発信者情報開示の手続で投稿者の氏名と住所が分かると、次は投稿者本人に責任を求める段階に移ります。通常は、弁護士から投稿者に通知書を送って損害賠償と投稿の削除を求め、示談で解決するか、まとまらなければ訴訟を起こします。この記事は、投稿者が分かった、または分かりそうな被害者の方(個人・事業者)に向けて、特定後の流れ、訴訟で争点になる点と結論の傾向、認められる額の水準、金銭以外に判決で認められたもの、投稿者が支払わない場合の対応を、判決で整理したものです。
対象は、当事務所の裁判例データベースに収録している損害賠償の判決のうち、被告が投稿者本人である135件(2013年〜2026年)です。投稿者を特定するまでの手続は「発信者情報開示請求の流れと期間、認められる条件」に、請求を受けた側から見た同じ論点は「投稿者として損害賠償を請求された方へ」にまとめています。
要点
- 135件のうち、請求の全部または一部が認められたものは117件、全部認められなかったものは18件です。18件の理由は、意見・論評や真実性によって違法性が否定されたものが6件、投稿が原告を指すと読めない(同定可能性がない)とされたものが4件、社会的評価を下げる内容と読めないとされたものが4件、その他が4件でした。
- 投稿者が「自分ではない」「家族が書いた」と争っても、投稿の内容や回線の使用状況などから投稿者と認めた判決が7件あります。「被害者の側にも問題がある」「言論で反論すべきだ」という投稿者側の主張は、11件で退けられています。
- 認められる額は、投稿者に支払を命じた判決77件の中央値で57万2000円です。売上の減少などの逸失利益は、請求した9件のいずれでも認められていません。投稿者の特定にかかった費用は、2024年4月以降の判決28件のうち全額を認めたものが4件で、20件は相当な範囲に限るか、対象の投稿数で按分しています。
- 削除を求め、不法行為が認められた25件のうち19件で投稿の削除が命じられました。再投稿・再掲載の差止めを認めた判決が2件ある一方、謝罪広告・謝罪文は31件で求められ、命じた判決はありません。
- 開示で知った投稿者の氏名や、相手とやり取りした書面をネットで公表した側が、逆に賠償を命じられた判決が3件あります。
- 135件のうち104件の判決には仮執行宣言が付いています。当事務所の経験では、判決の後に投稿者が自ら支払う例が6〜7割ほどです。
1. 投稿者が分かった後の流れ
- 通知書による請求 投稿の特定、権利侵害の内容、損害賠償の額、投稿の削除と再投稿の禁止、回答期限を書いた通知書を、弁護士から投稿者に送ります。
- 示談 投稿者が請求に応じれば、示談金の額と支払方法、削除などの条件を合意して終わります。
- 訴訟 投稿者が応じない場合や、責任の有無・金額で折り合わない場合は、損害賠償請求訴訟を起こします。訴訟の途中で和解することもあります。
- 刑事告訴 名誉毀損罪・侮辱罪の告訴を並行することもできます。手続は「ネット上の誹謗中傷の刑事告訴(名誉毀損罪・侮辱罪)の流れ」をご覧ください。告訴にかかった弁護士費用は、投稿者への損害賠償では損害と認められなかった判決があります(東京高等裁判所令和2年1月23日判決)。
当事務所の経験では、損害賠償の請求の5割ほどは、訴訟の前の通知書の段階での示談か、訴訟の中の和解で解決しています。統計を取ったものではなく、おおよその目安です。
時効 不法行為による損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条)。匿名の投稿では、開示で投稿者の氏名を知った時が起算点になるのが通常です。東京地方裁判所令和6年2月8日判決は、開示された氏名の人物が改名していたことから、告訴の時点でも投稿者を知っていたとは認められないとして、時効の主張を退けました。他方、東京地方裁判所平成28年6月2日判決(平成26年(ワ)第13397号)では、問題とされた行為の一つについて3年が過ぎていたため、その分の請求が認められませんでした。開示を受けたら、早めに請求に移ることが必要です。
2. 示談で解決する場合
示談では、示談金の額のほか、投稿の削除、再投稿をしないこと、謝罪、互いに口外しないこと、刑事告訴をしないこと(告訴済みであれば取り消すこと)、これ以外に債権債務がないことを決めるのが通常です。示談の進め方について、判決から分かる点は次のとおりです。
- 合意は書面で成立させる 東京高等裁判所令和7年6月26日判決の事案では、被害者が、和解の条件のやり取りの中で賠償金を放棄する旨をSNSに投稿しましたが、和解は成立しませんでした。裁判所は、この投稿は和解の成立を前提に放棄の予定を表明したものだとして、「和解が成立しないにもかかわらず、一方的に控訴人に対する損害賠償請求権を放棄する意思、すなわち債務免除の意思表示をしたものとは解されない」とし、55万円の賠償を維持しました。交渉中の投稿や発言は後で争いの種になるので、条件のやり取りは代理人を通じて行い、合意は書面にします。
- 示談案の提示は訴訟でも考慮される 東京地方裁判所平成28年6月21日判決(平成27年(ワ)第36231号)は、訴訟の前に投稿者側から示談案が示されていた事案で、それは「自らの非を一定程度認めた上での示談案であったと推認できる」として、謝罪がないことを理由に慰謝料を増やすことは認めませんでした。投稿者が未成年であることや投稿者の支払能力も、慰謝料の額を大きく左右する事情とはされていません。
- 交渉中も投稿が続く場合 東京地方裁判所平成25年7月19日判決は、削除されても同様の投稿を繰り返し、訴訟中の和解協議の間にも投稿を続けた事案で、慰謝料250万円を認めました。東京地方裁判所平成28年8月25日判決は、弁護士の警告の後も投稿をやめなかったことから、今後の投稿の差止めまで認めています(6で触れます)。示談がまとまらず投稿も止まらない場合は、訴訟で削除や差止めを求めることになります。
3. 訴訟で争点になる点と結論の傾向
投稿したのは自分ではない 開示されるのは回線の契約者で、投稿者とは限りません。ただ、契約者が「家族が書いた」「第三者に遠隔操作された」と主張するだけでは通っておらず、投稿者と認めた判決が7件あります。東京地方裁判所令和6年6月4日判決(令和5年(ワ)第21439号)は、無関係の第三者が回線を使った可能性は乏しく、家庭内の回線の使用状況についての主張立証もないことなどから、契約者を投稿者と推認しました。同居の家族による投稿もありうるという主張(東京地方裁判所平成28年3月17日判決(平成27年(ワ)第413号))や遠隔操作の主張(東京地方裁判所令和6年2月8日判決)も退けられ、治療歴との一致などから元患者を口コミの投稿者と推認した例もあります(東京地方裁判所令和6年9月26日判決(令和5年(ワ)第2570号))。他方、投稿していない回線の契約者や同居の父の責任は否定されています(東京地方裁判所平成25年12月2日判決、大津地方裁判所彦根支部平成27年1月22日判決)。どの投稿を被告がしたかは請求する側が立証するもので、問題の投稿より前からの中傷について、被告の投稿と認める証拠がないとした判決もあります(東京地方裁判所平成25年12月6日判決(平成24年(ワ)第15320号))。
投稿者が訴訟に出てこない 投稿者が答弁書を出さずに欠席した判決が5件あり、いずれも請求の根拠となる事実を認めたものとみなされました。ただ、損害の額は裁判所が判断するため、認められた額は、請求額275万円に対し55万円(東京地方裁判所平成28年6月2日判決(平成28年(ワ)第2674号))、約286万円に対し130万円(同令和6年4月23日判決(令和6年(ワ)第4486号))、198万5500円に対し66万円(同令和6年11月26日判決)などです。
投稿が自分を指すと読めない(同定可能性) 請求が全部認められなかった18件のうち4件がこの理由です。東京地方裁判所平成28年4月26日判決(平成27年(ワ)第5753号)は、ペンネームの作者を揶揄した投稿について、閲覧者がペンネームと原告本人を結びつけられないとしました。他方、氏名がなくても検索等で特定できる場合(東京高等裁判所平成28年12月5日判決)や、同じアカウントの一連の投稿から分かる場合は認められています。詳しくは「同定可能性」の記事をご覧ください。
書いたことは真実だ 投稿者本人に対する訴訟では、公共の利害に関する事実について、公益目的で、重要な部分が真実であること(または真実と信じる相当の理由があること)を、投稿者の側が証明します。この主張が通った例として、ホストが窃盗に関わる罪を犯したとの投稿について真実性の証明を認めた東京地方裁判所令和6年9月2日判決(令和5年(ワ)第21248号)、民事判決の報道を前提にした投稿に相当の理由を認めた東京高等裁判所令和6年3月13日判決があります。反対に、クリニックの口コミのうち、手術後に何度も再発し他院で完治したという部分は真実性が証明されず、医療法人と院長への賠償が命じられました(東京地方裁判所令和6年7月16日判決(令和5年(ワ)第18521号))。私生活を暴く投稿では、公共性・公益性が認められない以上、真実かどうかは責任を左右しないとされています(東京地方裁判所平成25年7月19日判決)。詳しくは「真実性の抗弁」の記事をご覧ください。
意見・論評にすぎない 議会の参考人招致を「汚点」とした県議の投稿(津地方裁判所令和4年10月6日判決)や、批判者の自宅を訪ねるなどした取材の方法への辛辣な批判(東京地方裁判所平成28年8月30日判決)は、前提となる事実が真実で論評の域を逸脱していないとして、違法性が否定されました。他方、理由を示さず否定的・断定的な表現で人身攻撃に及んだ投稿は論評の域を逸脱したとされ(東京高等裁判所令和7年1月22日判決)、「ステマ」(東京高等裁判所令和7年6月26日判決)や「戦犯」(同令和7年2月25日判決)のように評価を含む語でも、証拠で存否を決められる内容であれば事実の摘示とされています。罵倒などの侮辱は「名誉感情の侵害」の記事にまとめています。
複数の投稿 違法かどうかは投稿ごとに判断され、一部の投稿だけが認められることがよくあります(東京地方裁判所令和6年9月19日判決は5件のうち3件)。ただし、短い投稿が続くSNSでは、同じアカウントの他の投稿やヘッダー画像もあわせて意味が読まれ(横浜地方裁判所令和6年11月20日判決)、連続した投稿を一連の侵害行為として慰謝料を一体で算定した判決もあります(千葉地方裁判所令和6年9月26日判決)。逆に、投稿者が約6時間後に投稿した釈明は、元の投稿と一体には見られませんでした(大阪地方裁判所平成30年9月20日判決)。訴訟を起こした後に同じ趣旨の投稿がされた事案では、控訴審で請求を追加し、2件について賠償が認められています(東京高等裁判所令和7年2月25日判決)。繰り返しの投稿は慰謝料を増やす方向に働き、1か月弱のうちに6回の投稿がされた東京地方裁判所令和6年11月26日判決では慰謝料30万円とされました。
被害者の側にも問題がある・言論で反論すべきだ この種の主張は11件で退けられています。東京地方裁判所令和6年11月15日判決は、「原告が第三者に対する誹謗中傷を繰り返しているか否かと、被告が原告を誹謗中傷することが許されるか否かとは全く別問題である」としました。過失相殺が一部認められたのは、投稿者の一人が謝罪して争いを終わらせようとしたのに、被害者がそれをブログで公開して争いをあおったという事案(東京地方裁判所平成28年2月9日判決(平成26年(ワ)第4248号))です。
4. 請求が全部認められなかった18件
- 意見・論評、真実性・相当性(6件) 前記の津地方裁判所令和4年10月6日判決、東京地方裁判所令和6年9月2日判決、東京高等裁判所令和6年3月13日判決のほか、政治家への貸付けの動機を推し量った記事を意見・論評とした東京高等裁判所平成28年1月28日判決などです。
- 同定可能性(4件) 前記の東京地方裁判所平成28年4月26日判決のほか、一部を伏せた姓名や勤務先の記載だけでは原告と読み取れないとした東京地方裁判所平成28年10月14日判決などです。
- 社会的評価を下げると読めない(4件) 氏名に続けて「詐欺師」と書いた投稿について、原告が詐欺の加害者か被害者かも特定し難いとした東京地方裁判所平成28年9月8日判決、比較サイトの「強制オプション」という記載をキャンペーンの条件を示したものと読んだ同令和6年6月21日判決(令和5年(ワ)第30932号)などです。
- その他(4件) 対立する個人間のチャットや閲覧範囲を限ったSNSでの発言の責任を否定した判決、肖像権の侵害が受忍限度を超えないとした判決、著作権の翻案に当たらないとした判決と、次の7で触れる相殺の合意で請求が棄却された判決です。
請求の前に、投稿が名誉毀損などの要件を満たすかを、これらの判決の基準で確かめておくことが、費用倒れを避ける前提になります。
5. 認められる額の水準
判決で認められる額は、慰謝料(法人の場合は無形損害)、投稿者の特定にかかった費用、訴訟の弁護士費用(認められた額の1割程度)を合わせたものです。投稿者に支払を命じた判決77件の認容額の中央値は57万2000円で、4件に1件は24万円以下、4件に1件は118万円を超えています。慰謝料だけの中央値は50万円、請求額に対する認容額の割合の中央値は15%です。判決ごとの金額は「ネット上の誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」で、近い事案と比べることができます。
特定にかかった費用 この費用の扱いを判断した判決26件では、全額を認めたものが11件、一部が9件、独立の項目とせず弁護士費用などの中で考慮したものが5件、認めなかったものが1件でした(「投稿者の特定にかかった費用は取り戻せるか」)。その集計の後にデータベースに加えた2024年4月以降の判決28件では、全額を認めたのは4件(うち2件は投稿者が額を争わなかったもの)で、20件は相当な範囲に限るか対象の投稿数で按分し(うち7件は写真などの著作権侵害の事案)、3件は弁護士費用の中で考慮し、1件は認めませんでした。東京地方裁判所令和6年11月26日判決は、投稿者が欠席した事案でも、68万2000円のうち30万円に限っています。横浜地方裁判所令和6年11月20日判決は、IPアドレスと電話番号の二つの経路のどちらでも特定できたことなどから15万円に限り、東京地方裁判所令和6年9月4日判決(令和5年(ワ)第26849号)は、被害者である会社の代表者が投稿の翌日には投稿者を認識していた可能性を否定できないとして、開示手続の必要性を認めませんでした。
事業者の損害 会社や医療法人などには、慰謝料に代えて無形損害が認められます。前記の東京地方裁判所令和6年7月16日判決は、医療法人に無形損害として100万円、院長に慰謝料50万円を認めました。一方、売上の減少や取引の喪失などの逸失利益は、請求した9件のいずれでも、投稿との因果関係が認められていません。動画の投稿を休んだ期間の広告収入(東京地方裁判所令和6年4月23日判決(令和6年(ワ)第4486号))、クリニックの売上(同令和6年7月16日判決)、顧問契約の見送り(東京高等裁判所令和2年1月23日判決)などです。イベントの中止による逸失利益を認めず、慰謝料の算定で考慮した判決もあります(東京地方裁判所立川支部令和5年12月13日判決)。事業者が被害を受けた場合の論点は「会社・店舗の誹謗中傷」にまとめています。
6. 金銭以外に判決で認められたもの
- 投稿の削除 請求に削除を含む31件のうち、不法行為が認められた25件では、19件で投稿者に削除が命じられました(控訴審で維持されたものを含みます)。投稿者本人が掲示板の投稿を消せると認める証拠がないとして削除請求を退けた判決(東京地方裁判所平成28年3月17日判決)や、公共の利害に関する投稿は、真実でないことなどが明白で重大かつ著しく回復困難な損害のおそれがある場合に限られるとして削除を認めなかった判決(東京地方裁判所令和5年1月23日判決(令和3年(ワ)第11879号))もあります。サイトの運営者に削除を求める方法は「投稿の削除」の記事をご覧ください。
- 再投稿・再掲載の差止め 2件で認められています。東京地方裁判所平成28年8月25日判決は、弁護士の警告の後も中傷やなりすましを続けた元顧客に、原告を識別できる情報の公開と、原告の死を求める言葉の表示を禁じました。東京地方裁判所令和7年3月14日判決は、仮処分の執行を逃れるためにレンタルサーバーを変えて掲載を続けたサイトについて、記事の削除に加え、記事の全部または一部の複製の掲載を禁じました。違法な記事が既に削除されているなどとして差止めを認めなかった判決もあります(東京地方裁判所平成28年6月2日判決(平成26年(ワ)第13397号))。
- 謝罪広告・謝罪文 民法723条に基づく謝罪広告・謝罪文の掲載は31件で求められましたが、命じた判決はありません。賠償と削除で社会的評価が相当程度回復すること(東京地方裁判所令和6年4月23日判決(令和5年(ワ)第8390号))、原告自身が発信の手段を持っていること(同令和5年7月10日判決(令和3年(ワ)第11881号))などが理由です。謝罪を求めるのであれば、示談の条件にするのが現実的です。
- 再発の防止 判決で命じられるのは、上記の差止めまでです。再投稿をしない約束は、示談で定めるのが通常です。
7. 開示で知った情報の扱い
開示で得た投稿者の氏名や住所は、請求や訴訟、告訴のために使うものです。開示を受けた側がこれをネットで公表し、責任を問われた判決が3件あります。
- 東京地方裁判所平成30年1月25日判決 被害者が、開示判決の事件番号とともに、開示や住民票で知った投稿者の氏名・本籍地・現住所・勤務先を掲示板に22回投稿した事案です。開示を受けた発信者情報をみだりに用いることを禁じたプロバイダ責任制限法(当時)4条3項にも違反するプライバシー侵害とされ、投稿者側の精神的損害は22万円とされました。被害者の慰謝料は1万円にとどまり、相殺の合意によって請求は棄却されています。
- 東京地方裁判所令和6年8月26日判決 開示請求訴訟で相手の情報の開示を受けた事実などを、SNSで繰り返し投稿した事案です。「報復ないし嫌がらせをして私憤を晴らす目的で行った疑いがあるものといわざるを得ず」として公益目的を否定し、内容が真実であっても損害額で考慮するにとどまるとして、55万円の賠償を命じました。
- 東京地方裁判所令和7年9月11日判決 開示命令を得た側が、投稿者の代理人から届いた通知書の画像を、氏名の1か所を隠し忘れたまま約10分間Xに載せ、意見照会への回答書の画像も公開した事案です。フォロワーが約26.7万人いたことから10分程度でも受忍限度内とはいえないとされ、プライバシー侵害と公表権侵害で合計6万6000円が認められました。
開示の結果や相手の反論を報告したくなることはありますが、公表は示談や訴訟とは別の紛争を生みます。経過の公表は、少なくとも解決までは控えるのが安全です。
8. 投稿者が支払わない場合
135件のうち104件の判決には、主文に「仮に執行することができる」という仮執行宣言が付いています。仮執行宣言が付いた判決に基づいて、確定を待たずに強制執行の手続をとることができます。遅延損害金は不法行為の時から付き、主文の利率は、2021年以降の判決の多くで年3%、それより前の判決では年5%です(2020年4月の民法改正で法定利率が変わったため)。
投稿者が任意に支払わない場合は、給与や預金の差押えなどの強制執行をします。勤務先や預金口座が分からないときは、裁判所の財産開示手続や、金融機関・市区町村などから情報を得る第三者からの情報取得手続(民事執行法)を使います。いずれも費用と時間がかかり、収入も財産もない相手からは回収できません。当事務所のデータベースには、判決後の回収そのものを扱った判決はありません。
当事務所の経験では、判決の後に投稿者が自ら支払う例が6〜7割ほどで、残りは強制執行などを検討することになります。統計を取ったものではなく、おおよその目安です。示談で分割払いにする場合は、支払が滞ったときの扱いも合意しておきます。
9. ご相談について
投稿者の氏名・住所の開示を受けた方、開示の手続中で投稿者への請求を検討している方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と開示の結果をお知らせいただければ、上記の判決に照らして、認められる額の見込みと、示談・訴訟の見通しをお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。
関連する解説
10. 引用判決の一覧
- 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースに収録している判決のうち、請求に損害賠償を含む301件から、被告が投稿者本人である135件(2013年〜2026年。一審117件、控訴審18件)を抽出した。請求が全部認められなかった18件は判決理由を読み、1件1理由で分類した。争点別の件数は、判決理由の骨子を検索したうえで該当判決を読んで数えた。投稿者の特定にかかった費用の28件は、「投稿者の特定にかかった費用は取り戻せるか」の集計(26件)の後にデータベースに加えた2024年4月から2026年7月までの判決である。同じ事件の一審と控訴審の判決をそれぞれ数えたものを含む。認容額の中央値(57万2000円・77件)は一覧の記事、慰謝料の中央値(50万円)と請求額に対する割合(15%)は「投稿者として損害賠償を請求された方へ」の集計による。
- 民法709条、710条、723条、724条、民事訴訟法259条(仮執行の宣言)、民事執行法196条以下(財産開示手続)、204条以下(第三者からの情報取得手続)、令和3年改正前のプロバイダ責任制限法4条3項
- 東京地方裁判所平成25年7月19日判決(平成24年(ワ)第23429号) 和解協議中も投稿を続けた元家主に慰謝料250万円を含む275万円を命じた。
- 東京地方裁判所平成25年12月2日判決(平成24年(ワ)第32832号) 投稿者に30万円を命じ、回線契約者への請求は棄却した。
- 東京地方裁判所平成25年12月6日判決(平成24年(ワ)第15320号) それ以前からの中傷は被告の投稿と認める証拠がないとした。
- 大津地方裁判所彦根支部平成27年1月22日判決(平成26年(ワ)第125号) 投稿者に195万円を命じ、同居の父の責任は否定した。
- 東京高等裁判所平成28年1月28日判決(平成27年(ネ)第5147号) 貸付けの動機を推し量った記事を意見・論評とし、請求棄却を維持した。
- 東京地方裁判所平成28年2月9日判決(平成26年(ワ)第4248号) 投稿者の一人について、被害者が争いをあおった経緯から過失相殺をした。
- 東京地方裁判所平成28年3月17日判決(平成27年(ワ)第413号) 同居家族による投稿の主張を退け、投稿者への削除請求は否定した。
- 東京地方裁判所平成28年4月26日判決(平成27年(ワ)第5753号) ペンネームと原告本人の同定可能性を否定し、請求を棄却した。
- 東京地方裁判所平成28年6月2日判決(平成26年(ワ)第13397号) 行為の一つを消滅時効で否定し、削除・差止め・謝罪広告は認めなかった。
- 東京地方裁判所平成28年6月2日判決(平成28年(ワ)第2674号) 被告欠席。請求275万円に対し55万円を命じた。
- 東京地方裁判所平成28年6月21日判決(平成27年(ワ)第36231号) 訴訟前の示談案の提示を考慮し、謝罪がないことによる増額を認めなかった。
- 東京地方裁判所平成28年8月25日判決(平成28年(ワ)第9918号) 警告後も中傷を続けた元顧客に100万円と投稿の差止めを命じた。
- 東京地方裁判所平成28年8月30日判決(平成27年(ワ)第8495号) 取材方法への批判を論評の域内とし、請求を棄却した。
- 東京地方裁判所平成28年9月8日判決(平成27年(ワ)第31815号) 「詐欺師」と並べた投稿について事実の摘示を否定し、請求を棄却した。
- 東京地方裁判所平成28年10月14日判決(平成27年(ワ)第33032号) ブログの人物が原告だと特定できないとして、請求を棄却した。
- 東京高等裁判所平成28年12月5日判決(平成28年(ネ)第4263号) 氏名のない投稿を検索等で特定できるとし、110万円の原判決を維持した。
- 東京地方裁判所平成30年1月25日判決(平成29年(ワ)第17594号) 開示で知った投稿者の情報を掲示板に載せた被害者の責任を認め、相殺の合意で請求を棄却した。
- 大阪地方裁判所平成30年9月20日判決(平成29年(ワ)第11605号) 約6時間後の釈明を元の投稿と一体に見ず、33万円を命じた。
- 東京高等裁判所令和2年1月23日判決(令和元年(ネ)第3668号) 刑事告訴の費用と顧問契約の逸失利益を損害と認めなかった。
- 津地方裁判所令和4年10月6日判決(令和3年(ワ)第38号) 県議の引用リツイートを公正な論評とし、請求を棄却した。
- 東京地方裁判所令和5年1月23日判決(令和3年(ワ)第11879号) 1件の投稿の名誉毀損を認め、削除と謝罪文は認めなかった。
- 東京地方裁判所令和5年7月10日判決(令和3年(ワ)第11881号) 投稿1件の削除と10万円を命じ、謝罪文は認めなかった。
- 東京地方裁判所立川支部令和5年12月13日判決(令和4年(ワ)第1480号) イベント中止の逸失利益を認めず、慰謝料の算定で考慮した。
- 東京地方裁判所令和6年2月8日判決(令和4年(ワ)第21828号) 遠隔操作と消滅時効の主張を退け、157万5000円を命じた。
- 東京高等裁判所令和6年3月13日判決(令和5年(ネ)第4204号) 判決報道を前提にした投稿に相当の理由を認め、請求を退けた。
- 東京地方裁判所令和6年4月23日判決(令和5年(ワ)第8390号) 110万円と投稿2件の削除を命じ、謝罪文は認めなかった。
- 東京地方裁判所令和6年4月23日判決(令和6年(ワ)第4486号) 被告欠席。調査費用100万円の全額を含む130万円を命じ、逸失利益は否定した。
- 東京地方裁判所令和6年6月4日判決(令和5年(ワ)第21439号) 回線契約者を投稿者と推認し、53万3500円を命じた。
- 東京地方裁判所令和6年6月21日判決(令和5年(ワ)第30932号) 比較サイトの記載は社会的評価を下げないとして請求を棄却した。
- 東京地方裁判所令和6年7月16日判決(令和5年(ワ)第18521号) Googleマップの口コミについて医療法人に120万円、院長に55万円を命じ、逸失利益と謝罪文は認めなかった。
- 東京地方裁判所令和6年8月26日判決(令和5年(ワ)第30134号) 開示を受けた事実をSNSで繰り返し投稿した者に55万円を命じた。
- 東京地方裁判所令和6年9月2日判決(令和5年(ワ)第21248号) 公益目的と真実性の証明を認め、請求を棄却した。
- 東京地方裁判所令和6年9月4日判決(令和5年(ワ)第26849号) 会社に10万円を命じ、開示費用は必要性がないとして否定した。
- 東京地方裁判所令和6年9月19日判決(令和6年(ワ)第268号) 5件のうち3件の名誉毀損を認め、開示費用は投稿数で按分した。
- 東京地方裁判所令和6年9月26日判決(令和5年(ワ)第2570号) 元患者を口コミの投稿者と推認し、90万円と削除を命じた。
- 千葉地方裁判所令和6年9月26日判決(令和3年(ワ)第2103号) 一連の投稿の慰謝料を一体として80万円とし、氏名のない初期の投稿は否定した。
- 東京地方裁判所令和6年11月15日判決(令和6年(ワ)第17628号) 被害者自身の言動を理由とする反論を退け、11万円を命じた。
- 横浜地方裁判所令和6年11月20日判決(令和6年(ワ)第2070号) 同じアカウントの他の投稿もあわせて読み、調査費用は15万円に限った。
- 東京地方裁判所令和6年11月26日判決(令和6年(ワ)第23293号) 被告欠席。開示費用68万2000円のうち30万円を認め、66万円を命じた。
- 東京高等裁判所令和7年1月22日判決(令和6年(ネ)第3901号) 論評の域を逸脱した投稿の削除と10万円を命じた。
- 東京高等裁判所令和7年2月25日判決(令和6年(ネ)第4968号) 「戦犯」とする投稿を事実の摘示とし、提訴後の投稿2件にも賠償を命じた。
- 東京地方裁判所令和7年3月14日判決(令和3年(ワ)第33644号) 記事の削除と再掲載の差止め、慰謝料等100万円を認めた。
- 東京高等裁判所令和7年6月26日判決(令和7年(ネ)第494号) 賠償金放棄の投稿は債務免除ではないとし、削除と55万円を維持した。
- 東京地方裁判所令和7年9月11日判決(令和6年(ワ)第70192号) 通知書と回答書の画像の公開について、プライバシー侵害と公表権侵害を認めた。

サイバーアーツ法律事務所 弁護士(東京弁護士会、2007年登録)。インターネット上の権利侵害に関する事件のみを扱う。