26日判決)。多数のリポストをした人を全員対象にすると費用がかさむ一方で1人あたりの認容額は低くなりますので、フォロワー数が多い人、繰り返した人、コメントを付けた人に絞るのが現実的です。

10. リポストや「いいね」で意見照会や請求を受けた方へ

自分で書いた投稿でないことは、それだけでは理由になりません。判決に照らして争える点は次のとおりです。

  • 元の投稿が違法でない 元の投稿が意見・批評にとどまる、社会的評価を下げる事実を書いていない、名誉感情の侵害として受忍限度内である場合、リポストも違法になりません。元の投稿について公共性・公益目的・真実性の反論が立つかも検討します。
  • 賛同と読まれない事情がある 懐疑的な記事や反対意見を含めてリポストしている場合は、賛同が明白でないとされることがあります。コメントを付けていないこと自体は、賛同と読まれる方向に働きます。
  • 相手の投稿を引用した批判は意見・論評 相手が公的な立場で発信した内容や、自ら公開した行為に対する批判は、表現が強くても意見・論評として違法性が否定される余地があります。性的な侮辱語や人格攻撃に及んだ部分は別です。
  • 「いいね」は回数と経緯 責任が認められた唯一の判決は、繰り返しの押下、以前からの中傷の経緯、議員としての影響力を重ねたものです。単発の「いいね」に同じ評価がされるとは限りません。
  • スクリーンショットの著作権は引用 批評のために他人の投稿のスクリーンショットを添えた投稿は、知的財産高等裁判所の判決では適法な引用と認められる方向です。添えた文章の名誉毀損は別に判断されます。
  • 通信の立証 X ではログイン時の通信から特定されるため、そのログインが自分のリポストに対応するものかは争点になり得ます。

争える点がない場合、リポストの削除と示談が選択肢になります。削除すれば責任がなくなるわけではありませんが、損害の拡大を止め、示談の条件を整える意味はあります。通知書や訴状が届いた後の進め方は「投稿者として損害賠償を請求された方へ」に、開示が認められにくい投稿の類型は「発信者情報開示が認められなかった類型」にまとめています。

11. 引用した判決

本記事で触れた判決は次のとおりです。各リンク先に、事案の概要と判決理由の骨子があります。

12. ご相談について

中傷の投稿を拡散された方、リポストや「いいね」について意見照会書や請求が届いた方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。元の投稿と拡散した投稿の内容、拡散の回数やコメントの有無をお知らせいただければ、上記の類型に照らして、開示や賠償の見通し、争える点の有無をお伝えします。回答期限が迫っている場合は、その旨をお書きください。費用についてはFeeをご覧ください。

関連する解説

資料

  • 民法709条(不法行為)、710条(財産以外の損害)、723条(名誉毀損における原状回復)
  • 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)2条(定義。発信者)、5条1項(開示請求の要件)、5条3項(侵害関連通信)
  • 著作権法19条(氏名表示権)、32条1項(引用)
  • 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースに収録している裁判例のうち、リツイート・リポスト・引用・いいね・転載・リンク・スクリーンショット・まとめサイトなどの語を含む裁判例を抽出し、一行要約と本文を読んで、他人の投稿や記事を広める行為そのものが争点になった94件(2013年〜2024年)に絞った。類型と、拡散行為についての判断(認めた・一部認めた・認めなかった)は、判決理由を読んで分類し、一部認容は「認めた」に含めた。同じ事件の一審と控訴審は別に数えている。