発信者情報開示が認められなかった投稿の類型(裁判例414件の理由別の整理と、媒体別の割合)

発信者情報開示は、投稿が権利を侵害したことが「明らか」である場合に限って認められます。当事務所の裁判例データベースに収録している発信者情報開示の裁判例2,177件のうち、請求が全部認められたものは1,296件、一部認められたものは467件、認められなかったものは414件です。この記事は、認められなかった414件を理由ごとに分類し、どのような投稿では開示が認められないのかを、判決の実例とともにまとめたものです。

ご相談の前に、ご自身の投稿がどの類型に当たりそうかを見当づける材料としてお使いください。媒体ごとの手続の流れは、X、Googleマップ、5ちゃんねる、YouTube、Instagram、Facebookの各記事をご覧ください。

要点

  • 開示が認められなかった理由で最も多いのは、投稿が具体的な事実を書かず、感想や意見にとどまるというものです。「最低」「二度と行かない」「頓珍漢」のような言葉だけの投稿は、名誉毀損にも、名誉感情の侵害にも当たらないとされています。
  • 次に多いのが、書かれた事実が真実である、または真実でないとはいえないというものです。開示を求める側が、違法性を失わせる事情がないことまで示す必要があり、虚偽であることの資料がないと認められません。
  • X や Instagram のログイン型の投稿では、内容とは別に、開示の対象になる通信の範囲が問題になります。投稿に最も近いログイン1つが原則で、投稿から1年6か月後のログインは対象外とされています。
  • 媒体別に見ると、口コミサイト(40%)、Googleマップ(37%)、転職会議(34%)は認められなかった割合が高く、2ちゃんねる・Instagram・動画サイト(各10%)、爆サイ(14%)は低くなっています。口コミは感想が多く、掲示板は具体的な事実や罵倒が多いためです。
  • 開示を受けた後に投稿者を晒す意図を示していた請求者について、開示を受ける正当な理由がないとして請求を退けた判決があります。

1. 開示の要件と「明らか」の意味

発信者情報開示が認められるには、投稿によって権利が侵害されたことが明らかであること(権利侵害の明白性)と、開示を受ける正当な理由があることが必要です(情報流通プラットフォーム対処法5条1項)。「明らか」とは、社会的評価の低下などの権利侵害を根拠づける事実があるだけでなく、違法性を失わせる事情(公共性、公益目的、真実性など)がうかがわれないことまでを含みます。開示を求める側が、この両方を主張立証します(大阪高等裁判所平成30年11月28日決定、東京地方裁判所令和5年11月17日判決)。損害賠償請求の訴訟では投稿者側が真実性を立証しますが、開示請求では逆の構造になっており、この点が開示を難しくしています。

認められなかった414件の理由の内訳(要旨に現れる理由で分類。重複あり)は、感想・意見にとどまる87件、ログインの通信や情報の保有など手続上の要件87件、真実性・公益目的64件、社会的評価の低下がない63件、名誉感情の侵害が受忍限度内54件、同定可能性がない41件、著作権の引用に当たる24件、プライバシー侵害が明白でない14件、正当な理由がない4件です。

2. 認められなかった理由の類型

  • 具体的な事実のない感想・意見 名誉毀損は、具体的な事実を示して社会的評価を下げる投稿について成立します。クリニックの口コミの「頓珍漢」「無駄足」(東京地方裁判所令和7年10月24日決定)、院長を否定的に評する口コミ(同令和6年1月30日判決)、店舗名のスレッドに書かれた前提事実のない短い悪口(同令和6年6月27日判決)、中学校の教員の性格を否定的に評する口コミ(同令和6年3月18日判決)は、いずれも投稿者の個人的な意見や感想にとどまるとされました。前後の投稿に事実が書かれていても、その投稿がどの事実を前提にしているか読み取れなければ同じです。
  • 名誉感情の侵害が受忍限度内 事実を伴わない罵倒は、名誉感情の侵害として開示が認められることがありますが、社会通念上受忍すべき限度を超えることが必要です。抽象的な表現で、1回限りで、殊更な侮辱でない投稿は、限度内とされます(東京地方裁判所令和6年3月18日判決)。原告自身の投稿への批判的な返信(同令和6年3月11日判決)や、医師で議員である原告のワクチン接種を勧める投稿への過激な非難(同令和6年6月19日判決)は、原告の側に批判を受ける契機があったことから、受忍限度内とされました。
  • 書かれた事実が真実、または真実でないとはいえない 公共性のある事柄について、書かれた事実が真実であれば違法性がありません。転職サイトの解雇予告の投稿(東京地方裁判所令和5年11月17日判決)、企業口コミサイトの執務環境に関する投稿(同令和6年7月18日判決)は、重要な部分が真実とされました。口コミで誤診を指摘された医療機関が、誤診でなかったことの立証をしなかった事案(同令和6年6月14日判決)や、ワクチン接種後に夫を亡くした人のツイートを捏造と批判した投稿について、真実性が認められる可能性が相当程度高いとされた事案(同令和5年11月24日判決)のように、真実でないとはいえない段階でも開示は認められません。
  • 社会的評価の低下がない 否定的な内容でも、一般の読者が読んで評価を下げる内容でなければ名誉毀損に当たりません。矯正歯科の予約の遅れや院長の離席は通常あり得る事態(東京地方裁判所令和6年6月27日判決)、主語がなく意味もはっきりしない短い投稿(同令和6年3月19日判決)、従業員とAV女優の同一性を尋ねる質問形の投稿(同令和2年11月24日判決)、ホストが上客の求めに応じて買い物をして贈っているという通常の業務の記載(同令和4年12月20日判決)は、社会的評価を下げないとされました。求職者から消極的に評価されることと社会的評価の低下は別だとした判決もあります(東京地方裁判所令和6年7月18日判決)。
  • 投稿が誰のことか分からない(同定可能性) 氏名がなく、一般の閲覧者が投稿の人物を特定できない場合、権利侵害は成立しません。建物と所有者を特定できない掲示板の記事(東京地方裁判所令和5年3月28日判決)、別の動物病院への口コミ中の「他の獣医」(同令和6年2月1日判決)がその例です。住所と氏名が別々の投稿に書かれていても、投稿の間隔が長く引用や返信の関係がなければ、閲覧者が結び付けて読むとはいえず、プライバシー侵害も認められません(同令和3年5月31日判決)。一方、源氏名や車種のような呼び方でも、前後の投稿やスレッドの題名から特定できる場合は同定可能性が認められます。
  • ログイン型の投稿で、開示の対象になる通信でない X や Instagram は投稿時の IP アドレスを保存せず、ログイン時の通信記録から投稿者を特定します。2022年の改正法では、開示の対象は投稿と「相当の関連性」のあるログイン(侵害関連通信)に限られ、原則として投稿に最も近いログイン1つとされています(東京地方裁判所令和5年11月10日判決)。投稿から約1年6か月後のログインは関連性が希薄として対象外とされ(同令和5年5月29日判決)、投稿から3か月後の別アカウントへのログインは使用者の同一性を推認できないとされました(同令和3年6月15日判決)。同じ秒に同じ IP アドレスで複数の利用者が通信する仕組みのため、契約者情報が投稿者の特定に資するとはいえないとされた例もあります(同令和5年3月14日判決)。
  • プロバイダが情報を保有していない、または特定電気通信でない プロバイダが保存期間内に調査しても通信記録が見つからなかった場合、権利侵害が明白でも開示は認められず、プロバイダの重大な過失も認められないため損害賠償も認められません(東京地方裁判所令和5年9月26日判決)。匿名メッセージ受付サービスで特定の利用者宛てに送られた投稿は、受け手が X に転載し得ても1対1の通信であり、開示の対象となる特定電気通信に当たりません(同令和5年12月20日判決)。LINE のオープンチャットの電話番号について、運営会社が開示できる状態で保有していないとされた例もあります(同令和6年3月14日判決)。
  • 開示を受ける正当な理由がない 開示を受けた情報を使って投稿者を晒す、危害を加えるといった意図が認められる場合は、損害賠償請求の意図があっても、正当な理由がないとされます。自身のブログで投稿者を晒し者にすると繰り返し投稿していた請求者(東京地方裁判所平成25年4月19日判決)、動画配信で投稿者への危害や情報の横流しを口にしていた請求者(同令和6年9月5日判決)について、開示は認められませんでした。氏名・住所が既に任意に開示されている場合に、重ねて電話番号の開示を求める正当な理由もないとされています(同令和2年6月10日判決)。
  • 著作権の引用、プライバシーの公共性 自分の動画の一場面を抜き出して批判とともに投稿された事案では、適法な引用でないとはいえないとして開示が否定されています(知的財産高等裁判所令和7年2月19日判決)。約10年前の逮捕を百科事典に再掲載した事案では、放送作家という職業上の立場から公共の利害との関連性が保たれているとして、プライバシー侵害は明白でないとされました(東京地方裁判所令和4年12月27日判決)。

3. 媒体別に見た、認められなかった割合

発信者情報開示の裁判例を媒体別に見ると、認められなかった割合(全部認められなかったもの。一部認容は含まない)は次のとおりです。

  • 口コミサイト 40%(101件中40件)、Googleマップ 37%(59件中22件)、転職会議 34%(29件中10件)
  • X 23%(465件中109件)、ウェブサイト 22%(120件中26件)、ブログ 17%(101件中17件)
  • 5ちゃんねる 16%(164件中26件)、掲示板 15%(227件中35件)、電子掲示板 15%(330件中51件)、ホストラブ 15%(61件中9件)、爆サイ 14%(302件中42件)
  • 2ちゃんねる 10%(129件中13件)、Instagram 10%(59件中6件)、動画サイト 10%(39件中4件)

口コミサイトと Googleマップで高いのは、感想や評価だけの投稿が多く、口コミの読者は個々の投稿を直ちに信用しないと裁判所が見ているためです。X で高いのは、意見・論評の投稿が多いことに加えて、ログイン型の投稿に固有の要件があるためです。掲示板や爆サイで低いのは、具体的な事実の摘示や罵倒が多いためです。法人が請求した場合と個人が請求した場合で、認められなかった割合に差はありません(法人21%、個人19%)。

4. 見通しを立てるときに確認する点

  • 投稿に具体的な事実が書かれているか 「〇〇をした」「〇〇である」という事実が書かれていれば名誉毀損、感想や罵倒だけなら名誉感情の侵害として検討します。名誉感情の侵害は、表現の強さ、回数、文脈で判断されます。
  • 書かれた事実が虚偽であることを示せるか 開示請求では、請求する側が虚偽であることを示します。記録や資料で示せる事実か、水掛け論になる事実かで、見通しは大きく変わります。
  • 投稿が自分のことだと分かるか 氏名、ハンドルネーム、勤務先、スレッドの題名、前後の投稿から、一般の閲覧者が特定できるかを見ます。
  • 投稿からどのくらい経っているか 接続プロバイダの通信記録の保存期間は限られており、X などのログイン型では投稿に近いログインが対象になります。時間が経つほど、内容に問題がなくても手続上の理由で認められなくなります。
  • 開示を受けた後に何をするか 損害賠償請求、削除、刑事告訴が開示を受ける理由になります。投稿者を公表する目的は正当な理由になりません。

開示が難しい投稿でも、運営者に対する削除請求が認められることや、同じ投稿者の別の投稿が開示の対象になることがあります。開示が認められた投稿の例は、各媒体の記事の「認められやすい投稿」の項をご覧ください。

5. 裁判例

  • 東京地方裁判所平成25年4月19日判決 掲示板の投稿について開示を求めた請求者が、自身のブログで投稿者を晒し者にする、名前を公表すると繰り返し投稿していた事案。発信者の名誉や生活の平穏を害する意図を併せ持つとして、正当な理由を否定し、権利侵害の有無を判断せずに棄却した。
  • 大阪高等裁判所平成30年11月28日決定 医院へのGoogleマップの口コミについて、「明らか」とは違法性阻却事由をうかがわせる事情がないことまでを含むとし、口コミサイトの読者は多数の投稿を比較して判断するから感想だけの書き込みを直ちに信用しないとして、開示を認めなかった。
  • 東京地方裁判所令和3年5月31日判決 電子掲示板で住所と氏名が別々に投稿された事案。複数のスレッドにわたり、引用や返信の関係がなく、間に100以上の無関係な投稿があることから、閲覧者が結び付けて読むのは困難として、プライバシー侵害の明白性を否定した。
  • 東京地方裁判所令和5年2月16日判決 風俗店の在籍女性を年配扱いし年齢の嘘を指摘した投稿について、原告が実年齢より10歳若く表記していた事情から、年齢を偽って稼働していることを疑問視する意図を含むもので、嘘つきとの評価もやむを得ないとして、名誉感情の侵害も社会的評価の低下も認めなかった。
  • 東京地方裁判所令和5年3月14日判決 X のログイン記録に基づく開示請求で、1個の IP アドレスがポート番号で識別して1秒以内に複数の利用者に使われる仕組みから、同じ秒・同じ IP アドレスの通信の契約者情報が投稿者の特定に資するとはいえないとして棄却した。特定された4件の契約者がいずれも別人であった。
  • 東京地方裁判所令和5年5月29日判決 投稿から約1年6か月後のログインについて、それより投稿に近い20以上のログインがあることから、投稿との関連性は相当に希薄であり、改正法の侵害関連通信に当たらないとして棄却した。
  • 東京地方裁判所令和5年9月26日判決 かつらの着用を明かした掲示板の投稿について、プライバシー侵害は明らかとしつつ、プロバイダが保存期間内に調査しても通信記録が見つからなかったことから、発信者情報の保有を認めず、重大な過失も認めなかった。
  • 東京地方裁判所令和5年11月10日判決 X の投稿者の特定で1か月分のログイン情報の開示を求めた事案。侵害関連通信は原則として投稿に最も近いログイン1つであり、アカウントが複数人で使われているなど特定が困難な事情を具体的に示さない限り、範囲は広がらないとした。
  • 東京地方裁判所令和5年11月24日判決 ワクチン接種後に夫を亡くした人のツイートを捏造と批判した投稿について、死因をワクチンの副作用と断定する部分を虚偽と指摘する点に真実性が認められる可能性が相当程度高いとし、デマと区別が困難なツイートへの批判に違法性を認めると表現の自由を過度に規制するとして、開示を認めなかった。
  • 東京地方裁判所令和5年12月20日判決 匿名メッセージ受付サービスで特定の利用者宛てに送られた投稿は、受け手が X で回答しない限り第三者が知り得ない1対1の通信であり、特定電気通信に当たらないとして棄却した。
  • 東京地方裁判所令和6年1月25日判決 地域の掲示板で先行記事に続いて一家を車種で呼んで否定的に評した投稿について、先行記事との結び付きから同定可能性は認めたが、あおり運転や路上駐車といった具体的な事実の摘示を読み込むことは困難として、権利侵害の明白性を否定した。
  • 東京地方裁判所令和6年3月11日判決 外来魚を釣って湖に放す動画を投稿した会社代表者への「自然破壊」などの批判的な返信・引用投稿について、前提事実は真実で意見・論評の域を逸脱せず、原告自身が動画を投稿したことから侮辱的な表現も受忍限度内として、開示と削除をいずれも棄却した。
  • 東京地方裁判所令和6年3月18日判決 中学校のクチコミで教員の性格や振る舞いを否定的に評した投稿について、勤務校や担当教科から同定可能性は認めたが、具体的な根拠やエピソードを伴わない抽象的な否定的評価は個人的な意見・感想と理解され、単回で殊更な侮辱でもないとして、開示を認めなかった。
  • 東京地方裁判所令和6年7月18日判決 企業口コミサイトの勤務先の労働環境に関する6件の投稿について、求職者から消極的に評価されることと社会的評価の低下は別だとし、執務環境が悪いとの印象を与える投稿も重要な部分が真実として、開示を棄却した。
  • 東京地方裁判所令和6年9月5日判決 開示命令を得た申立人が動画配信で投稿者への危害や情報の横流しを口にしていた事案で、不当な自力救済を目的とする開示請求権の濫用のおそれがあるとして、正当な理由を否定し、開示命令を取り消した。

6. ご相談について

投稿者の特定や投稿の削除をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と、書かれた事実が事実と異なる点をお知らせいただければ、上記の類型に照らして開示の見通しをお伝えします。見通しが立たない投稿については、その旨をお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。

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