ネットで本名・住所・病歴を晒されたら|プライバシー侵害の判決408件

匿名で活動していたのに本名を書かれた、住所や勤務先、病気や家族のことをさらされた。こうした投稿は、書かれた内容が本当でも違法になることがあります。プライバシー侵害は、評価を下げたかではなく、知られたくない私生活上の事実を公開したこと自体が問題になるからです。ただし、氏名だけの書き込み、本人が自ら公開していた情報、具体性のない書き込みなどは、侵害が否定されています。

この記事は、当事務所の裁判例データベースのうちプライバシー侵害が争点になった408件(判決402件・決定6件、2013年〜2026年)を読み、どのような情報が保護され、どのような場合に否定されたのかを、情報の種類ごとに整理したものです。逮捕歴・前科は「逮捕歴・前科の投稿の削除」に、投稿が誰のことか分かるかという問題は「ハンドルネームへの中傷と同定可能性」にまとめています。

要点

  • プライバシー侵害は、私生活上の事実(またはそう受け取られるおそれのある事柄)で、一般の人の感じ方を基準に公開を望まず、まだ知られていない事柄を公開したときに問題になり、公表されない利益と公表する理由を比べて違法かどうかが決まります。
  • 名誉毀損と違い、書かれたことが真実でも違法になります。逆に、真実でない整形の噂のように、事実らしく受け取られるおそれがあれば侵害とされた例もあります。
  • 逮捕歴・前科を除く331件のうち、侵害を認めた判決は249件、一部で否定した判決は26件、全部否定した判決は55件です。匿名や活動名と結び付けた本名は肯定52件・否定2件、住所は肯定43件・否定4件で、病歴・障害・性的指向は、真実と受け取られないなどの事情がない限り認められています。
  • 否定された81件の理由は、具体性がない・推測や質問にとどまる(25件)、誰の情報か結び付かない(23件)、本人が公開していた・既に知られていた(22件)、氏名や年齢など秘匿性が低い(11件)、公共性があり公表の理由が上回る(10件)が中心です。
  • 投稿者などにプライバシー侵害を含む賠償を命じた17件の認容額は6万6000円から275万円、中央値は62万7600円です。17件中11件で、投稿者の特定にかかった費用の全部または一部が加えられています。

1. どのような場合にプライバシー侵害になるか

三つの要件と比較衡量 東京地方裁判所平成28年11月30日判決(平成27年(ワ)第1973号)は、プライバシー侵害には「公開された内容が私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であり,一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないと認められるであろう事柄であること,かつ一般の人々に未だ知られていないものであることを要する。」としています。この定式は東京地方裁判所昭和39年9月28日判決(いわゆる「宴のあと」事件)に由来し、データベースの多くの判決がこれに沿っています。そのうえで、公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比べ、前者が上回るときに違法とされます(最高裁判所平成15年3月14日判決)。

名誉毀損との違い 名誉毀損は社会からの評価を下げることが要件で、公共性・公益目的・真実性がそろえば違法でなくなります。プライバシー侵害では、真実であることは言い訳になりません。元家主が元入居者の私生活や家賃の滞納を氏名・勤務先・顔写真とともに動画で投稿した事案で、東京地方裁判所平成25年7月19日判決(平成24年(ワ)第23429号)は「家賃の滞納その他の上記摘示事実が真実であるかどうかという点は,被告の不法行為責任に消長を来すものではない」としました。逆に、真実でない事柄でも、整形の投稿について「原告が整形をしているということは,一般人に私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事実といえる」として侵害を認めた例があります(同令和3年7月16日判決(令和3年(ワ)第602号))。真実だという反論への対処は「真実性の抗弁」をご覧ください。

誰の情報か分かること プライバシー侵害も、投稿が自分の情報だと結び付くことが前提です。ただ、東京高等裁判所令和4年12月21日判決(令和4年(ネ)第4031号)は、氏名のない携帯電話番号の投稿について、「プライバシー権の侵害は、一定の主観的領域にとどまるべき情報が外部に公表されたか否かという基準によって判断されるべきもの」として、名誉毀損でいう同定可能性は要しないとし、開示を認めなかった原判決を取り消しました。

芸能人・経営者・議員 東京地方裁判所平成26年2月27日判決(平成25年(ワ)第27956号)は、「芸能人であることのみを理由に,直ちに,一般人に比してプライバシー権の侵害が成立する範囲は狭くなる理由を見出すことができない」としました。代表取締役の社内不倫や妻の病気も、公表されない利益が保護されるとされています(同平成26年1月31日判決(平成25年(ワ)第29013号))。これに対し、統一地方選挙の時期に現職の都議会議員の行状を報じた週刊誌記事は、公共性・公益性と掲載の必要性から侵害が否定されました(同令和6年3月26日判決(令和5年(ワ)第9953号))。

2. 数字で見るプライバシー侵害の裁判例

408件のうち、発信者情報開示を求めたものが322件、削除や差止めを求めたものが43件、損害賠償だけを求めたものが37件です。東京地方裁判所が373件を占めます。媒体は(重複あり)X が67件、5ちゃんねる・2ちゃんねるが67件、爆サイ.com が62件、ブログが31件、ホストラブが22件、Google 検索が12件、Instagram が9件、YouTube が6件です。

逮捕歴・前科など刑事事件の情報が中心の判決が53件、プライバシーを実質的に判断していない判決が24件あり、残る331件を以下で扱います。331件のうち発信者情報開示の294件では、開示を全部認めた判決が178件、一部認めた判決が90件、認めなかった判決が24件(ほか2件は削除とあわせた請求で退けられたもの)です。損害賠償の28件では、一部でも賠償を認めた判決が21件です。

3. 情報の種類ごとの傾向

情報の種類ごとに、侵害を認めた判決と否定した判決の数を示します(逮捕歴・前科を除く331件を読んで分類。1件の判決に複数の情報が含まれるため重複あり)。

4. 侵害が否定された理由

少なくとも一部の投稿でプライバシー侵害が否定された81件(全部否定55件・一部否定26件)の理由を、重複を含めて分類すると次のとおりです。

  • 具体性がない、推測や質問にとどまる(25件) 私生活上の事項を他人に尋ねるだけの投稿(東京地方裁判所平成26年5月30日判決(平成25年(ワ)第27608号))、成人向け作品の出演者と同一人物かを尋ねる投稿(同令和2年11月24日判決(令和2年(ワ)第6156号))、夫の不倫が真実ならという仮定を述べる投稿(同令和3年10月6日判決(令和2年(ワ)第27445号)。「プライバシー権の侵害の前提となるプライバシーの公表行為自体がないものといわざるを得ない」)が否定されています。ただし、疑問の形をとっていても内容から事実を示すと読まれれば侵害とされ(前記の同令和4年9月16日判決)、結論は文面と前後の流れで分かれます。
  • 誰の情報か結び付かない(23件) 前記の東京地方裁判所令和3年5月31日判決、同令和4年7月22日判決のように、投稿だけでは本人の情報と分からないものです。本名をほのめかす投稿の5日後の投稿で初めて本人と結び付いた事案では、「権利侵害の明白性は,あくまで当該投稿時点において判断されるべきものであるから,投稿2を考慮して権利侵害の明白性を判断することは相当ではない」として、前の投稿の開示は認められませんでした(同平成29年8月30日判決(平成29年(ワ)第12188号))。
  • 本人が公開していた、既に知られていた(22件) 前記の出身校や年齢のほか、本人がアカウントの管理者であることを明らかにし、公開記事や SNS でも示していた氏名・旧姓などが否定されました(東京地方裁判所令和5年3月14日判決(令和4年(ワ)第7714号))。ただし、公開の範囲と目的が違えば保護は残り、24時間で消える Instagram のストーリーで公開を許した写真を匿名掲示板に貼った投稿は侵害とされました(同令和3年3月4日判決(令和2年(ワ)第23135号))。写真については「写真の無断転載」もご覧ください。
  • 秘匿性が低い(11件) 氏名だけ、年齢、家族構成の一般的な記載などです(前記の同令和4年10月24日判決、同令和4年1月19日判決)。
  • 公共性があり、公表の理由が上回る(10件) 前記の議員の記事のほか、ネット上で注目を集める活動をする人への仮処分や強制執行の状況の公表は、社会的意義や必要性が相当程度あるとして否定されました(東京地方裁判所令和8年8月18日判決(令和7年(ワ)第21237号))。著名な経営者の新居の所在を報じた記事(前記の同平成28年11月30日判決)や、官報や登記で閲覧できる会社の破産の事実(東京高等裁判所平成30年7月2日判決(平成29年(ネ)第5296号))も同じです。

5. 開示・削除・賠償の結論と損害額

開示 開示請求では大半で開示が認められ、名誉毀損を判断せずプライバシー侵害で足りるとした判決もあります(前記の東京地方裁判所令和3年1月19日判決)。書かれたことが本当かどうかの争いに入らずに済む場合があります。

削除 逮捕歴以外でも、人格権に基づく削除が認められています。事件の被害者の家族が、被害者の死亡の経緯を書いた掲示板の投稿の削除を求めた事案では、家族のプライバシーとして削除が命じられ(東京地方裁判所令和5年4月14日判決(令和4年(ワ)第13086号))、不倫を示し続ける Facebook・Instagram のアカウントについてはアカウント自体の削除が命じられました(同令和5年6月15日判決(令和4年(ワ)第32267号))。手続は「投稿の削除」をご覧ください。

賠償額 投稿者などにプライバシー侵害を含む賠償を命じた判決17件の認容額は、6万6000円から275万円で、中央値は62万7600円です。慰謝料の額が分かる13件では3万円から250万円、中央値は50万円です。多くは名誉毀損や侮辱とあわせたものです。主な例は次のとおりです。

  • 氏名・住所・勤務先・顔写真を私生活の動画とともに削除後も繰り返し掲載した事案で、「特に,原告の顔写真,氏名,住所等の個人情報を執拗に掲載し続けた点は極めて悪質である」として、慰謝料250万円、計275万円(前記の東京地方裁判所平成25年7月19日判決)
  • 元配偶者が性的な写真を複数回掲示板に掲示した事案で、掲示について慰謝料150万円・弁護士費用15万円(東京地方裁判所平成28年12月14日判決(平成28年(ワ)第7388号))
  • 源氏名について過去の成人向け作品への出演歴と整形を書いた投稿で、慰謝料80万円、開示費用36万5000円の全額を含む計128万1500円。実名や広く知られた通称が晒された場合と比べ「本件投稿による精神的苦痛の程度は限定的といえる」とされました(同令和6年5月7日判決(令和5年(ワ)第14145号))
  • 豊胸手術をしているとの短い投稿で、信ぴょう性が高く評価されないとして慰謝料10万円、調査費用38万5000円を含む計53万3500円(同令和6年6月4日判決(令和5年(ワ)第21439号))

ペンネームの作家の本名と居住建物の投稿では、一義的な明示でなく読者も広くないとして慰謝料30万円とされたように(前記の東京地方裁判所令和6年5月10日判決)、慰謝料は情報の性質、実名か源氏名か、回数と執拗さ、読者の範囲で増減しています。特定にかかった費用の扱いは「投稿者の特定にかかった費用は取り戻せるか」、名誉毀損を含む全体の相場は「誹謗中傷の慰謝料・損害賠償額の一覧」をご覧ください。

6. 被害を受けた側が気をつけたい点

開示で知った投稿者の情報をネットに載せると、今度はこちらがプライバシー侵害の責任を負います。開示で知った投稿者の勤務先などを掲示板に22回載せた側について、プロバイダ責任制限法4条3項にも違反するプライバシー侵害とされ、相手の損害が22万円と評価されました(東京地方裁判所平成30年1月25日判決(平成29年(ワ)第17594号))。開示請求で特定した投稿者について、情報を開示された事実などを繰り返し X に投稿した側に、55万円の賠償が命じられた例もあります(同令和6年8月26日判決(令和5年(ワ)第30134号))。また、かつらの着用を明かした投稿についてプライバシー侵害は明らかとされながら、プロバイダの調査で該当する通信記録が見つからず、開示が認められなかった例もあります(東京地方裁判所令和5年9月26日判決(令和4年(ワ)第28553号))。投稿の画面と URL、投稿日時、前後の投稿を早めに保存しておくことが出発点になります。

7. 引用した判決

8. ご相談について

本名や住所、勤務先、病歴、家族のことなどを書かれ、投稿者の特定や削除、損害賠償をご検討の方は、メールフォームからご相談ください。原則として翌営業日までに回答します。投稿の内容と、書かれた情報をこれまでどの範囲に明かしていたか、前後の投稿の流れをお知らせいただければ、上記の判決に照らして見通しをお伝えします。見通しが立たない投稿については、その旨をお伝えします。費用についてはFeeをご覧ください。

関連する解説

資料

  • 民法709条・710条(不法行為)、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)5条1項(開示請求の要件)、東京地方裁判所昭和39年9月28日判決(「宴のあと」事件)、最高裁判所平成15年3月14日第二小法廷判決(民集57巻3号229頁)、最高裁判所平成29年1月31日第三小法廷決定、最高裁判所令和4年6月24日第二小法廷判決
  • 集計の対象: 当事務所の裁判例データベースのうち争点にプライバシーが含まれる408件。要約と判決理由の骨子を読み、情報の種類、判断、否定の理由を手作業で分類した(重複あり)。逮捕歴など刑事事件の情報が中心の53件と、プライバシーを実質的に判断していない24件は種類別の集計から除いた。賠償額は17件の主文と骨子による。