SNS や掲示板で「バカ」「ブス」「気持ち悪い」「死ね」と書かれたとき、多くの方が「具体的な事実を書かれたわけではないから、名誉毀損にはならないのではないか」と考えます。たしかに事実を示さない悪口は名誉毀損に当たらないことが多いのですが、裁判所は「名誉感情の侵害」という別の枠組みで、悪口そのものを違法と判断しています。ただし、悪口なら何でも違法になるわけではなく、「社会通念上許される限度」を超えることが必要です。
この記事は、当事務所の裁判例データベースのうち名誉感情の侵害が争点になった614件(判決611件・決定3件、2013年〜2026年)を読み、どのような悪口が限度を超え、どのような悪口が限度内とされたのかを、表現の類型ごとに整理したものです。こうした投稿を理由に請求を受けた方にも、見通しの材料としてお使いいただけます。開示が認められない投稿の全体像は「発信者情報開示が認められなかった類型」に、同定可能性は「ハンドルネームへの中傷と同定可能性」にまとめています。
要点
- 事実を書いていない悪口でも、名誉感情の侵害として開示や賠償が認められます。名誉感情が争点になった発信者情報開示の裁判例557件のうち、全部認容は274件、一部認容は183件、棄却・却下は100件です。
- 基準は「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」かどうかで、侮辱の内容の重要性、回数や執拗さを含む態様の悪質さ、投稿に至る経緯、相手の立場が考慮されます。
- 少なくとも一部の表現で名誉感情の侵害が否定された168件の理由は、根拠を示さない感想や1回限りの短い悪口(75件)、本人の言動や公的な立場への批判・論評(46件)、誰に向けたものか・どういう意味かが分からない(38件)が中心です。
- 出自・民族を理由とする差別的な表現と性的な侮辱は、限度内とされた例がほとんどありません(出自・民族は0件、性的な侮辱は1件で、それも誰に向けたものか分からないことが理由)。容姿の悪口は、限度を超えるとされた例が約85件ある一方、限度内とされた例も31件あり、回数や文脈で結論が分かれます。
- 名誉毀損と違い、名誉感情の侵害は本人が自分のことと分かれば足り、他人による同定可能性を要しないとする判決が続いています。法人には名誉感情がないとされています。
1. 名誉感情の侵害とは何か、名誉毀損とどう違うか
名誉毀損は、人が社会から受ける客観的な評価を下げる行為です。名誉感情は、人が自分自身の人格的価値について持つ主観的な評価をいいます。東京地方裁判所平成25年12月20日判決(平成24年(ワ)第10940号)は、ブログに多数回書かれた悪口について名誉毀損を否定しつつ、「名誉感情も法的保護に値する利益であり,社会通念上許される限度を超える侮辱行為は,人格権の侵害として,不法行為が成立しうる。」としました。この基準は最高裁判所平成22年4月13日判決が示したもので、データベースの判決の多くがこれを前提にしています。
同定可能性は要件ではない 名誉毀損は、投稿が誰のことか他人に分かる必要があります。名誉感情については、東京地方裁判所令和4年3月31日判決(令和3年(ワ)第22400号)が「被侵害者において侵害行為の対象者が自己と特定できれば足り、他者による同定可能性が必要となるものではない。」とし、同令和5年12月14日判決(令和5年(ワ)第14486号)は、名誉毀損で同定可能性を否定した投稿についても、名誉感情の侵害は同定可能性の欠如だけでは排斥できないとしました。ただし、同令和4年7月22日判決(令和3年(ワ)第19876号)は、他人に分からない投稿では、表現が本人の名誉感情に具体的に向けられたと認められることを求めています。誰に向けたものか分からない投稿が否定された例が多いのはこのためです。
そのほかの違い 東京地方裁判所令和4年12月1日判決(令和4年(ワ)第16960号)は「原告は法人であるから、自己自身の人格的価値について有する主観的評価である名誉感情は観念できない」とし、法人が代表者の名誉感情の侵害を理由に申し立てた事案も退けられています(同令和5年1月16日決定(令和4年(ヨ)第3681号))。会社や店への罵倒は、代表者や従業員個人が請求できるかを検討します。謝罪広告などの名誉回復の処分は、名誉感情の侵害だけでは命じられません(同平成27年6月16日判決(平成26年(ワ)第32570号))。幼い子どもについては、「幼児であっても,その発達段階に応じて,自己の人格的価値に対する主観的評価を相応に有するものということができる」とされています(同令和3年7月20日判決(令和3年(ワ)第4074号))。刑事では侮辱罪(刑法231条)が問題になり、2022年の改正で法定刑が引き上げられました(「刑事告訴」の記事をご覧ください)。
2. 数字で見る名誉感情の裁判例
614件のうち、発信者情報開示を求めたものが557件、損害賠償や削除を求めたものが57件です。媒体は(重複あり)X が138件、爆サイ.com が115件、5ちゃんねる・2ちゃんねるが122件です。
少なくとも一部の表現で名誉感情の侵害が否定された168件(うち67件は請求が全部認められなかったもの)の理由は、重複を含め、根拠を示さない感想や1回限りの短い悪口75件、本人の言動・公的な立場・表現活動への批判や論評46件、誰に向けたものか・どういう意味かが分からない、または人格的価値に触れていない38件、接客業や配信者、医療機関など評価を受けることが予定された職業・活動18件、言い合いの応酬7件、法人による請求4件です。開示請求が全部認められなかった100件のうち54件は、侮辱の程度が限度内とされた表現を含んでいます。
3. 限度を超えるかを決める要素
東京地方裁判所令和5年1月17日判決(令和4年(ワ)第12465号)は、限度を超えるかは「侮辱とされる内容の人格的利益における重要性、侮辱とされる行為の態様の悪質性、侮辱とされる行為が行われた経緯といった点が考慮されるべきものと解される」としています(同令和4年5月13日判決(令和3年(ワ)第29937号)、同令和5年8月21日判決(令和5年(ワ)第6268号)も同じ枠組みです)。
- 人格を否定する内容か 東京地方裁判所平成27年3月4日判決(平成26年(ワ)第26416号)は、表現が「他者の人格的価値等を無価値なものとして否定しあるいはその程度が著しいものというべき場合」に限度を超えるとしました。眼科医への Google マップの口コミの「ハズレ」「バカ」は、「インターネット上の書込みにまま見受けられる下品で相手を揶揄する言辞の一つとはいえても、社会通念上誰しもが看過し難い、明らかで程度の甚だしい侮辱に該当するとまではいい難い」とされました(大阪地方裁判所令和6年8月30日判決(令和5年(ワ)第6250号))。
- 回数と執拗さ 東京地方裁判所平成29年1月16日判決(平成28年(ワ)第30811号)は、姓に罵倒語を付けた投稿38件のうち、最初の1件は限度内とし、同じ人物が翌日の約5時間に13回繰り返した投稿とその後の投稿は限度を超えるとしました。学歴の揶揄を「いずれも投稿は1回で特段に執拗なものとはいえず、差別用語等の強度の表現もない」として退けた例もあります(同令和5年7月24日判決(令和4年(ワ)第30760号))。逆に、本人を攻撃するために数年にわたり立てられ続けたスレッドで性的倒錯者を意味する語を用いた投稿は、特段の事情がない限り限度を超えるとされています(東京高等裁判所令和7年11月19日判決(令和7年(ネ)第3927号))。
- 根拠のない感想か、決めつけか 東京地方裁判所平成29年3月23日判決(平成28年(ワ)第40936号)は、性格や容姿への感想に責任を問えば、否定的な評価を述べること自体に相当な萎縮が生じるとしました。他方、学力不足を根拠なく決めつけた投稿は「誰でも閲覧できる本件スレッド上にそのような書き込みをされれば,誰もが名誉感情を傷つけられるものと認められる。」とされています(同令和3年11月5日判決(令和3年(ワ)第15259号))。
- 言い合いの中の投稿か 本人も相手を罵っていた応酬の中の投稿は、「原告が行っていた投稿の内容を踏まえれば、これらが社会通念上許される範囲を超えて原告を侮辱し又は中傷するものとまではいい難い」とされました(東京地方裁判所令和5年6月30日判決(令和4年(ワ)第25368号))。ただし、応酬や反撃の意味を持つだけでは受忍限度は高まらないとした判決(前記の同令和5年8月21日判決)や、応酬のない中で唐突に罵った投稿を限度超えとした判決(同令和6年4月23日判決(令和5年(ワ)第28130号))もあります。
- 相手の立場 政治家や自ら発信する人の活動への批判は、強い表現でも限度内とされやすくなります。政党党首を害虫になぞらえた投稿は「原告の政治的言動に対する批判ないし皮肉を強烈にするための比喩表現にすぎないとみる余地が多分にある」とされ(東京地方裁判所令和3年8月18日判決(令和3年(ワ)第6063号))、VTuber も「その活動に関する限り、消極的な評価であっても一定程度は受忍すべきである」とされました(同令和6年6月7日判決(令和5年(ワ)第32872号))。Instagram で子育てを公開しフォロワーが約19万8000人いた人への否定的な意見も、受忍すべき範囲内とされています(同令和4年10月24日判決(令和4年(ワ)第21293号))。
- 立場があっても許されない部分 受忍が求められるのは活動や言動に関係する批判です。東京地方裁判所令和3年6月25日判決(令和3年(ワ)第5082号)は、自ら発信していても「社会通念上許される限度を超えた侮辱行為を受忍すべきいわれはない」とし、メディアに出る競技者の容姿への投稿も「ゴルフのプレイとは関係のない誹謗中傷」とされました(同令和6年1月24日判決(令和5年(ワ)第18126号))。市議会議員への返信のうち、まだ生きていたのかという部分は政治的表現として限度内、容姿を貶める部分は「政治的表現の域を逸脱した、専ら原告を侮辱するための表現というべきである」と、1つの投稿の中で結論を分けた例もあります(同令和7年12月23日判決(令和7年(ワ)第22989号))。口コミサイトでも、店舗と違い「そこに従事する一従業員までが当然に同様の受忍をすべきとはいえない。」とされています(同令和3年11月18日判決(令和3年(ワ)第17564号))。
4. 認められた表現・認められなかった表現の類型
類型ごとに、限度を超えるとされた判決(判決理由の骨子の文言による分類で概数)と、限度内とされた判決(168件を読んで分類)の数を示します(重複あり)。
- 出自・民族・性別などによる差別的な表現(肯定 約20件/否定 2件) 民族差別的な呼び方は、故意による民族差別的な侮辱として人格的利益の重要部分を侵害し、態様も非常に悪質だとされました(前記の東京地方裁判所令和4年5月13日判決)。亡父の出自を理由とする投稿(同令和3年8月26日判決(令和3年(ワ)第6882号))、女性蔑視の呼び方(同令和4年9月2日判決(令和4年(ワ)第9749号))も同じです。否定された2件はいずれも年配の女性を指す呼び方で、炎上した本人の行為への非難と読まれたもの(同令和5年1月30日判決(令和4年(ワ)第18932号))と、実年齢より10歳若く表記して働いていたことへの疑問と読まれたもの(同令和5年2月16日判決(令和4年(ワ)第20123号))です。
- 性的な侮辱(肯定 約35件/否定 1件) 性風俗店で働く女性を性的な侮辱語で呼ぶことは「人間とみなさず、単なる性的欲求を満たす道具であると表現するものであるといえ、極めて侮辱的な表現であるといわざるを得ない」とされ(東京地方裁判所令和4年3月28日判決(令和3年(ワ)第28535号))、勤務先のスレッドでの露骨な性的投稿も限度を超えるとされました(同令和4年1月28日判決(令和3年(ワ)第24323号))。客と性的関係を持ったとする接客業の人への投稿も、「接客業という原告の職業の性質に鑑みても,社会通念上許される限度を超えているというべきであって」とされています(同平成28年2月16日判決(平成27年(ワ)第28508号))。
- 「死ね」など死や危害に触れる表現(肯定 約20件/否定 5件) 死を命じる記載は「原告の名誉感情を著しく侵害するものであって,社会通念上許される受忍限度を超える」とされ(東京地方裁判所令和3年7月21日判決(令和2年(ワ)第33248号))、伏せ字で死を望む投稿(同令和2年12月4日判決(令和2年(ワ)第16506号))、死を求めるコメント(同令和3年8月25日判決(令和3年(ワ)第3135号))も同じです。否定された5件は、生死を尋ねる投稿(同令和3年11月25日判決(令和3年(ワ)第13709号))、なぜまだ生きているのかという表現を出版や活動の継続への批判と読んだもの(同令和4年5月17日判決(令和3年(ワ)第28896号))など、直接死を求めないものです。危害の予告は、「生命や身体に危害を加える旨を示唆するかのような表現をすること自体が侮辱に当たるとは解し難く」とされる一方(同令和3年6月3日判決(令和3年(ワ)第440号))、脅迫的な人格的利益の侵害(同令和3年7月20日判決(令和3年(ワ)第438号))や平穏に生活する権利の侵害(同令和5年2月10日判決(令和4年(ワ)第23124号))として開示が認められています。名誉感情とは別の主張を立てておくことが大切です。
- 障害・疾病・精神状態(肯定 約30件/否定 9件) 頭脳が足りない、健常でないとやゆする投稿は「一種の差別的表現であり、特段の事情がない限り社会通念上許容される限度を超えた侮辱に当たる」とされ(前記の東京地方裁判所令和4年3月31日判決)、統合失調症を意味する俗語も「心身の機能の障害の有無は個人にとって極めてセンシティブな事柄である」として限度を超えるとされました(同令和4年1月28日判決(令和3年(ワ)第24125号))。もっとも、障害の可能性を指摘すること自体が直ちに侮辱になるわけではないとされ(同令和3年7月6日判決(令和3年(ワ)第4111号))、東京高等裁判所令和7年1月16日判決(令和6年(ネ)第3258号)は、社会的偏見のある障害があるのだろうと述べた投稿を「殊更に控訴人を侮辱する意図をもって、投稿されたものと認められる」として開示を命じる一方、控えめな表現で障害を推測した投稿は限度内としました。
- 容姿・体型・年齢(肯定 約85件/否定 31件) 認めた判決は、容姿は本人の努力で変えることが容易とは限らないこと(東京地方裁判所令和5年4月27日判決(令和4年(ワ)第29752号))、言動の批判に「あえてその容姿を殊更に揶揄する必要性」がないこと(同令和3年10月12日判決(令和3年(ワ)第5079号))を挙げます。限度内とされたのは、1回だけの否定的な表現(同令和4年3月22日判決(令和4年(ワ)第31584号))、容姿を見せて配信する人への容姿の比較(同令和4年12月21日判決(令和4年(ワ)第20560号))、自ら公表している身体的特徴への言及(同令和3年6月24日判決(令和2年(ワ)第27949号))などです。ただし、集客のため容姿を公開していても、顔を人間と異質な生物にたとえる表現は限度を超えるとされています(同令和3年6月24日判決(令和2年(ワ)第33505号))。
- 知能・能力・学歴(肯定 約30件/否定 7件) 学歴や婚姻歴で人の価値を比べる投稿は、「およそ個人の能力や価値の高低を図る基準とは考えられない」ものによるとして限度を超えるとされました(東京地方裁判所令和3年8月10日判決(令和3年(ワ)第2500号))。経営手腕や競技の能力への批判にとどまるものは、限度内とされる傾向があります。
- 人格の否定・罵倒語(肯定 約170件/否定 31件) 動物になぞらえ、値打ちのない人間だと述べる表現を繰り返した動画は限度を超えるとされました(東京地方裁判所令和5年2月28日判決(令和4年(ワ)第28563号))。一方、「逮捕」を求める短い投稿は、この語が「日常的な用法としては、強い非難に値するという趣旨で使用されることがあることは公知の事実である」として限度内とされています(同令和4年4月12日判決(令和3年(ワ)第29096号))。
- 職業上の対応や作品への評価(否定 29件) 講師の対応への強い不満について「特定の質問に対する対応振りについて否定的な評価を述べること自体に相当な萎縮が生ずることとなり,相当でない。」とした判決(東京地方裁判所令和3年1月21日判決(令和2年(ワ)第27250号))、小説のレビューについて安易に名誉感情の侵害を認めることは「文芸批評の健全な発達を阻害するおそれがある」とした判決(同令和4年10月28日判決(令和4年(ワ)第5588号))、クリニックの口コミの「頓珍漢」「無駄足」を意見の表明にすぎないとした決定(同令和7年10月24日決定(令和7年(ヨ)第5991号)、東京高等裁判所令和8年2月5日決定(令和7年(ラ)第2974号)も同旨)があります。
5. 賠償額
名誉感情の侵害を含む損害賠償の判決のうち、投稿者などに支払を命じたものは24件で、認容額は10万円から200万円、中央値は56万1000円です。多くは名誉毀損やプライバシー侵害とあわせたもので、侮辱だけの額は分けて示されないのが通常です。名誉感情の侵害が中心の判決には、次のものがあります。
- 訴訟の相手方をさげすむ呼び方をしたホームページの文言について、削除と慰謝料30万円(前記の東京地方裁判所平成27年6月16日判決)
- 本人やその擁護者を侮辱する投稿に議員が繰り返し「いいね」を押した行為について、報道では55万円(東京高等裁判所令和4年10月20日判決(令和4年(ネ)第1922号)。Xの記事もご覧ください)
- 容姿・出自・性的な事柄で中傷する記事を5回投稿した者に、慰謝料50万円、特定と削除の費用51万8700円の全額、弁護士費用10万円の計111万8700円。慰謝料は掲示板の信用性が高くないこと、単発的で具体性に欠けることも考慮されました(東京地方裁判所平成26年7月17日判決(平成25年(ワ)第16300号))
- 名誉毀損の慰謝料5万円とは別に名誉感情の侵害に10万円、計28万円(東京地方裁判所令和6年7月18日判決(令和5年(ワ)第70513号))
原告も相手に侮蔑的なメールを送っていたことを考慮して計22万円とした判決(東京地方裁判所平成28年3月17日判決(平成27年(ワ)第413号))がある一方、人種差別と女性差別の複合差別に根ざす記事について慰謝料180万円を維持した判決(大阪高等裁判所平成30年6月28日判決(平成29年(ネ)第2903号))もあります。悪口だけの投稿は名誉毀損より慰謝料が低くなりやすく、特定にかかった費用との釣り合いが問題になります。「投稿者の特定にかかった費用は取り戻せるか」「誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」もご覧ください。
6. 投稿した側の主張で通ったもの、通らなかったもの
請求を受けた側の主張では、根拠を示さない1回限りの感想、本人の言動や作品・診療への批判、言い合いの応酬、誰に向けたものか分からないという点が認められてきました。他方、匿名の掲示板だから許されるという主張は「匿名掲示板や匿名ブログにおいては侮辱的表現がより許容されているという社会通念があるとは認められない」として(東京地方裁判所平成28年3月2日判決(平成27年(ワ)第23587号))、放送禁止用語ほどの言葉ではないという主張は「そのような語句が使用されていない場合には社会通念上許容される限度を超える侮辱ではないとはいえない」として(同令和4年7月26日判決(令和3年(ワ)第31037号))、冗談で読めば虚偽と分かるという主張も、生存している人を死亡したかのように書く投稿は「それが一読して虚偽であると分かる記載であったとしても」侮辱に当たるとして(同令和4年2月28日判決(令和3年(ワ)第18598号))、退けられています。相手も発信している、先に挑発されたという事情も、限度を超える侮辱を正当化しません(前記の同令和3年6月25日判決、同令和5年8月21日判決)。請求を受けた場合は、問題の表現の回数と文脈、相手のどの言動に向けた批判かを、前後の投稿とともに整理することが出発点になります。
7. 引用した判決
- 名誉感情の意義と判断の枠組み 東京地方裁判所平成25年12月20日判決(平成24年(ワ)第10940号) ブログ。名誉毀損と別に名誉感情侵害の不法行為を認め30万円。/東京地方裁判所令和4年3月31日判決(令和3年(ワ)第22400号) 掲示板。他者による同定可能性は不要、障害・依存症のやゆは限度超え。/東京地方裁判所令和5年12月14日判決(令和5年(ワ)第14486号) 電子掲示板。名誉感情は同定可能性の欠如だけでは排斥されない。/東京地方裁判所令和4年7月22日判決(令和3年(ワ)第19876号) Googleマップ。一般読者の同定可能性は不要、具体的に向けられたことは必要。/東京地方裁判所令和5年1月17日判決(令和4年(ワ)第12465号) 電子掲示板。重要性・悪質性・経緯の考慮。/東京地方裁判所令和4年5月13日判決(令和3年(ワ)第29937号) ブログ。民族差別的な呼び方。/東京地方裁判所令和5年8月21日判決(令和5年(ワ)第6268号) X。応酬でも受忍限度は高まらない。/東京地方裁判所平成27年3月4日判決(平成26年(ワ)第26416号) 爆サイ.com。人格的価値を無価値として否定する表現。
- 法人・名誉回復処分・幼児 東京地方裁判所令和4年12月1日判決(令和4年(ワ)第16960号) 口コミサイト。法人に名誉感情はない。/東京地方裁判所令和5年1月16日決定(令和4年(ヨ)第3681号) 動画サイト。法人による代表者の名誉感情の申立て。/東京地方裁判所平成27年6月16日判決(平成26年(ワ)第32570号) ウェブサイト。削除と慰謝料30万円、告知文の掲載は否定。/東京地方裁判所令和3年7月20日判決(令和3年(ワ)第4074号) 掲示板。幼児の名誉感情。
- 回数・根拠・経緯・立場 大阪地方裁判所令和6年8月30日判決(令和5年(ワ)第6250号) Googleマップ。「ハズレ」「バカ」は限度内。/東京地方裁判所平成29年1月16日判決(平成28年(ワ)第30811号) 2ちゃんねる。1件目は限度内、反復は限度超え。/東京地方裁判所令和5年7月24日判決(令和4年(ワ)第30760号) 5ちゃんねる。1回の学歴の揶揄は限度内。/東京地方裁判所令和4年3月22日判決(令和4年(ワ)第31584号) ホストラブ。容姿の否定1回は限度内。/東京高等裁判所令和7年11月19日判決(令和7年(ネ)第3927号) 掲示板。攻撃目的のスレッドの36番目。/東京地方裁判所平成29年3月23日判決(平成28年(ワ)第40936号) 爆サイ.com。性格・容姿への感想、萎縮の懸念。/東京地方裁判所令和3年11月5日判決(令和3年(ワ)第15259号) 掲示板。学力不足の決めつけ。/東京地方裁判所令和5年6月30日判決(令和4年(ワ)第25368号) 5ちゃんねる。互いに侮辱し合う中の投稿。/東京地方裁判所令和6年4月23日判決(令和5年(ワ)第28130号) X。応酬のない中の唐突な罵倒。/東京地方裁判所令和3年8月18日判決(令和3年(ワ)第6063号) X。政党党首を害虫になぞらえた比喩。/東京地方裁判所令和4年10月28日判決(令和4年(ワ)第5588号) 通販サイトのレビュー。文芸批評。/東京地方裁判所令和6年6月7日判決(令和5年(ワ)第32872号) X。VTuber の活動への消極的評価。/東京地方裁判所令和4年10月24日判決(令和4年(ワ)第21293号) 電子掲示板。子育ての公開と否定的な意見。/東京高等裁判所令和8年2月5日決定(令和7年(ラ)第2974号) Googleマップ。診療への否定的な口コミ。/東京地方裁判所令和3年6月25日判決(令和3年(ワ)第5082号) 掲示板。自ら発信する人も度を越した侮辱は受忍不要。/東京地方裁判所令和6年1月24日判決(令和5年(ワ)第18126号) 5ちゃんねる。競技と関係のない中傷。/東京地方裁判所令和7年12月23日判決(令和7年(ワ)第22989号) X。議員への返信の前段と後段で結論を分けた。/東京地方裁判所令和3年11月18日判決(令和3年(ワ)第17564号) 爆サイ.com。口コミサイトでも一従業員は受忍不要。
- 表現の類型 東京地方裁判所令和3年8月26日判決(令和3年(ワ)第6882号) X。出自を理由とする差別。/東京地方裁判所令和4年9月2日判決(令和4年(ワ)第9749号) 掲示板。女性蔑視の呼び方。/東京地方裁判所令和5年1月30日判決(令和4年(ワ)第18932号) X。炎上した行為への非難は限度内。/東京地方裁判所令和5年2月16日判決(令和4年(ワ)第20123号) 掲示板。年齢を偽った表記への疑問。/東京地方裁判所令和4年3月28日判決(令和3年(ワ)第28535号) 爆サイ.com。性的な侮辱語。/東京地方裁判所令和4年1月28日判決(令和3年(ワ)第24323号) 爆サイ.com。露骨な性的投稿。/東京地方裁判所平成28年2月16日判決(平成27年(ワ)第28508号) 掲示板。接客業と性的関係の揶揄。/東京地方裁判所令和3年7月21日判決(令和2年(ワ)第33248号) X。死を命じる記載。/東京地方裁判所令和2年12月4日判決(令和2年(ワ)第16506号) 電子掲示板。伏せ字で死を望む投稿。/東京地方裁判所令和3年8月25日判決(令和3年(ワ)第3135号) X。死を求めるコメント。/東京地方裁判所令和3年11月25日判決(令和3年(ワ)第13709号) 爆サイ.com。生死を尋ねる投稿は限度内。/東京地方裁判所令和4年5月17日判決(令和3年(ワ)第28896号) 5ちゃんねる。出版への批判と読んだ。/東京地方裁判所令和3年6月3日判決(令和3年(ワ)第440号) X。危害の示唆自体は侮辱でない。/東京地方裁判所令和3年7月20日判決(令和3年(ワ)第438号) X。脅迫的な人格的利益の侵害で開示。/東京地方裁判所令和5年2月10日判決(令和4年(ワ)第23124号) ブログ。加害予告と平穏生活権。/東京地方裁判所令和4年1月28日判決(令和3年(ワ)第24125号) 5ちゃんねる。統合失調症を意味する俗語。/東京地方裁判所令和3年7月6日判決(令和3年(ワ)第4111号) 掲示板。子の発達に関する投稿。/東京高等裁判所令和7年1月16日判決(令和6年(ネ)第3258号) X。偏見のある障害の指摘は開示、冷静な推測は不開示。/東京地方裁判所令和5年4月27日判決(令和4年(ワ)第29752号) 爆サイ.com。容姿の揶揄。/東京地方裁判所令和3年10月12日判決(令和3年(ワ)第5079号) 掲示板。言動の批判に容姿の揶揄は不要。/東京地方裁判所令和4年12月21日判決(令和4年(ワ)第20560号) 掲示板。配信者の容姿の比較は限度内。/東京地方裁判所令和3年6月24日判決(令和2年(ワ)第27949号) 爆サイ.com。自ら公表した身体的特徴。/東京地方裁判所令和3年6月24日判決(令和2年(ワ)第33505号) 爆サイ.com。容姿を公開していても異質な生物へのたとえは限度超え。/東京地方裁判所令和3年8月10日判決(令和3年(ワ)第2500号) 5ちゃんねる。学歴・婚姻歴による価値の比較。/東京地方裁判所令和5年2月28日判決(令和4年(ワ)第28563号) 動画サイト。罵倒の反復。/東京地方裁判所令和4年4月12日判決(令和3年(ワ)第29096号) 爆サイ.com。「逮捕」を求める短い投稿は限度内。/東京地方裁判所令和3年1月21日判決(令和2年(ワ)第27250号) ウェブサイト。講師の対応への不満。/東京地方裁判所令和7年10月24日決定(令和7年(ヨ)第5991号) Googleマップ。クリニックの口コミ。
- 賠償額と投稿者側の主張 東京高等裁判所令和4年10月20日判決(令和4年(ネ)第1922号) X。「いいね」の反復、55万円。/東京地方裁判所平成26年7月17日判決(平成25年(ワ)第16300号) 電子掲示板。特定費用全額を含む111万8700円。/東京地方裁判所令和6年7月18日判決(令和5年(ワ)第70513号) Facebook。名誉感情侵害10万円、計28万円。/東京地方裁判所平成28年3月17日判決(平成27年(ワ)第413号) 2ちゃんねる・X。侮辱・プライバシー・脅迫で22万円。/大阪高等裁判所平成30年6月28日判決(平成29年(ネ)第2903号) まとめサイト。慰謝料180万円、計200万円。/東京地方裁判所平成28年3月2日判決(平成27年(ワ)第23587号) ブログ。匿名でも許されない。/東京地方裁判所令和4年7月26日判決(令和3年(ワ)第31037号) X。放送禁止用語でなくても侮辱になる。/東京地方裁判所令和4年2月28日判決(令和3年(ワ)第18598号) X。一読して虚偽と分かっても侮辱。
8. ご相談について
悪口や侮辱の投稿について投稿者の特定や削除、損害賠償をご検討の方、またこうした投稿を理由に請求を受けた方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と、前後の投稿やスレッドの状況、同じ投稿者によると思われる投稿の回数をお知らせいただければ、上記の判決に照らして、限度を超えると認められる見通しをお伝えします。見通しが立たない投稿については、その旨をお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。
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- 「本当のことを書いただけ」は通るか 名誉毀損の真実性を判決931件で整理
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資料
- 民法709条・710条(不法行為)、723条(名誉回復の処分)、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項(開示請求の要件)、刑法231条(侮辱罪)、最高裁判所平成22年4月13日判決
- 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースのうち、争点に名誉感情が含まれる614件(東京地方裁判所が582件)。否定された168件は要約と判決理由の骨子を読んで類型と理由を手作業で分類し、肯定された類型の件数は骨子の文言による分類の概数とした(いずれも重複あり)。賠償額は、名誉感情の侵害を含む損害賠償の裁判例53件のうち、投稿者などに支払を命じた24件による。

サイバーアーツ法律事務所 弁護士(東京弁護士会、2007年登録)。インターネット上の権利侵害に関する事件のみを扱う。